6434人の死者を出した阪神・淡路大震災から20年の節目の今年、オリックスが勝負に出た。補強に総額約42億円もの大金を投じたのは、球団の優勝に懸ける意気込みの表れである。
 埼玉西武の元主砲で米国で、昨季まで2年間プレーしていた中島裕之、2010年の打点王・小谷野栄一(前北海道日本ハム)を相次いで獲得し、新外国人もトニ・ブランコ(前横浜DeNA)、ブライアン・バリントン(前広島)と実績のあるところを揃えた。
 しかし最大の補強は国内FA権を行使していたエース金子千尋の引き止めに成功したことだろう。今季の戦力は、投打ともに最終戦まで福岡ソフトバンクと優勝争いを演じた昨季を上回る。

 オリックスは05年に近鉄と合併し、08年に本拠地を大阪に移したが、今でも神戸で年間10以上の開催試合を持つ。球団は優勝を犠牲者への供養にしたいと考えているようだ。

 神戸のまちが紅蓮の炎に包まれたのが95年1月17日早朝。プロ野球のキャンプはもう間近に迫っていた。

「こんな状況で本当にキャンプなんてできるのか」。懐疑的な声が方々から上がった。球団は選手や、その家族に配慮して「自由参加」とした。2月1日、全員が無事で宮古島に顔を揃えることができたのは奇跡といっていい。

 問題は本拠地の「グリーンスタジアム神戸」(現ほっともっとフィールド神戸)を使うべきか否か。一部には「神戸で野球などやっている場合か」という声もあり、この年に限って、本拠地を移すことも検討された。断を下したのは宮内義彦オーナーだった。「神戸で頑張っているところを見せないで、何が市民球団だ。大赤字だって構わないからやれ」

 4月1日、グリーンスタジアムでの開幕戦は3万人の観衆が集まった。「がんばろうKOBE」。それを合言葉に球団は11年ぶりのリーグ優勝を達成した。監督の仰木彬は生前、「震災で傷ついた地元・神戸を盛り立てようという特別な思いで団結したことが優勝につながった」と語っていた。

 悲しみのどん底で、果たしてスポーツには何ができるのか。非力ではあっても、決して無力ではないことを証明したのが20年前のオリックスだった。今季は優勝候補の一角を占める。まちの復興はなった。次は球団の復活である。

<この原稿は15年1月21日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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