二宮: コーチにはいろいろなタイプがあります。手取り足取り厳しく指導するコーチもいれば、基本的には選手たちの自主性に任せるコーチもいる。選手を教える上で心がけていることは?
中西: 僕は選手にとっての兄貴分でありたいと思っています。締めるところは締めつつも、近寄りがたい存在にはなりたくない。コミュニケーションをとりながら、選手の考えや意見も聞き、その上で「チームとしては、こういう役割を任せたい」「この場面に合わせて準備してほしい」と伝えるようにしていますね。
(撮影:加藤潔)
二宮: 対話路線というわけですね。
中西: それが一番大事です。ただし、選手の意見を100%受け入れるわけではない。「ダメなものはダメ」とはっきり言うこともあります。こちらの考えがブレないようにはしていますね。

 上半身の動きはいじらない

二宮: 兄貴分でありたいとのことですが、若いピッチャーになると、息子でもおかしくない年の差です。ジェネレーションギャップを感じることはありませんか。
中西: そうですね(笑)。実際、僕の子どもよりも年下のピッチャーはいますからね。でも、言葉でしっかり伝えれば、年齢は関係ないと思っています。相手が理解するまで、しっかり説明する。そして反復練習をさせる。妥協を許さないことが大事ではないでしょうか。

二宮: 食事に連れて行ってコミュニケーションを図ることは?
中西: そういった方法をとることもありますが、連れて行くのはある程度、実績のあるベテランですね。ベテランに僕の考えを伝えることで、彼らが若手をうまくまとめてくれるかたちになるのが理想だと考えています。

二宮: 実際に指導するにあたっては、ピッチングをじっと見ていて、フォームの乱れや欠点を正確に指摘し、場合によっては修正させることも大事です。中西さんなりのチェックポイントは?
中西: 僕は下半身、ベルトから下の動きを見ていますね。極論を言えば、上半身は本人が投げやすいかたちであれば、どんな動きをしてもいい。上半身をいじって型にはめようとするとピッチングは狂ってしまいます。ピッチングは崩れるのは簡単。良くするのは本当に難しい。フォームがバラバラになってしまったら、ゼロからやり直しになってしまうんです。だから、ヒジの動きがどうとか、手首がどうとか、そういうことは基本的には言わないですね。

二宮: 土台がしっかりしていれば、自然といいボールは投げられると?
中西: そうです。まずは、スムーズに投げられるかたちを、自分なりにつかむことが大切です。それができたら、反復練習。何も考えなくても体が勝手に動いて、いいボールを投げられるのが一番ですね。

二宮: 1軍で活躍するためには、さまざまな要素が求められます。制球力も、そのひとつです。とはいえ、コントロールを磨くのは一朝一夕にできません。制球を気にし過ぎて、持ち味を失ってしまうピッチャーもいます。このさじ加減は難しいところでしょうね。
中西: 大胆、かつ緻密。両方のバランスが大切になります。どちらかだけでは結果は残せません。何より必要なのは、状況判断でしょうね。バッターを見て、ここは打ってこない、ここは要注意と見極められれば、思い切って投げていい場面とそうでない場面がわかる。マウンド上でバッターの動きを読み取れるだけの心の冷静さを持っておいてほしいですね。

 梅野はピッチャーがリードを

二宮: 投手コーチは先発ローテーションのみならず、中継ぎ陣の状態も踏まえて、やりくりが求められるポジションです。日程とにらめっこして、先の先まで計算が必要になりますね。
中西: もうキャンプの時点から、ずっと起用法は1カ月先を見据えています。ローテーションにしてもカードの境目になる木曜日と金曜日は長いイニングを投げられるスタミナのあるピッチャーがいい。対戦相手に応じて木曜と金曜の先発を入れ替えて中5日で廻したり、変更がききますから。

