なぜか右手をひらひらとさせながらファーストに送球する。長嶋茂雄のサードの守備には華があった。
 少年時代、この“右手ひらひら”を真似したご同輩は少なくないのではないか。
 かくも現役時代はサービス精神旺盛なミスターだったが、実はこれ、単なるパフォーマンスではなかった。


 ファーストの王貞治によれば、ミスターほど「素直できれいな送球の回転」はなかったという。
 元日からスタートした日本経済新聞の名物連載「私の履歴書」で、こう明かしている。
<長嶋さんはとにかく堅実だった。送球後の「右手ひらひら」はファンにウケたが、球筋にうわついたところはない。三塁線や三遊間のゴロに飛びついたときでも、考えられる限り最高の球を送ってきた>(1月20日付)

 過日、この話を福岡ソフトバンクの松田宣浩にすると、「長嶋さんは理に適った動きをされていたんだと思います」という感想が返ってきた。
「長嶋さんはファーストミット目がけて“見えない線”をつくっていたと思うんです。スーッと腕を伸ばしてボールを放るとラインができて捕りやすい。その象徴が“右手ひらひら”だったのでしょう。
 一方、送球の安定しない選手は引っかくようにして投げる。だからラインができず、必然的に捕りにくいボールになるというわけです」

 松田といえば、昨季、3年ぶりのリーグ優勝を決めるサヨナラタイムリーを放つなど“バッティングの人”というイメージが強いが、ゴールデングラブ賞に3度輝くなど、サードの守備にも定評がある。

 その松田が憧れるのが長嶋である。チームでは背番号5を付けているが、昨年11月の日米野球では侍ジャパンのサードのレギュラーとして「3」を背負った。

 いっそ、今季は“右手ひらひら”を披露してくれないものか。往年の長嶋ファンは随喜の涙を流すに違いない。

<この原稿は2015年2月16日号『週刊大衆』に掲載されたものです>


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