今回から毎月1回更新する「リオの風」は、株式会社アライヴンとのタイアップコーナーです。2年後のリオデジャネイロ五輪、パラリンピックを目指すアスリートを毎回招き、アライヴンの大井康之代表との対談を行います。各競技の魅力や、アライヴンが取り扱うインヴェル製品を使ってみての感想、大舞台にかける思いまで、たっぷりと伺う予定です。どうぞお楽しみに! 
 記念すべき第1回は今秋のアジア大会の陸上十種競技で金メダルを獲得した右代啓祐選手の登場です。今回は進行役を二宮清純が務めます。


 練習はパズルの組み合わせ?

二宮: 十種競技は100メートル、走り幅跳び、砲丸投げ、走り高跳び、400メートル、110メートルハードル、円盤投げ、棒高跳び、やり投げ、1500メートルの順で2日間に渡って全種目を実施します。日本では決してメジャーではありませんが、欧米では盛んに行われており、その頂点に立つ選手は「キング・オブ・アスリート」と称えられるほどです。初回のゲストは、日本の「キング・オブ・アスリート」とも言える右代さんをお招きしました。

大井: アジア大会優勝おめでとうございます。やっぱり金メダルは格別ですよね。
右代: そうですね。4年前の広州大会では4位に終わり、メダルも獲れませんでした。諦めずにやってきたことが、このメダルにつながった。その意味では本当に価値のあるものになったと感じています。

大井: 大会では2日間で10種目をこなさなくてはいけません。試合中の集中力がとても大事でしょうね。
右代: そうですね。この前のアジア大会では、朝の9時半ぐらいに最初の種目が始まって、最後の種目の終了が夜の9時半過ぎ。間に昼休みもありますが、ほぼ12時間、競技場にいることになります。1日目が終わってベッドに入ったのは深夜1時半ぐらいです。翌朝は5時起き。体は筋肉痛でボロボロなのですが、2日目も12時間、競技が続きます。

二宮: もともとは走り高跳びが専門で、高校3年から混成競技(八種)に転向したそうですね。1種目だけに集中したら、もっと良くなるとの思いはなかったのでしょうか。
右代: 最初に転向を勧められた時は嫌でした。でも、実際にやってみると、いろいろな種目ができて楽しい。五輪に出ても1種目だけだと、予選落ちなら1本しかレースができません。十種競技は10回、スタジアムで競技ができる。その意味では、お得なのかなと、今ではプラス思考にとらえています。

大井: 走る、投げる、跳ぶと全部、練習をやらなくてはいけないのは大変ですよね。1日に何種目、練習するんですか。
右代: 週5日の練習で10種目を万遍なくできるようにしています。加えてウエイトトレーニングなど、やることはいっぱいありますね(苦笑)。その中で効率よく練習できるベストな順番を組み立てます。パズルみたいで、すごく難しいんです。

大井: うまくいかないと、途中で諦めたくなることもあるのでは?
右代: そんな気持ちになりかけることもありますが、「これは絶対、神様が与えた試練だ」と自分自身に言い聞かせます。これを乗り越えないと次はない。だから、どんな結果になろうとも全力でぶつかります。

二宮: 試練を乗り越えて、一回り成長できたと感じた出来事はありますか。
右代: それは、まさに今シーズンの日本記録更新ですね。3年前に8073点で日本記録を塗り替え、日本人初の8000点超えを達成した後、なかなか点数が伸びなくて苦しみました。トレーニングをして能力は上がっているはずなのに、成績が上がらない。どこに理由があるんだろうと、いろいろ悩みました。そして、昨年の秋、体の使い方の根本を学ぼうと、陸上のコーチではなく、体幹トレーニングのトレーナーさんの下へ大阪まで行って指導していただいたんです。そこで今までにない発見ができ、歯車がうまくかみ合ってきました。

二宮: 今季は2度、日本記録を塗り替え(現在は8308点)、アジア大会でも優勝と好調でした。変わったのは、具体的にどの部分でしょう?
右代: トレーナーさんのアドバイスで骨盤から鎖骨にかけての筋肉の機能を高めるトレーニングをしました。この部分が上半身と下半身をつなぎ合わせ、連動させるにはものすごく重要だそうです。どんなに筋力トレーニングをしても、動きが腕だけ、足だけと分かれていては効率が悪い。そこを改善したことが自己ベスト更新のきっかけになりました。

 荷物も他種目の10倍!