二宮: 甲子園は雨天中止もある。雨が降ると計算がやり直しになるでしょう?
中西: もう1回、組み直しです。お見せできませんが、1カ月の日程とローテーションを書いた紙を僕たちは持っていて、もう何度も修正していますよ。

二宮: 天気予報も気になるでしょうね。
中西: それは常にチェックしています。この日は雨が降りそうだなとなったら、ローテーションをずらして、その日に2軍の若いピッチャーを1軍に上げて使うかたちにしたり、考えなくてはならないことはたくさんあります。

二宮: チームの将来を考えると、先発陣では藤浪晋太郎投手が真のエースとしてどう階段を昇っていくかをファンも注目しているでしょう。3年目でホップ、ステップ、ジャンプと飛躍する年になるでしょうか。
中西: 投げ方も年々、進化しています。自覚も出てきました。15勝くらいできる力は十分持っています。勝ち星のみならず、今季は先発の柱として年間180イニングは投げてほしい。

二宮: 藤浪投手の投球回数は1年目が137イニング3分の2、昨季は163イニングでした。かつてエースの条件は年間200イニング以上投げることと言われてきましたから、その水準に近づいてほしいと?
中西: 昨季、(ランディ・)メッセンジャーが31試合に先発して208イニング3分の1でした。ただ、これは中4日、中5日で投げたのも含めた数字。中6日で回ると登板回数は26、27回ですから、200イニングを突破するのは簡単ではない。今は180イニング以上が主力としての最低ラインになります。藤浪の場合、明らかな課題は立ち上がりです。最初に球数が増えるとイニング数も伸びない。先制点を取られたら、追いかける打撃陣も大変です。

二宮: 春夏連覇した大阪桐蔭高のエースでしたから、高校時代なら少々、立ち上がりが悪くても味方が逆転してくれた面もあったでしょう。しかし、プロは序盤の失点が命取りになる場合も少なくない。
中西: その通りです。同じ大阪桐蔭出身の岩田(稔)も似たところがあって、立ち上がりが悪い(苦笑)。途中からは尻上がりに良くなってくるので、「オマエら、最初に1点、2点取られても大丈夫と思うとるやろ!」とよく言っていますよ。ウォーミングアップの方法、ブルペンで投げる球数、入り時間、どうすれば一番いい状態でプレーボールできるのか、1年間、意識を高く持って取り組んでほしいと思っています。

二宮: 投手陣をリードする女房役は今季、2年目の梅野隆太郎選手を正捕手として育てようとしています。経験不足はピッチャーがうまくフォローしていくと?
中西: うまく誘導していく必要があるでしょうね。試合中に梅野が迷ってベンチをチラチラ見るような状況が増えてしまうと、「悩んでいるな」と明らかにわかってしまう。当然、ゲーム前にはバッテリーミーティングをして、映像を見ながら、配球のシミュレーションをします。それでもピンチになると、どうリードするかは難しい。ベテランの能見(篤史)やメッセあたりには逆に梅野を引っ張ってもらうことになるでしょう。

(第3回につづく)
>>第1回はこちら

中西清起(なかにし・きよおき)プロフィール>
1962年4月26日、高知県宿毛市出身。高知商高時代は甲子園に4度出場。3年春はエースとして全国制覇を果たす。社会人のリッカーを経て、ドラフト1位で84年に阪神に入団。2年目の85年にはリーグ最多の63試合に登板し、11勝3敗19セーブの成績でリーグ制覇、日本一に貢献。最優秀救援投手のタイトルを獲得する。その後は先発に転向し、89年に10勝をあげると、90年には開幕投手に。96年限りで引退後は解説者を務め、04年から投手コーチとして古巣に復帰する。高校の後輩である藤川球児(現カブス)をはじめ、強力リリーフ陣の整備に尽力し、09年からは2軍を担当。13年から再び1軍コーチとなった。現役時代の通算成績は477試合、63勝74敗75セーブ、防御率4.21。



(構成:石田洋之)


◎バックナンバーはこちらから