昨今のニューヨーク・スポーツ界が“暗黒の時代”を迎えているのは否定できない事実なのだろう。
 MLBのヤンキース、メッツはともに過去2年連続でプレーオフを逃し(メッツは8年連続)、NFLのジャイアンツ、ジェッツも今季の成績はどちらも負け越しで終わった。シーズン中盤を迎えたNBAでもニックス、ネッツが勝率5割以下で低迷し、プレーオフ上位進出はあり得そうもない。
(写真:復帰するハービーの右肩に、ウィルポン・オーナー、メッツファンの期待は注がれる Photo By Gemini Keez)
 注目度のやや低いNHLでこそレンジャーズが昨季、スタンリーカップに進出したものの、街全体が盛り上がったとは言い難い。東海岸最高のスポーツタウンと呼ばれてきたニューヨークのファンにとって、少々寂しい時間が続いていると言ってよい。そして……2015年こそ、この状況が変化するのだろうか?

 かつてはヤンキース、ジャイアンツをはじめ、例年少なくとも1チームは頂点に近づいたものだった。スポーツタウンの復活が可能だとすれば、再び、その主役になるチームがどうしても必要である。

 候補を選ぶならば、本来であれば、依然として多くのタレントと資金力を誇るヤンキース、今季最後の4戦中3勝と復調気配だったジャイアンツを挙げるべきに違いない。しかし、2015年最初のコラムである今回、筆者は独断と偏見で違うチームを選びたい。数年来の再建政策を続け、長期に渡って上位が争えるロースター構築を目指してきたメッツである。

 2006年以降はプレーオフから遠ざかり、過去6年連続で負け越したメッツへの信頼を失ったファンはニューヨークにも多い。ただ、生え抜き重視のチームづくりが徐々に実りつつあり、ここでようやくプレーオフ争いができるだけのロースターが整ったと見る関係者は少なくない。

捕手  トラビス・ダーノウ(昨年6月24日以降は打率.272、10本塁打、OPS.805)
一塁手 ルーカス・デューダ(昨季初の30本塁打)
二塁手 ダニエル・マーフィ(昨季172安打で初のオールスター選出)
三塁手 デビッド・ライト(オールスター選出7度)
遊撃手 ウィルマー・フローレス(昨季.251、6本塁打)
左翼手 マイケル・カダイヤー(2年前にナ・リーグ首位打者)
中堅手 ファン・ラガレス(昨季ゴールドグラブ賞獲得)
右翼手 カーティス・グランダーソン(2011〜12年に2年連続40本塁打)

先発
マット・ハービー(2013年オールスター先発)
ザック・ウィーラー(昨季11勝)
ジェイコブ・デグロム(昨季新人王)
バートロ・コローン(過去2年通算33勝)
ジョン・ニース(過去5年通算50勝)

ブルペン
ヘンリー・メヒーヤ(昨季28セーブ)
ヘウリス・ファミリア(昨季76試合で防御率2.21)
ボビー・パーネル(2013年に22セーブ)

 昨季は79勝83敗という成績に終わったが、メッツにとって収穫も少なくないシーズンだった。野手陣では打撃面でのツールに定評あるダーノウ、センターの守備ではリーグ最高級と評されるようになったラガレス、投手全盛の現代では貴重なパワー打者として確立したデューダといった若手が着実な成長を示した。
(写真:昨季後半でのダーノウの活躍はファンを喜ばせた Photo By Gemini Keez)

 あとは昨季、自己最悪級の不振に終わったライト、グランダーソンが復調すれば、深みのある打線になる。ライトの親友でもあるカダイヤーがFAで移籍し、ヤンキース時代からグランダーソンに馴染みのケビン・ロングが打撃コーチとして加わったのは好材料。特にサポート役がいた方が好成績を残す傾向にあるライトの復活は十分に期待できる。

 投手陣ではエース候補と呼ばれ続けてきたウィーラーが一本立ちし、デグロムは予想以上の活躍で新人王を獲得。そして、右肘のリハビリを終えた真打ちのハービーがついにマウンドに戻ってくる。さらに、マイナーでもノア・シンダガード、スティーブン・マッツといった好素材が出番が待っている。3本のエースに加えてブルペン、マイナーにも速球派が揃い、メッツは近未来に誰もが羨む投手王国となる可能性がある。
(写真:ウィーラーも真のエースへの飛躍が望まれる Photo By Gemini Keez)

 昨季にしても、実は7月5日以降に限ってみれば41勝34敗とまずまずの成績だった。今季はフィリーズ、ブレーブズといった地区のライバルが戦力ダウンしていることもあり、メッツのさらなる躍進を予想する声は増えている。

 ラスベガスのカジノの優勝予想でも、メッツのオッズは昨年末の時点でヤンキースと並んで25-1。ドジャース(13-2)、エンジェルス(8-1)、ナショナルズ(9-1)、レッドソックス、タイガース(ともに12-1)といった強豪には引き離されているものの、これまで格下扱いを受けていたヤンキースと同格という点にメッツの評価の上昇度が見えてくる。

 もちろん、メッツは伝統的に良い意味でも悪い意味で期待を裏切るのが得意なチームだけに、今季も楽観ばかりはできないという見方もある。
 そもそもチーム首脳陣が“勝ちにいく年”として狙いを定めていたのは2014年だった。さまざまな誤算に見舞われたとはいえ、その昨季も結局は負け越しに終わってしまった。そんなチームが強化に本腰を入れるのであれば、昨季はケガで49試合の出場に終わったカダイヤーよりも、もっとインパクトのある選手を獲得すべきだったとの声もある。

 中でもショートストップを任されそうなフローレスは守備面で力不足は否めないだけに、多少の犠牲を払っても、大型遊撃手のトロイ・トゥロイツキー(ロッキーズ/注:今後、トレード話の再燃、進展はあり得る)あたりを獲りにいっても良かったかもしれない。

 ただ……最近の数年は誰よりも、このチームを取材してきた日本人記者として、筆者はここで断言したい。長期的視野で少しずつ前に進んできて、ついに機は熟した。2015年、メッツはプレーオフの舞台に戻ってくる。

 全米を騒がせるような大補強は確かになかったが、主力を保持した上で、カダイヤーを獲得し、ロングを打撃コーチに迎えたのは理に適った動きだった。二遊間の守備は不安だが、まだ23歳のフローレスの伸びしろを信じたい。投手陣に関しては、特にてこ入れの必要がなかったほどに駒が揃っている。
(写真:ライトの復活なしにメッツの躍進はあり得ない Photo By Gemini Keez)

 フィリーズ、マーリンズからある程度の星を稼ぎ、昨季、4勝15敗と惨敗したナショナルズとの直接対決でその差を詰められれば、ワイルドカード争い参入は十分に可能。もしもナショナルズに誤算が続出した場合、2006年以来となる地区優勝に向かって突き進むこともあり得ない話ではない。

 2015年、秋――。勝利に飢えてきたニューヨークの街に、ベースボールの熱狂が蘇る。その主役となるのは、スケールダウンに歯止めがかからないヤンキースではない。いよいよ収穫の季節に突入しようとしているメッツである。

 これを“初夢”と呼ぶことなかれ。9、10月のブロードウェイに青とオレンジ(メッツのチームカラー)の紙吹雪が舞う日は、もう間近。そう信じるに足る戦力を、メッツはついに整えてきているのである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY


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