「型破りとは型のある人がやるから型破り。型のない人がやったら、それは型なし」
 生前、歌舞伎役者の中村勘三郎が、よく口にしていた言葉だ。伝統芸能におけるイノベーションとは、もちろん前者であり、後者は単なる邪道に過ぎない、ということか。
 柔道男子60キロ級世界王者の高藤直寿(東海大3年)の試合を見るたびに、この言葉を思い出す。彼の技芸は「型破り」なのか、それとも「型なし」なのか。柔道界でも見方は2つに割れていたが、昨年の世界選手権(ブラジル・リオデジャネイロ)で初出場初優勝を果たし、ネガティブな見方を完封した。

 彼の技は、いつ、どんなタイミングで繰り出されるのか、全く予測がつかない。昨年の世界選手権でも準決勝で顔を合わせたキム・ウォンジン(韓国)には肩車と大腰で合わせ技一本。決勝のアマルトゥブシン・ダシダワー(モンゴル)戦では、一本こそ取り消されたが、足をとらない肩車で2度も相手をひっくり返し、優勢勝ちを収めた。

 融通無碍にして臨機応変。劇画にでも出てきそうな大技を、ここぞという場面で決められるのは、「僕は常々、どうすれば相手の背中を(畳に)つかせられるか。それだけを考えてやっている」からに他ならない。逆算式で一本へのプランを練り、根気よく実行する。理詰めの外連とでもいうべきか。

 小柄な高藤はもともと奥襟を取りにくる相手が苦手だった。その対抗策として足取りからの投げに活路を求めたが、国際柔道連盟のルール変更により、反則となった。普通の選手ならスタイル改造に乗り出すところだが、高藤は違った。「自分の柔道を否定し、違う柔道をやって勝ったとしても、それは自分じゃない」。では、どうしたか。「足がダメなら、腰を持って投げればいい」。プロレスでいうフロントスープレックスをはじめ、幾通りもの投げ方を持つ「高藤スペシャル」は、彼の独創力の賜物である。

 その高藤、先日、4歳年上の女性と学生結婚していたことを発表した。11月に第1子を授かる予定で、いわゆる“できちゃった婚”のようだ。

 芸能界なら珍しいことではないが、公序良俗が尊ばれ、作法や所作を重んじる柔道界では、そう滅多にある話ではない。随所で「型破り」ぶりを発揮する21歳が妙に頼もしく映るのは、近年、“草食系男子”が増え過ぎたせいか……。

<この原稿は14年8月6日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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