大井: さらに良い記録を出すために心がけていることは何ですか。
右代: やはりケガをしないことが一番大事です。ケガをすると復帰に2、3週間かかってしまって、トレーニングの計画が狂ってしまう。だから、食事や入浴、睡眠でどれだけ疲れを残さないかが重要なんです。

二宮: 栄養、休養もアスリートにとっては、練習の一部ですからね。
右代: 実は先日からインヴェルのリチャージを使わせていただいたのですが、寝ている間の疲労回復が全く違いました。しっかり休むために寝具の大切さを改めて実感しました。

大井: それはお役に立てて良かったです。インヴェルはブラジルの会社で、製品には繊維の表面にバイオセラミックが付着しており、遠赤外線で体を温め、血流を改善させる機能が備わっています。だから疲労回復にも効果があるんです。
右代: 今までは朝、起きた時に腰のだるさを感じて疲れが残っていたのに、これで寝ると、それが全くない。今年、子どもが生まれて、自宅では妻と3人で川の字になって寝ます。子どもが夜泣きをしなくなってグッスリ眠るんです。ビックリしました。妻も「これはいい」と絶賛しています。「もう外では寝られない」って(笑)。

大井: 靴の中に入れるインソールもありますから、ぜひ使ってみてください。ブラジルでは本場のサッカー選手が愛用しています。常に体に気をつかっているアスリートの方なら、より効果を実感できるはずです。
右代: 歩いていて疲労回復もできるなら最高ですね。

大井: コーチは種目によって違うんですか。それとも、ひとりの方が教えている?
右代: 僕の場合は5人のコーチがいます。投げる、跳ぶ、走ると、それぞれコーチがいて、全体を統括するコーチがいる。加えて体をメンテンスしてくれるトレーナーさんがいます。必要に応じて、各コーチに教えてもらうスタイルです。

二宮: 10種目で使用するスパイクや用具もそれぞれ異なるでしょうから、準備や持ち運びだけでも大変そうですね。
右代: 棒高跳びで僕が使っている棒の長さは5メートルもあります。海外の転戦となると予備も含めて8本くらい持っていくことになるので、それだけでも一苦労ですね。国内なら、まだ運送会社にお願いして送ることができますが、海外遠征ではそうはいかない。だから空港でチェックインの際に預けることになります。

二宮: 「何を持ち込もうとしているんだ?」と驚かれませんか。
右代: 「これは何ですか?」と質問されることはしょっちゅうです。やり投げのやりも棒高跳びの棒と一緒にケースに入れていきますし、円盤や砲丸も使い慣れているものを使いたいので重くても持っていきます。シューズも種目によって履き分けるので、それだけでキャリーバッグがひとつ埋まってしまいますね。着替えなども入れると、キャリーバックは2つ以上必要です。他の選手と比べれば荷物量は10倍多いでしょう。


 武井壮は尊敬する“師匠”

大井: 十種競技といえば、タレントの武井壮さんは元日本選手権優勝者だとか。親しいんですか。
右代: 武井さんには、以前、特別コーチとして指導していただいたことがあります。武井さんと出会って、トレーニングの考え方が変わりました。3年前に日本記録を更新できたのは、そのおかげです。

大井: ということは師匠格に当たるわけですね。
右代: そうですね。競技の先輩でもあり、指導していただいたことが僕にとっての転機になりました。今は芸能界で大活躍されていて、本当に尊敬できる方です。アジア大会後にお会いして金メダルを見せたら、「おめでとう」じゃなくて、「まぁ、アジアのメダルだからな」と言われました。そうやって叱咤激励してもらえる存在はとてもありがたいと感じています。

二宮: 武井さんがメディアにどんどん出ることで、日本でも十種競技の認知度が高まってきました。追い風が吹いていると感じるのでは?
右代: まだまだですね。確かに「十種競技選手」と自己紹介すると、「武井壮に負けんなよ」と声をかけられることは増えました(笑)。でも、海外で「何のスポーツ選手だ?」と尋ねられて、「デカスロン(十種競技)だ」と答えたら、「おぉー!」と尊敬のまなざしで見られる。ゆくゆくは日本でも十種競技ブームを起こしたいですね。フェンシングが五輪でメダルを獲って有名になったように、そのためには次のリオデジャネイロ大会で結果を出すことが求められると思っています。

