日本サッカー協会(JFA)は28日、ドーピング規定違反をしたとして我那覇和樹選手(川崎)に出場停止処分を科したことに対して、スポーツ仲裁裁判所(CAS)がこれを取り消すよう求めたことを受け、記者会見を行った。裁定を踏まえ、Jリーグの鬼武健二チェアマンは「我那覇選手には1年間苦労をかけた。我々も反省すべき点もある。精神的に辛い思いをさせた部分もあったであろうし、申し訳なかった」と謝罪した。
(写真:会見に臨む鬼武チェアマン)
 この問題は昨年4月、我那覇が整理食塩水及びビタミンB1を静脈内に注入したことについて、Jリーグ側がドーピング行為にあたるとして我那覇に6試合の出場停止処分を科したもの。これを不服とした我那覇側が処分の取り消しを求めてCASに申し立てを行っていた。

 CASは27日、我那覇の主張を認め、公式試合6試合の出場停止記録の取り消し、また、Jリーグ側に仲裁費用、本件仲裁手続の関係でこうむった法的及びその他の費用について20,000ドルを負担することを命じる裁定を下した。今回の裁定は最終決定であり、覆すことはできない。

 鬼武チェアマンは裁定について「CASの裁定結果については真摯に受け止めます」と発言した。しかし、肝心の内容については「今回の仲裁の裁定においては、焦点となった静脈内注入が、正当な医療行為か否か、すなわちドーピング違反であったか否かについて明らかにしてほしいと、当事者の双方が望んでいた。にもかかわらず、裁定では、それが判定されることはなく、残念でもあり困惑してもいる」とコメント。「本決定は、ドーピングか否かに言及されず、将来に禍根を残すことが懸念される」と不満を述べた。

 裁定を受けJリーグは我那覇の6試合の出場停止を記録から取り消し、この間に得るはずだった出場給や勝利給などの補償について、今後検討していくことを明らかにした。しかし、クラブ側が支払った1000万円の制裁金については「この裁定を見る限り、返す論拠がない」として現時点での返納を否定した。


<川崎・我那覇「本当にうれしい」>

 一方、処分が無効との裁定を受けた我那覇も同日、クラブハウス内で会見を開いた。我那覇は「今はとにかく最高の結果が得られて本当にうれしい」と心境を語った。
(写真:「できればひとりひとりに御礼を申し上げたい」。支援者への感謝の思いを表す我那覇)

 今回、我那覇に対してはチームメイトや川崎のサポーターのみならず、クラブの垣根を越えて支援の輪が広がった。裁判費用を援助するための募金活動も行われた。我那覇は自らを支えた全ての人たちに感謝の言葉を述べるとともに、「これからピッチの上で恩返しをしたい」と、今後の活躍を誓った。

 昨年5月に処分を受けて以降、我那覇は公式戦で1ゴールもあげていない。今季もケガの影響でリーグ戦、カップ戦含めてわずか4試合の出場にとどまっている。“ドーピングの我那覇”と後ろ指を指されたこともあったという。「サッカーのパフォーマンスと本件は別」としながらも「この1年間は苦しくて悩んだ」と胸の内を正直に吐露した。

 しかし、「サッカーを裏切ることはしていない」と自らの潔白を訴え、それが認められた。「自分の信じた道を貫いてよかった」。吹っ切れたような表情で言い切った。

 Jリーグには「このようなことが選手の身におこらないでほしい」と再発防止を要望した。我那覇の弁護団は「6試合の公式戦出場停止を取消と言っても、過去の出来事になってしまう。今後、他の選手のためになるような措置をしてほしい」と何らかの救済を求めた。

 また、Jリーグ側が裁定の中で「(静脈注射が)正当な医療行為か否か判定されていない」との見解を出したことに弁護団は反発。「Jリーグの解釈に驚いている。文章をよく読んで欲しい。英語できちんと(正当な医療行為であるという趣旨は)書いてある」と困惑の表情を浮かべた。「全体を見れば、CASはJリーグの落ち度を指摘している。(リーグ側が)何もしないで“これでよかった”とはならない」と引き続きリーグ側の対応を注視していく姿勢を示した。