NBAの2014-15シーズンが開幕し、もうすぐ1カ月――。今年も多くの実力派チーム、フレッシュな新鋭チームが台頭し、全世界のファンを喜ばせている。
 中でも最高級の注目チームを選ぶなら、イースタン・カンファレンスではクリーブランド・キャバリアーズ(以下・キャブズ)、ウェスタン・カンファレンスではサンアントニオ・スパーズだろう。今回はこの2つのパワーハウスの可能性を探りながら、今シーズンのNBA全体の行方も占っていきたい。
(写真:レブロン・ジェームスにとってキャリア最大の挑戦が始まった(写真はヒート時代のもの) Photo By Gemini Keez)
【怪物の新たな挑戦】

 29歳にして、すでに4度もリーグMVPを獲得した現役最高選手、レブロン・ジェームスが、4シーズンぶりに故郷チームのキャブズに復帰した。カイリー・アービング、ケビン・ラブとともに魅力的なトリオを形成し、2014-15シーズンに挑んでいる。この新ビッグスリーが1年目でファイナル進出を果たせるかどうか。これこそが、今季のNBAで最大の見どころと言ってよい。

 キャブズは序盤の10戦を終えた時点で5勝5敗と、スタートダッシュに失敗している。平均得点こそリーグ5位だが、最初の9戦中7戦で100失点以上とディフェンス面で苦戦。おかげで100得点未満に終わったゲームでは0勝4敗と、点の取り合い以外の勝ちパターンを見出せていない。

 レブロンがドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュとともに“スリーキングス”を結成したマイアミ・ヒートでの1年目(2010-11シーズン)も最初の17戦で9勝8敗と苦しんだ。チームづくりには時間がかかるもので、出遅れにも大きな心配はいらないと思うかもしれない。

 ただ、気になるのはキャブズにはレブロン、アンダーソン・バレジャオ以外にディフェンスの良さで知られる選手がほとんどいないこと。そして、主力の中に勝利の味を知るメンバーが少ないこと。ウェイド、ユドニス・ハスレムといった優勝経験のあるベテランを擁していたヒートと、今季のキャブズの最大の違いはそこにある。

「(キャブズを頂点に導くことは)僕にとって初優勝よりも難しい。勝利に何が必要かを理解するべく、若手選手たちを導かなければいけない。負けが続くと、悪い癖が染みつくもの。それを振り落とすにはしばらく時間がかかるだろう」
 レブロンの言葉にある“悪い癖がついた若手たち”が、アービング、ディオン・ウェイターズ、ラブらを示していることは明白だ。特にアービング、ラブは大きな才能を秘めたスーパースター候補ではあるが、これまで一度もプレーオフに出たことのない選手たちでもある。
(写真:素質はお墨付きのアービングだが、NBAでの過去3年、チーム成績はすべて負け越しだった Photo By Gemini Keez)

 若きタレントにディフェンス意識と勝利への意思を植えつけ、今季中に勝てるチームに仕上げられるかどうか。開幕直後の戦いぶりを見る限り、簡単な作業には思えない。現時点で投票でも行なえば、好スタートを切ったシカゴ・ブルズをイースタンの優勝候補を挙げる関係者の方が多いに違いない。
 
“選ばれし男”の呼称を欲しいままにしてきたレブロンにとって、本人の言葉通り、キャブズでの仕事は過去最大のチャレンジかもしれない。
 逆に言えば、この荒削りなパワーハウスを率いてファイナルの舞台に返り咲くようなことがあれば、“キング・ジェームス”のキャリアに大きな勲章が加わる。難しいがゆえに、故郷での戦いはやり甲斐のある挑戦のはずである。

【初の連覇なるか】

 本来ならば、新体制になったばかりのキャブズより、昨季王者のスパーズを真っ先に取り上げるべきなのだろう。しかし、去年のファイナルでレブロン率いるヒートを蹴散らしたロースターのほぼ全員が残ったスパーズは、良い意味で変化に乏しいチーム。過去17年連続でプレーオフに出場した安定感抜群の強豪は、今年も間違いなく上位進出を成し遂げるはずである。

 この黄金期を支えてきたのは、ティム・ダンカン、トニー・パーカー、マヌー・ジノビリの元祖“ビッグスリー”。2002-03シーズンからチームメートであり続けた3人は、これまで合計686試合を一緒にプレーしてきた。
(写真:今季限りでの引退の噂もあるダンカン。偉大なキャリアに”連覇”の勲章を加えられるか Photo By Gemini Keez)

 この数字は現役トリオとしてはもちろん最多で、史上3位の大記録である。3人で挙げた勝利数は504勝で、これはセルティックスのラリー・バード、ケビン・マクヘイル、ロバート・パリッシュのトリオに次いで史上2位。また、プレーオフで挙げた通算117勝はトリオのNBA記録でもある。

「毎年、ここまでになるんじゃないかと考えてきた。互いの存在に飽き飽きしてしまうんじゃないか、同じ練習の繰り返しや、私の演説にうんざりしてしまうんじゃないかなと思って来た。(しかし、そうならなかったことは)彼らの本質を示しているのだろう。一緒にプレーすることを楽しみ、毎年また戻ってきて、可能な限り最高のチームになろうと挑み続けているんだ」

 自前の“ビッグスリー”の息の長さを、普段は辛口のグレッグ・ポポビッチHCも賞讃している。新陳代謝の激しさが特徴のアメリカンスポーツにおいて、長きに渡って揺るぎないスパーズのケミストリーは驚異的としか言いようがない。
(写真:リーグ最高の名匠ポポビッチ(左から2人目)を始め、聡明な首脳陣も鋼のような常勝チームを支える Photo By Gemini Keez)

 ただ、1999年以降に5度の優勝を果たし、“模範的なフランチャイズ”と呼ばれてきたスパーズもまだ成し遂げていない偉業がある。それは“連覇”。特に2003年からの5年間で3度も頂点に立ちながら、2年連続優勝は一度も果たしていない。さて、今季はどうか?

 最大のライバルと考えられていたオクラホマシティ・サンダーのケビン・デュラント、ラッセル・ウェストブルックが故障離脱し、最初の13戦中10敗と出遅れている。メンフィス・グリズリーズ、ゴールデンステイト・ウォリアーズ、ポートランド・トレイルブレイザーズといった今季好調のチームも、このペースを保てるかどうかは未知数。そんな状況下で、今季もスパーズが優勝候補の本命とみなされてしかるべきだろう。

 ダンカン(38歳)、ジノビリ(37歳)らの年齢を考えれば、2014-15シーズンが2年連続優勝への最後のチャンスとなる可能性は高い。今はまだスパーズの周囲は静かだが、来春のプレーオフの時期には、偉大な金字塔への挑戦が最大の話題となっていることだろう。

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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