「リオの風」は、株式会社アライヴンとのタイアップコーナーです。来年のリオデジャネイロ五輪、パラリンピックを目指すアスリートを毎回招き、アライヴンの大井康之代表との対談を行っています。各競技の魅力や、アライヴンが取り扱うインヴェル製品を使ってみての感想、大舞台にかける思いまで、たっぷりと伺います。
 今回はロンドン五輪のトランポリン競技で日本人最高タイの4位に入り、リオでは悲願のメダル獲得を目指す伊藤正樹選手の登場です。
 求められるメンタルの強さ

大井: トランポリンでは何メートルくらい跳ぶんですか。
伊藤: 僕は8メートルは跳ぶので、だいたいビルの3階くらいの高さになります。

大井: そんなに高く跳んだら、落ちるときには失神しそうです(笑)。重力と逆らって跳んだり、回転するのは日常では体験できないこと。トランポリンをやっていると、普段とは違う発想や思考の広がりがあるのではないでしょうか。
伊藤: そうですね。トランポリンは実際にやってみるのと、イメージとは全く違う。365日やっていても、毎日違う感覚になるんです。その日の気温や湿度、体調によって跳ね方が変わります。

大井: その時、その時で調整しなくてはいけないわけですね。
伊藤: 試合で、どのパターンが出るかはやってみなくてはわかりません。良いパターンで演技ができればいいのですが、悪いパターンの可能性もある。それが五輪の舞台であっても、いいパフォーマンスをしなくてはいけません。だから、日々の練習では、どんな状況でも同じようにパフォーマンスができるように考えながら取り組んでいます。

――ロンドン五輪ではノーミスの演技をみせ、一時は首位に立ちましたが、結果的には他の選手が上回り、4位でした。今、振り返ってみて、この結果はどうとらえていますか。
伊藤: 自分のやれることは80%出せた大会でした。もちろん、4位で悔しい気持ちもありましたが、初めての五輪で力を出せたことは自信になりました。その意味では次につながる4位だったのではないかと感じています。ロンドンがいいステップアップの材料になったと言えるためにも、次のリオが大事になりますね。

大井: 五輪でのメダル獲得へ必要な能力は?
伊藤: 技術はもちろん、メンタルの強さも求められると思っています。トランポリンは一発勝負なので、やり直しがききません。みんな、そこに照準を合わせてくるので、練習して技術を高めるのは当たり前です。その上で、約20秒の競技でどれだけ自分の力を最大限出せるか。最後は精神力が問われると考えています。

大井: 実力を出し切るためのメンタルが問われると?
伊藤: そうですね。本番では緊張して弱気になる選手もいる。そうすると演技が消極的になってしまいます。逆に「やってやろう」と強気になりすぎても跳びすぎてミスが出てしまう。やはり、大会で結果を出す選手は冷静に自分のことをわかっている。そういう心理状態になるには、日々の練習や大会で経験を積み重ねるしかないと考えています。

大井: トランポリンは今、どの国が強いんですか。
伊藤: アジア圏が強くなってきていて、中でも中国が一番の強敵です。北京、ロンドンと五輪は2大会連続で中国の選手が金メダルを獲っています。中国を倒すことが世界の選手たちの目標になっていますね。

大井: 体操競技でも中国は強いですよね。
伊藤: そうですね。中国は一発で決められるところに強さがある。演技性では日本でも負けていないのですが、難度の高い技を正確に決めてくるんです。そうすると僕たちは彼らを上回る演技をしなくてはいけないのでプレッシャーがかかってきます。

 世界選手権4位の収穫と課題

大井: 技術面では何が重要になりますか。
伊藤: トランポリンは高さ、技の難度、演技の美しさという3つの要素で評価される競技です。中でも見栄えの美しさは他の要素よりも重視されます。日本人は海外の選手にない表現力があって、他国の審判からも評価されているんです。ただ、まだまだ完成度が低いのでミスが出やすい。これは日々の反復練習で良くしていくしかありません。同じ2回宙返り、3回宙返りでも、他の選手が500回やるところを僕は1000回やる。それによって他の選手よりも技が簡単そうに見える段階まで持っていきたいと思います。

大井: 練習を重ねる中で自分なりの新技を生み出すこともあるのでしょうか。
伊藤: それはありますね。ある程度の基礎は一緒でも、そこからは努力次第。どう自分色の演技に染めていくか。トランポリンはひとりひとり違う個性が、どう評価されるかが勝負になります。

――新技は、どのようにイメージして編み出すのでしょうか。
伊藤: 基本的には他の選手の演技などを見ながら発想を膨らませます。それで自分にあったひねりや回転を加えて構成を考えますね。とはいえ、技の難度を高くしすぎて、演技点が落ちては意味がない。トータルのバランスも頭に入れなくてはいけません。

――たとえば、伊藤さんの強みは「高さ」ですから、その長所を最大限生かす構成になっていると?
伊藤: そうですね。ロンドン五輪では「高さ」が武器と言われながら、バランスを考えて高さを落とした演技になっていました。リオで本当に勝ちに行くなら、自分の良さを100%出しきらないとダメでしょう。今、リオに向けて取り組んでいる内容では、高さも一段階上げています。高く跳べば、その分、技も見せられる。これが決まれば、いい位置に行けそうな気がしていますね。現時点では失敗の確率も高いので、あと1年半くらいで完成度を上げていくつもりです。

