10年目のシーズンは節目にふさわしい1年になりました。年間優勝を果たした徳島は独立リーグ日本一をリーグ勢では4年ぶりに奪回。NPBドラフトでも寺田哲也(香川−東京ヤクルト4位)、入野貴大(徳島−東北楽天5位)、山本雅士(徳島−中日8位)と3人が本指名を受けました。このところ負け越しが続いていた秋のみやざきフェニックス・リーグでも6年ぶりに勝ち越しています。
(写真:12月13日のリーグ10周年記念式典ではNPBに進んだ選手、審判、スタッフも多数駆け付けた)
 何より、ドラフト2位とリーグ史上最高順位で中日入りした又吉克樹がセ・リーグ2位の67試合に登板し、ブルペンの柱として活躍しました。リーグから育った選手が即戦力として使える。これを証明してくれたことは、今後のリーグにとって大きなプラス材料です。中日は独立リーグの選手を獲得したのが初めてだったため、地元の名古屋ではアイランドリーグをメディアでたくさん取り上げていただきました。一昨年、首位打者を獲得し、WBCで日本代表に選ばれた角中勝也(元高知、千葉ロッテ)に続き、四国以外の方にリーグの認知度をアップしてくれた点でも、彼の頑張りには感謝しています。

 昨季から新たに始めた高知のトライアウトリーグも、ここから入団したザック・コルビー(愛媛)、フレデリック・アンヴィ(高知)、首浦拓馬(香川)がチームの主力となりました。トライアウトリーグには21万円という決して安くない参加費を払ってくるだけに、選手たちのモチベーションは高いものがあります。最初は決して野球のレベルが高くなくても、意欲があれば場所を与えることで伸びる可能性がある。このことを発見できたのも大きな収穫です。

 今年もトライアウトリーグを実施して4選手が合格しました。この夏には米カリフォルニアのサマーリーグの球団と提携し、そこで活躍した選手にトライアウトリーグへ来てもらうという試みも始めました。さらに、このオフはBCリーグと合同で米サンディエゴとフロリダで海外トライアウトを開催し、アイランドリーグでは7名が指名を受けています。

 そして、この12月にはアジアの選手獲得においても新たな一歩を踏み出しました。シンガポールで主に15歳〜18歳の若い選手たちを集めて開かれたショーケースの場に参加したのです。2日間にわたってアジア中からやってきた選手たちのプレーをMLBスカウトや米国の大学野球の関係者がチェックし、好素材を発掘していきます。リーグからは私と徳島の坂口裕昭球団代表、中島輝士監督の3名で選手を見た上で、主催者ともコミュニケーションをとってきました。
(写真:12月6、7日のショーケースでは11か国・地域から選手、スカウト、関係者がやってきた)

 実はこういったショーケースは各地で展開されています。米国では選手から参加費(シンガポールでのショーケースの場合、750米ドル)を徴収し、スカウトにアピールする機会をセッティングすることが完全にビジネスとして成り立っているのです。いきなり、MLBから誘いを受けることは難しくても、アイランドリーグに来てもらって実戦を重ねれば化ける選手は出てくるかもしれません。我々も、こうした世界の野球界の流れに乗って、多国籍な人材を四国に集め、リーグで優秀な選手に育ててNPB、MLBに送り出す。そういった道筋をつくっていきたいと思っています。

 また仕組みの面でもBCリーグと共同で一般社団法人日本独立リーグ野球機構(IPBL Japan)の設立にこぎつけました。これにより、日本の独立リーグとして、ひとつの窓口ができ、国内外の野球団体との交渉がきちんと行えるようになりました。この11月、社会人野球を統括する日本野球連盟(JABA)が、独立リーグ退団選手に関する取扱要綱を改正しました。アイランドリーグ、BCリーグの退団者はプロ退団選手の登録人数制限(1チーム3名以内)の枠外となり、翌シーズンから選手としてプレー可能になったのです。

