今から約15年前のこと……。1999年11月28日(日)、当時、四国リーグに参戦していたアマチュアチームの愛媛FCは、同年のJ2リーグにおいて優勝を成し遂げ、J1昇格を果たしていた川崎フロンターレと「第79回天皇杯 全日本サッカー選手権大会」で1回戦を戦った過去がある。
(写真:アウェイ側スタンドに設置された「伊豫魂」幕)
 その年の愛媛県サッカー選手権大会を勝ち抜き、優勝を果たした愛媛FC。トップチームとしては記念すべき、初の天皇杯出場となった。1回戦の試合会場は、愛媛県総合運動公園陸上競技場(現ニンジニアスタジアム)。愛媛の応援のため会場に駆け付けた私は、まだ芝生席だったゴール裏席に陣取り、ひとりで「エヒーメ! エフシー!!」とコールをしたり、選手たちへ必死になって拍手を送っていたことを、今でも時折想い出す。その頃は、サポーターグループは存在しておらず、声出し応援サポーターは私だけだった。
 
 試合は、FW奥田真央選手のガッツあふれるプレーやMF二神洋幸選手の巧みなパスなど、愛媛の良い所もポイント的に見られたが、長時間に渡り、対戦相手の川崎にボールを支配され、自陣に押し込まれてしまう一方的な展開だった。

 当時、四国リーグ2連覇中とはいえ、学校の先生や社会人中心の完全なアマチュアチームであった愛媛に対し、相手はJ2覇者の川崎であり、実力の差は明らかであった。試合が進むと、その頃は無名だった川崎の新人FW我那覇和樹選手にも連続で得点を奪われ、最終スコア0−3で、愛媛は健闘虚しく敗戦を喫したのである。
 
 その後も、JFL時代の第84回天皇杯(2004年)の3回戦、J2参戦2年目の第87回天皇杯(2007年)の準々決勝においても川崎と対戦し、いずれも愛媛は勝利できず、苦杯を嘗めさせられている。愛媛にとって川崎は、天皇杯における「大きな壁」となってきた存在なのだ。
 
 そして、今年の第94回天皇杯。2回戦でファジアーノ岡山を下した愛媛は、8月20日に行われる3回戦へと進出。その対戦相手は、先述したように個人的にも因縁めいたものを感じている川崎。今回7年振りに、積年の恨みを晴らす絶好のチャンスを得ることができたのである。
 
「もう悔しい思いを繰り返すのは、嫌だ!」
 8月20日(水)、第94回天皇杯の3回戦となる川崎対愛媛の一戦が、等々力陸上競技場(神奈川県川崎市)にて行われた。
 
 平日のナイターということもあり、愛媛サポーターの集まりを心配していたが、地元・愛媛や関東、中部地方などから、およそ150名近くのサポーターが等々力まで駆けつけてくれた。
 
 日が暮れても蒸し暑さが残る中、試合がスタート! 
 序盤から両チームによる気合のこもった一進一退の攻防が続く。J1目下2位(8月20日現在)の強敵を相手に素晴らしい戦いぶりを魅せる愛媛。

「臆することなく、充分に闘えている!」
 そんな彼らに、歓喜の瞬間が訪れる。前半34分、センターサークル内でMF原川力選手からのパスを受けたFW表原玄太選手が敵陣中央をドリブルで駆け上がる。そのまま敵ペナルティーエリアまで、ボールを持ち込み、相手DFをかわしつつ、右足を鋭く振り抜き、グラウンダーのシュートを放った!

 ボールは、敵GKとクリアの体勢に入っていたDFの間をすり抜け、見事ゴールイン! アウェイ側ゴール裏スタンドに、大歓声が沸き起こる! 天高く両手を突き上げ、喜びを表現する表原選手! 
「スウィーギン、スウィンギン愛媛、フォーエヴァー!」
 サポーターは歓喜の大合唱! 続けて「オーオー魅せてくれ、おもてーはらー!」とヒーローを称えるチャントを繰り返す!
 
 その後も、愛媛が1点リードのまま試合は進んでいく。後半に入っても、愛媛が鋭いカウンター攻撃などを繰り出して川崎ゴールへと攻め込むシーンが見られ、サポーターの応援にも力が入る。
 
 しかし、終盤に差しかかると、川崎が継続的にボールをキープし、試合を優位に進め始める。さらに自陣深くまで攻め込まれ、再三に渡り、ピンチが訪れる。それでも愛媛はGK大西勝選手を中心にDF陣も踏ん張りを見せ、相手の得点を許さない。
 
 そして時計は進み、4分間のアディショナルタイムへと突入。いつになく長く感じる4分間の攻防。何年間もの思いや願いが詰まった時間が消化し、ついにはタイムアップ! 先制ゴールを守りきった愛媛が、最終スコア1−0でJ1の川崎フロンターレを見事に撃破し、ジャイアントキリングと長年のリベンジを成し遂げたのである!
 
 試合終了のホイッスルと同時に、誰彼構わず抱き合い、ハイタッチを繰り返し、喜びを分かち合うアウェイ側サポーターたち。ホーム側スタンドでブーイングが飛び交う中、愛媛サポーターによる「勝利の歌」がスタジアムにこだました。
 
 長年の呪縛を振りほどき、川崎に初めて勝利を収めた愛媛。クラブの歴史を見つめ続け、応援を続けてきた私にとっても、思いがけない贈り物をいただいたようで、本当に嬉しい勝利であった。厳しい気候の中、最後まで頑張ってくれた選手の皆には「素晴らしいプレゼントを、ありがとう!」と感謝の気持ちでいっぱいである。

 続く4回戦(9月10日開催)は、大宮アルディージャとの対戦となった。同じくJ1勢とアウェイ(NACK5スタジアム大宮)の地での戦いとなるが、川崎戦で魅せた闘志を忘れないで、再び巨大な敵へと立ち向かってほしいと思う。


松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>
 1967年5月14日、愛媛県松山市出身。
 愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。


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