このほどボクシングのWBCのベルトが刷新され、各階級を代表するチャンピオンの顔写真が2人ずつ飾られることになった。
「ヘビー級はマイク・タイソンとレノックス・ルイス。ミドル級はマービン・ハグラー、ウェルター級はシュガー・レイ・レナード。そしてミニマム級がリカルド・ロペスと僕なんです」
 照れながら、そう話すのは日本プロボクシング協会会長で、大橋ジムを主宰する大橋秀行。ミニマム級(WBCの正式呼称はストロー級)王座を22回も防衛し、無敗のまま引退したレジェンドのロペスは当然として、1回しか防衛に成功していない大橋にすれば「驚くほどの好待遇」である。

「指導者になってWBCの世界王者を3人育てたことも評価されたんでしょうが、それ以上にロペスと戦ったことが大きかったと思います。WBCの総会に出席して“元世界王者の大橋です”と言っても、あまり反応はない。しかし、“リカルド・ロペスにベルトを奪われた大橋です”と自己紹介したら、途端に出席者の目の色が変わりますからね。“あのロペスと戦ったのか”と……」

 WBC世界ストロー級王者の大橋がロペスをチャレンジャーに迎えたのは1990年10月のことだ。対戦前のロペスの戦績は26戦全勝(19KO)。“最強のチャレンジャー”の看板に偽りはなかった。5回TKO負け。「ロペスは完成品。全くボクシングをさせてもらえなかった」。試合後、大橋はサバサバとした表情で、そう振り返った。

 あれから24年――。「これも何かの縁ですよね」。苦笑を浮かべて大橋は語り、続けた。「彼には言いましたよ。“同じ時代に生きているからこそ戦えるんだ。オマエは幸運なんだぞ”とね」

 愛弟子であるWBC世界フライ級王者・八重樫東の4度目の防衛戦の相手は、WBA世界ミニマム級、同ライトフライ級元王者のローマン・ゴンサレス。「軽量級最強」との呼び声も高い。戦績は39戦全勝(33KO)。「もう片道燃料で突っ込むしかない」。八重樫は既に腹をくくっている。

 決戦は2カ月後の9月5日。大橋は言う。「もしチャンスがあるとすれば、相手が倒しにきた時。これ以上は言えません」。不安の谷と高揚の峰を行きつ戻りつしながら、審判の日を待つ。

<この原稿は14年7月9日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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