 この制限緩和はIPBLができたことと無縁ではありません。もちろん、肝心要のJABA所属選手の独立リーグ入りには、NPBと同様の制限(高卒・中退者は3年、大卒・中退者は2年)がかけられていますから、今後はその部分の改正も働きかけていきます。

 このようにリーグを10年継続した結果、日本球界でも独立リーグの存在が認められ、選手、指導者、審判、スタッフと多くの人材を輩出することができました。この点は設立当初からの目的を達成できたととらえています。これまでリーグを支えていただいたスポンサーや地元の自治体、ファンの皆さんには感謝の思いでいっぱいです。

 しかし、この先の10年、20年を視野に入れた時、果たしてリーグを継続、発展させられるのか。私は大きな危機感を抱いています。経営面では単年黒字を計上したところが出てきているものの、ずっと赤字が続いている球団があるのも現状です。観客動員も1試合平均600人程度で、大幅な改善がみられていません。

 10年間、リーグは選手育成と地域密着を2本柱に運営してきました。今後もその軸はぶらさずに継続していきます。ただし、残念ながら四国全体の人口は減少し、経済も右肩下がりです。今までのやり方では、いずれ行き詰ってしまうでしょう。

 四国に軸足を置きつつも、その枠にとらわれないリーグのあり方を――。10年やってきたからこそできること、これまでやってこなかったこと、発想もしていなかったこと……これら、すべてのアイデアを検討した上でリスクを背負ってでもチャレンジする。この姿勢を貫いてリーグを変革しない限り、未来はない。私はそう決断しました。

 こうして打ち出したのが来季からの改革案です。概要は13日にリーグの10周年記念式典でも発表しましたが、来季は前後期の期間を短縮し、インターバル期間中に選抜チームをつくって北米に遠征します。そして独立リーグの「アトランティックリーグ」と「キャンナムリーグ」に参戦して試合を行うのです。6、7月に20〜25試合を実施します。

 このプランは第一に選手をより過酷な環境に置き、成長を促す目的があります。2年目から現行の前後期制を続けてきて、正直、リーグにいることで満足している選手が出てきているのも事実です。週3〜4試合という緩やかな日程ではなく、もっと連戦で選手を鍛え、競争の中で力を伸ばしていきます。さらにトップクラスの選手には慣れない米国の環境を体験してもらうのです。日々の生活はもとより、ボール、マウンド、ストライクゾーン、パワーの違い……野球をする上での条件も日本とは大きく異なるでしょう。その中でいかに実力を発揮できるか。日程が短縮されても公式戦の試合数は極力、減らさない方針ですから、この北米遠征とフェニックス・リーグを加えれば、最大で年120試合前後の実戦を積むことになります。

 これでもNPB、MLBの年間試合数と比べれば少ないのですから、いかに厳しい世界かおわかりでしょう。選手たちは日米にまたがって試合を経験し、結果を残すことが、MLBやNPBで、より激しい生存競争を勝ち抜く上での基盤となるのです。

 前期から後期の中断期間で、各球団はチーム編成を見直します。遠征先のアトランティックリーグやキャンナムリーグなど外国から選手を新たに連れてきたり、他のリーグやチームからの補強もできるでしょう。当然、その中で前期で見切りをつけられた選手は、後期は契約を結ばない選択肢も出てきます。これまでは前後期の間隔がほとんどなかっただけに、各球団とも陣容を大幅に変更できませんでした。しかし、2カ月間で戦力に手を加えることで、後期はまた違った戦いをファンに提供できます。何より、選手にとっては前期の2カ月間で最初の生き残りをかけなくてはいけません。

 キャンナムリーグではリーグ選抜の試合は公式戦に組み込まれました。公式戦ですから当たり前のことながら相手は真剣勝負です。実は先方から「アイランドリーグが弱すぎるとリーグ戦にならない」とクギを刺されています。つまり、遠征でそこそこの成績を残さなければ、次年度は仲間に入れてくれない可能性もあるのです。ですから選手たちには、この北米遠征が継続できるかどうか、リーグの未来を背負って戦ってもらうことになります。文字どおりの「負けられない戦い」を日々、繰り広げてもらうことは、さらなるレベルアップに寄与するはずです。