大井: 十種競技の尊敬できる師匠であり、先輩が武井さんとのことですが、他競技で理想としているアスリートはいますか。
右代: 室伏広治さんですね。40歳になった今も現役で頑張っている偉大なアスリートです。実際に話をしていても、僕が考えていることより、2つか3つ上のランクの領域にいる。正直、ちょっと理解しきれない部分もあるほどの世界観を持っていました。

二宮: ハンマー投げで五輪金メダルを獲得するのみならず、東京五輪・パラリンピックでは組織委員会のスポーツディレクターに就任するなど、今ではスポーツ界のリーダー的役割も果たしています。
右代: 大学の教授にも就任して研究をしながら、競技を続けていますからね。スポーツ界の発展へ本当に多方面で活躍されています。僕自身、スポーツを通じて人間形成をさせてもらいました。スポーツがあったからこそ困難を乗り越え、新たな目標も見つかっている。たくさんの人との出会いもスポーツのおかげだととらえています。常日頃から、その感謝を持って競技を続け、恩返しができればと思っています。

 メダルまで、あと200〜300点

二宮: さて、いよいよ2年後はリオ五輪です。前回、初めて出場したロンドン五輪はどうでしたか。
右代: 世界のレベルの高さを感じたと同時に、まだまだ行けるという感触をつかめた大会になりました。

大井: ブラジルに行ったことは?
右代: まだ、ありません。五輪前に事前に行くことは今のところ考えていませんが、ブラジルには実力の近い選手がいるので、「一緒にどこかでトレーニングしよう」という話はしています。

二宮: 大井さんは仕事柄、ブラジルに行くことも多いのでは?
大井: 多い時は年に5回ほど行きました。昨年は2回ですね。じゃあ、リオでは右代さんのカバン持ちをしましょうか(笑)。
右代: いえいえ、とんでもないです(笑)。

二宮: 右代さんはリオデジャネイロでのメダル獲得を目標に掲げています。手応えは?
右代: 正直、十種競技で日本人がメダルを獲るのは現時点では考えられないことでしょう。でも、絶対に無理だとは思っていません。僕が日本記録を更新した時も、前の記録は20年近く破られていませんでした。93年に金子宗弘さんが出した7995点。「この記録を日本人が超えることはできない」と皆、言っていたんです。でも、僕は「日本記録更新を目指す」とずっと宣言していました。その結果、3年前に記録を更新できたんです。

二宮: その金子さんでも五輪には出場できなかったわけですから、いかに世界の壁が厚いかがわかります。
右代: その後、8300点を目標に掲げた時も、周りからは「厳しいんじゃないか」との声が多かったんです。でも、僕は「絶対にできる」と信じていました。実際、今年、8300点を突破できましたからね。まだ2年あることを考えれば、五輪のメダルも不可能ではないと考えています。

大井: メダル獲得となると、どのくらいの点数が必要なのでしょうか。
右代: 8500〜8600点あたりがメダルのラインになりますね。現状、僕が十種目すべてでベスト記録を出すと、8600点台に乗る計算になります。

二宮: となると、少しずつの上積みで手が届く位置には到達すると?
右代: はい。もちろん、すべての種目でベストを出し続けることは難しいので、決して簡単なことではないと自覚しています。でも、底上げをしていけば無理ではない。取り組むことはたくさんありますけど(苦笑)、その分、今は一番、やりがいを感じています。

(おわり)

右代啓祐(うしろ・けいすけ)プロフィール>
 1986年7月24日、北海道生まれ。中学1年から陸上競技を始め、主に走り高跳びを専門とする。高校3年で混成競技(八種)に転向し、高校3年時には同種目で全国高校総合体育大会(インターハイ)2位に入る。国士舘大学、大学院を経てスズキ浜松アスリートクラブ入り。10年の日本選手権十種競技で初優勝すると、同年のアジア大会では4位に入った。11年には日本選手権で8073点の日本記録を樹立。日本人で初めて8000点を超える快挙だった。同年の世界選手権大邱大会に出場すると、翌年のロンドン五輪に同種目日本人48年ぶりの出場を果たす。13年は世界選手権モスクワ大会を経験。今年は4月に日本選抜陸上和歌山大会で3年ぶりに日本記録を更新すると、6月の日本選手権では更に記録を塗り替える8308点と高得点を叩き出した。仁川アジア大会では日本人24年ぶりの金メダルを獲得。身長196センチの恵まれた体躯からのパワー系の種目を得意とする。
>>ブログ『どさんこデカスリート右代啓祐の「キング・オブ・アスリートへの道」』

(構成・写真/石田洋之)

(このコーナーは第1木曜に更新します)