――リオに向けた構成づくりに着手したのはいつ頃から?
伊藤: ちょうど1年前くらい前からです。リオから逆算して、どこまで難度を上げた構成なら間に合うかを考えました。当初は、それが今年中にできればいいなと思っていたのですが、想定よりも早く、昨年のうちにある程度、完成させることができました。その分、今年1年は演技を詰められる。もう少し難度も上げられる余裕もできたので、あとは海外の選手たちの演技や、どのくらいの評価をもらえるかを見ながら仕上げていきたいと思っています。

――昨年11月の世界選手権では4位でした。リオへの手応えはつかめましたか。
伊藤: 結果的には4位でしたが、2次予選では3位に入って、得点もロンドン五輪の点数を上回って自己ベストでした。たらればを言えば、決勝でもその点数を出せれば銀メダルでしたから、着実に力はついているのかなと感じましたね。ただ、それを決勝の一発勝負で出せなかった点は僕自身の弱さです。メダルを獲る力は証明できたけど、実際の結果にはつなげられなかった。収穫と課題の両方が見えた大会でした。

 入念なケアで故障予防

大井: 高く跳ぶためのコツは何でしょう。タイミングですか。
伊藤: タイミングとリズム感ですね。一番沈んだところをとらえて跳ねあがる力を利用する。僕は小さい頃からやってきて自然と、その感覚が身についているんだと思います。あとは沈んだ瞬間に何倍もの重力が体にかかるので、それに負けない体幹の強さも重要になりますね。

大井: ケガも多いのでは?
伊藤: 重力に逆らって跳んだり、回転したりするので、腰、ヒザにはすごく負担がかかります。僕も2年前に腰を痛めてしまって、座るのもつらい状況になりました。約半年、跳ぶことができなかったんです。

大井: となると体のケアがより大切になりますね。
伊藤: ケガをする前と比べると体のことを考えるようになりました。今はトレーナーの人にちゃんとケアしてもらいながら、自分でもストレッチなどを多くとりいれて予防に努めています。

大井: インヴェル製品のスリムベルトはピッタリでしょうね。遠赤外線の保温効果で腰周りを温かく包み、サポートします。
伊藤: ベルトを巻くことで背中がグッと真っすぐになる。姿勢も良くなりますね。

大井: 海外遠征することも多いとか。長い時間、座席に座るのも腰には良くないでしょう?
伊藤: 実は飛行機が一番苦手です(苦笑)。ヨーロッパに行くことが多くて片道12時間かかるのですが、なかなか眠れない。なるべく途中で席を立ってストレッチをしたり、体を動かすようにしています。

大井: それならインヴェルのリチャージスリムがおすすめです。飛行機の座席に敷いていれば、長時間移動でも心地よく眠れるでしょう。
伊藤: 時差調整で機内で寝なきゃいけない時に眠れないのが一番つらい。大会によっては本番2日前に現地入りすることもあるので、時差ボケのままではいい演技ができません。うまく寝られたらうれしいので、次の遠征が楽しみです。

 結果を出してメジャー競技に

――トランポリンはまだまだ日本ではなじみの薄い競技です。ただ、伊藤さんたちの頑張りで少しずつ認知度は高まっているのではないでしょうか。
伊藤: ロンドン五輪の前と比べれば確実に知名度は上がっていると思います。「ロンドン見たよ」「惜しかったね」という声も結構いただきました。でも、まだまだトランポリンを競技としてとらえている人は多くないと思っています。多くの人に知ってもらうためには、やはり五輪で結果を出すしかないと考えています。

大井: 環境面でも、企業に勤めながら競技を続けられる選手が少ないと聞きました。
伊藤: 就職して競技を続けているのは日本でも数えるほどしかいません。だからこそ、トランポリンをメジャーにしたい。五輪での結果はもちろん、いろいろなメディアを通じて競技を広めたい。まず僕たちの演技を一度、見てもらえるようにすることも仕事だと思っています。

大井: リオで試合をしたことは?
伊藤: まだないです。南米の大会に参加することがないので行った経験もありません。おそらく今年の夏に現地に行って、1年後を想定した時差や気候への対策を練ることになるでしょう。

大井: 日々、条件が変化するとなると、運も影響すると思いますか。
伊藤: はい。特に五輪は、“選ばれし人間が絶対に勝つ”と僕は考えています。どんなに実力があっても、“選ばれない人”もいる。そういった部分も含めての勝負だととらえています。

大井: “選ばれし人間”になるには、どうすればいいと?
伊藤: 小さい頃からなるべく良いことをするように心がけてきました。そして、競技に対して真っすぐ向き合ってきましたね。トランポリン一筋でやってきたので、これだけは他の人に負けたくない。五輪では日本はメダルを獲ったことがないので、それは僕がつかむものと信じています。

(おわり)

伊藤正樹(いとう・まさき)プロフィール>
 1988年11月2日、東京都生まれ。4歳のときにトランポリンに出合い、6歳から本格的に競技を始める。小学3年で第一期オリンピック強化選手に選ばれ、高校は練習環境の整った石川・金沢学院東へ。金沢学院大、金沢学院大学院に進んで競技を続け、圧倒的な高さと精巧な演技力で全日本選手権を5度優勝するなど数々の大会を制する。09年、11年は世界ランキング1位。11年の世界選手権では個人で銅メダルを獲得。12年のロンドン五輪では一時、首位に立ったものの、惜しくも4位だった。昨年はアジア選手権で優勝。身長167センチ。

(写真/金澤智康、進行役・構成/石田洋之)