 北米遠征の第2の目的としては、コスト削減と新たな収入機会の確保があります。シーズンを短くすることで、チームや試合開催にまつわる費用は少なくできます。また、2カ月の中断時に残った選手を活用して、練習の合間に野球教室やイベントを実施し、新たな事業を展開できるでしょう。

 もちろん、他のビジネスチャンスもできることがあれば、どんどんトライしていきます。昨年、プランとして掲げた動画配信ビジネスも、今回、実験的にリーグチャンピオンシップの全試合で定点カメラを設置し、インターネット中継しました。ファンサービスの観点からも、スカウトへのアピールの部分でも、映像で選手のプレーを見てもらうのは今後、必須になると考えています。来季以降、公式戦や北米遠征、トライアウトリーグの映像を配信できる仕組みづくりを、より進めていくつもりです。

 このように我々が改革を進めることが、日本の球界にも変化をもたらせるきっかけになるのではないでしょうか。国際化が進めば、NPBが独立リーグから外国人選手を獲得した場合の移籍金などのルールも、もっと明確に決める必要が出てきます。それが、ひいては日本人も含めた選手移籍の制度設計や、現状は中途半端な独立リーグの位置づけを変えることにもつながっていくはずです。選手のみならず、指導者や審判に対しても、NPBや他のリーグに採用された場合は育成報酬を球団、リーグが得られるスキームもつくっていきます。

 曲がりなりにもリーグを10年継続してきたことで、四国内では変化が生じつつあります。来春、香川県の丸亀市にオープンする新球場は、アイランドリーグをはじめとするプロ野球の開催を前提とした仕様になりました。私も5年前から球場設計の監修をさせていただき、ファンの皆さんも楽しめる器になっています。座席のカップホルダー設置といった細かい部分に加え、バックスクリーンにはスコアボードではなくLEDビジョンを設けてもらいました。ビジョンであれば、試合中はスコアボードとして、イニング間のインターバルや試合前後は映像を流すスクリーンとして活用できます。CMを流してスポンサー収入を増やしたり、使い道は広がるはずです。また、内外野の間にはバーベキューができるスペースもつくっています。

 こうしたファン目線の球場が完成したのも、リーグが公式戦を定期的に開催する見込みがあればこそでしょう。四国の球場は施設が不十分で、アクセスの悪いところが少なくありません。これが観客動員の伸び悩みの一因にもなってきました。今後はリーグの存在を前提にしてプロの興行をしやすい球場づくりや改修を行うところが増えてくることを期待しています。

 改善、改良を繰り返してリーグを維持してきた10年の歩みから、大胆な変革と挑戦を――。これが11年目からのテーマです。もちろん、すべてがうまくいくとは限りません。しかし、何もしなければ、何も新しいものは生まれないでしょう。日本球界のベンチャーとして発足したリーグは、これからも、その精神を忘れることなく前進していきます。多くの皆さんに、リーグの新たな一歩を知っていただき、応援していただければうれしいです。


鍵山誠(かぎやま・まこと)プロフィール>:株式会社IBLJ代表取締役社長
 1967年6月8日、大分県出身。徳島・池田高、九州産業大卒。インターネットカフェ「ファンキータイム」などを手がける株式会社S.R.D(徳島県三好市)代表取締役を経て、現在は生コン製造会社で経営多角化を進める株式会社セイア(徳島県三好市)代表取締役社長、株式会社AIRIS(東京都千代田区)代表取締役。10年10月にはコミックに特化した海外向けデジタルコンテンツ配信事業を行なうPANDA電子出版社を設立。アイランドリーグ関係では05年5月、徳島インディゴソックスGMに就任。同年9月からIBLJ専務取締役を経て、07年3月よりリーグを創設した石毛宏典氏の社長退任に伴って現職に。07年12月よりアイランドリーグCEOに就任。この9月に設立された一般社団法人 日本独立リーグ野球機構の会長も務める。
◎バックナンバーはこちらから