第281回 ブルックリンの光は消えるのか 〜移転3年目にして停滞、ネッツの未来〜

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「大半の読者はほとんどブルックリン・ネッツに興味がない。ネッツには好選手はいるけど、一般の関心を呼べるスターがいない。唯一面白いのはケビン・ガーネットくらいだが、最近はあまりメディアと話さないからね」
 NBAの2014-15シーズンが始まって約1カ月の11月下旬のこと――。ネッツの報道を減らす方向だというある大手メディアの記者が、筆者にそう語ってくれた。その彼は、同じニューヨーク市内でも比べものにならないほどに話題豊富なニックスの番記者に転向するという。
(写真:チームの顔役が期待されたデロン・ウィリアムスもかつての輝きを失ったままだ Photo By Gemini Keez)
 1957年9月に幕を閉じたMLBのドジャース以来、初めてブルックリンに本拠を置くプロスポーツチームとして、ネッツは2012年に華やかにスタートを切った。シックな装いの本拠地バークレイズセンターのオープンに際し、ロシア人オーナーのミハイル・プロホロフ氏がこう語ったのは記憶に新しい。

「人生のうちで、街の運命が変わる瞬間を目撃できる人はそれほど多くはいるわけではない。新たなシンボルであるバークレイズセンターのオープンを目撃できた我々も、幸運であると言ってよいのだろう」

 しかし……それから2年強が過ぎ、ニュージャージーからブルックリンに移転した新球団の新鮮味は消えてなくなった。ケビン・ガーネット、ポール・ピアースらを獲得して必勝態勢で臨んだ昨季も、結局はプレーオフ第2ラウンドで敗退。今季は最初の17戦で8勝9敗と出遅れ、上位進出の期待は薄れ始めている。

 このチームづくりの過程でドラフト指名権を譲渡してトレードを行ったため、1位指名の権利は2019年まで保持していない。FA選手を獲得するために必要なキャップスペースも残っていない(NBAではサラリーキャップ規定がある)。現戦力が頭打ちなだけではなく、将来的なポテンシャルも感じられない。こんな現状を見る限り、高齢のスター選手を集めるギャンブルは失敗したと判断せざるを得ない。 
(写真:勝利の使者となるかと思われたケビン・ガーネットも、加齢とともに神通力をなくしてしまった Photo By Gemini Keez)

 こうして停滞する間に、新しいもの好きなニューヨーカーのネッツに対する興味はすでに薄れてしまった感がある。本人はとりあえず否定しているが、プロホロフオーナーが早くも球団経営権を譲渡するとの噂まで飛び出す始末。そんな状況では、冒頭で挙げた地元メディアの判断も仕方ないのだろう。

 もっとも、その一方で、悪い面ばかりではない。ニュージャージー時代と比べて、ビジネス面の数字は伸びてはいる。ニュージャージーでの最後のシーズンとなった11-12シーズンはチケット収入はリーグ27位だったのが、昨季は5位。11-12シーズンには最下位だったグッズ売り上げも昨季は7位だった。リーグ屈指の不人気チームだったニュージャージー時代と比べれば売り上げが伸びるのは当然とはいえ、マンハッタン在住の筆者の目にも、最近はネッツグッズをまとった若者が格段に増えたように思える。

 ただ、残念なのは、ネッツの存在はいわば“ファッション”に止まってしまっていることである。黒を基調としたお洒落なグッズは人気だが、それは元小規模オーナーだったラッパーのJay-Zの人気にもあやかったチームのファッション性に惹かれてのもの。バークレイズセンターを訪れるファンの大部分が“熱狂的”と呼ぶにはほど遠く、ゲーム中は静まり返っている時間帯が多い。
(写真:チーム側の努力も虚しく、ネッツの試合中はアリーナが静かなことが多い Photo By Gemini Keez)

 そして、チームが停滞するうちに“ハネムーン期間”は終了。新鮮味が乏しくなると、期待に応えきれなかったネッツへの注目度は薄れてしまった。今季は平均観客動員数で30チーム中20位にとどまり、今では地元紙などでもネッツ関連の記事は隅に追いやられる有様となっている。

 この2年強の間に、ネッツに熱狂的なファンは生み出せなかった。ニューヨーク市内で真の意味での呼び物となるには、時間と実績が不可欠。移り気なニューヨーカーを惹きつけるために、ファッション性だけでなく、ファンを心底から熱狂させる強くて魅力的なロースターが必要になってくる。

 そんなチームになるために、ネッツは今後、どこに向かうべきなのだろう? デロン・ウィリアムス、ブルック・ロペス、ジョー・ジョンソンの“ビッグスリー”を主体とした現在のロースターでも、プレーオフ進出は可能ではある。

「ライオネル・ホリンズHCのシステムに選手たちも徐々に慣れていくはず。そうなれば、ブルックリンは怪物的チームになるよ」
 12月3日にネッツに敗れたサンアントニオ・スパーズのグレッグ・ポポビッチHCはそう語り、ネッツのポテンシャルを認めていた。

 ただ、そうは言っても、現在のメンバーでは過去2年同様、プレーオフ第2ラウンド以上に進むのは難しいのではないか。ニューヨーカーを惹きつけるために必要なのは、中途半端な成功ではない。プレーオフの大舞台でドラマチックな勝利を挙げ、彼らを興奮、歓喜させなければいけない。

 そのために……原型チームの解体を、ここで考え始めるのも悪くはないように思える。ウィリアムス、ジョンソン、ロペスといった選手たちは、フランチャイズの大黒柱には物足りなくとも、即座に優勝を狙うチームを何らかの形で助けることはできる。それぞれの高給を考慮しても、移籍マーケットに出れば少なからず興味は持たれるだろう。
(写真:原型メンバーのままで大きな向上の余地があるとすれば、眠れるビッグマン、ブルック・ロペスが完全開花したときか Photo By Gemini Keez)

 彼らとの交換で若き好素材を獲得し、ドラフト指名権を取り戻せば、近未来への布石となる。今から手を打ち始めれば、NBAの新テレビ契約のおかげでサラリーキャップが拡大する2016-17シーズンには再びの大補強が可能になる。実際に獲得できる可能性がどれだけあるかは別にして、2016年夏にFAになるケビン・デュラント(オクラホマシティ・サンダー)の受け入れ準備も整うはずだ。

 このような大掛かりな変革を実行すれば、これまでのチーム作りは失敗だったと認めることになる。負けず嫌いなロシア人オーナーにとっては屈辱的だろうし、今季中のプレーオフ進出も微妙になるかもしれない。

 ただ、現在のネッツは英語でいう「irrelevant(重要ではない、取るに足らない)」なフランチャイズになる手前にいる。だとすれば、何らかの方向転換は必須である。昨今のリーグで問題視される露骨な“タンキング”(ドラフト上位指名権を狙って意図的に下位に沈むこと)ではなく、あくまで当面の勝利を目指しつつ、少しずつ力を蓄える地道なやり方で、改めてチームづくりを進めるべきではないか。

 大枚を叩く方法で一気にエリート入りを狙った新球団のプランは、残念ながら功を奏さなかった。せっかちなニューヨークにおいて“致命的な出遅れ”とならないために、少し違った方向に進む必要がある。逆に言えば、それができなければ、ブルックリンに久々に灯った希望の光は風前の灯となってしまいかねない。その危機を避ける機転と度量が首脳陣にあるかどうか。

 1957年にドジャースが去って以降、一部のブルックリナイトは新たな“マイ・チーム”を手にする日を待ち続けていた。そんな彼らを誇らしい気持ちにさせられるかどうかは、ここから先のネッツのリカバリー次第である。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY

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