第7回 山根恵里奈(サッカー)「連覇へひるまず、諦めず」

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「リオの風」は、株式会社アライヴンとのタイアップコーナーです。来年のリオデジャネイロ五輪、パラリンピックや国際大会を目指すアスリートを毎回招き、アライヴンの大井康之代表との対談を行っています。各競技の魅力や、アライヴンが取り扱うインヴェル製品を使ってみての感想、大舞台にかける思いまで、たっぷりと伺います。
 今回は、この6月にカナダで開催されるサッカー女子W杯になでしこジャパン(日本代表)の一員として出場するゴールキーパー(GK)山根恵里奈選手の登場です。
[size=medium] 震災、故障を乗り越えて[/size]

大井: GKは他の選手とは違って特殊ですよね。
山根: そうですね。サッカーは11人のチームワークが大事と言われますが、孤独なポジションだと思います。

大井: 孤独感を、どのように乗り越えるのですか。
山根: もう、ひとりでやっていくしかないと今は考えています。以前は誰かに頼ったり、助けを求めようとしていましたが、きちんと孤独と向き合えるようになりました。もちろん、プレーにおいてはディフェンダーとの連携が必要なので、コミュニケーションはとりますが、自分自身の動きに関しては、ひとりで考えることが多くなりました。

大井: メンタルが強くないとできないポジションなんでしょうね。
山根: 私自身はメンタルが弱いと思っています。いい時はいいけど、悪い時は悪い。悪い時は負の連鎖にはまって、なかなか抜け出せないんです。周りの方からいろいろ言われたことを、悪い方に考えて流されてしまう。「ドンと構えて気にし過ぎないでやればいいんじゃないの」というアドバイスはよくいただきます。

大井: これまでのサッカー人生は紆余曲折があったそうですね。それらの経験がメンタルを強くしている面はあるのでは?
山根: たとえ悪い状態が続いていても、これ以上、悪くならないだろうとは思えますね。私の中で最悪の状況の時に逃げずに耐えたことが、今となってはプラスになったと感じています。視野も広がりましたし、自分の可能性を大きく持てるようになりました。

大井: 東日本大震災で所属していたクラブが活動停止になり、絶体絶命のピンチだったとか。
山根: ちょうど私自身も故障が重なり、サッカーを続けるかどうか悩み、苦しんでいた時期でした。でも、福島でお世話になった方々が、皆さん被災されて大変な中、私のことを気にかけてくださったんです。ここでサッカーを辞めたら、皆さんの思いを踏みにじることになる。周りの方々に、もう一度、サッカー選手として頑張ろうと背中を押してもらえました。まだ直接プレーする姿を見てもらえていないので、ぜひ機会があれば試合にご招待できればいいなと考えています。

大井: 性格的に人と比べて優れているなと感じる部分はありますか。
山根: やっぱり、明るくて元気なところでしょうか。年上の方でも物怖じせず、オープンにいける。皆さんからは「すごく元気をいただきます」とよく言ってもらえます。ただ、話しかける前にはちょっと遠めから相手を観察する部分はありますね。

――それはポジション柄でしょうか。
山根: そうかもしれませんね(笑)。背中から声をかけられるのも苦手ですね。

[size=medium] 試合中は一喜一憂しない[/size]

大井: キーパーはPKの時など勘の良さも求められると感じます。相手のシュートが右か左かといった読みはどのようにするんですか。
山根: まずキッカーのポジションを考えますね。フォワードの選手、中盤の選手、ディフェンスの選手に分類し、その上でプレーの特徴や性格、データを踏まえて、「この人、ここにきそうだな」と予測しますね。あとは、その時のボールの置き方、助走の角度、視線などを見て短時間で蹴る方向を判断します。

――読みが当たってシュートをセーブできた時はキーバーにとって最高の瞬間でしょうね。
山根: そうですね。ただ、シュートを止めたり、ピンチを防いでガッツポーズしているキーパーは多いですけど、私はそれができないんです。一度、試合中に感情を出すと、気持ちが緩んで次のプレーがダメになってしまうんじゃないかと思うんです。だから、なるべくポーカーフェイスを保つか、むしろ、真顔で「マークを外すんじゃない!」と味方に注意したりして、喜んでいる姿は見せないようにしています。

――なるべく平常心で次のプレーに集中すると?
山根: ホッとするのは味方が点を獲った時くらいですね。自分が止めた時は、またコーナーキックになったりしてピンチが続くことが多い。だから、次の準備をするほうが大切なんです。

大井: 後ろから全体を見ていると、流れの変化も感じやすいのではないでしょうか。
山根: それはわかりますね。たとえば、ずっと押しているのに点を獲れないと、だんだん味方の選手がイライラしてくる。特にキーパーと1対1のビックチャンスで外したりすると、“あぁ、今の外したか”とテンションが下がってしまうんです。逆に相手は耐えて耐えてきたので、「こっから行くぞ」と立場が逆転する。その意味ではキーパーは流れの変化に大きく関わってくるポジション。自分が崩れてしまったら、試合は終わりだととらえています。

[size=medium] 堂々とした振る舞いを[/size]

大井: キーパーは体格以上に存在感の大きさが求められるポジションだと感じます。いかがですか。
山根: その通りですね。私は何もしなくても「デカイ」と言われるんですが(笑)、プレー自体はまだまだ未熟です。世間的にも「山根はデカイだけ」という評価だと感じます。キーパーというポジションはひとりしか試合に出られません。控え選手への感謝の思いを忘れず、試合では絶対に諦めないで自分のプレーに責任を持つことが大事です。ピンチの時こそ大きい声を出して味方を鼓舞したり、意識を高く持ってピッチに立つように心がけています。実践できないことも多いので日々反省ですね。早く評価を覆せるように頑張りたいです。

――キーパーはひとりしか出られない分、責任感や周囲からの信頼感が求められるポジションではないでしょうか。その点で日頃から心がけていることはありますか。
山根: キーパーはミスが失点に直結してしまいます。でも、ミスを怖がっていたらチャレンジはできない。試合でミスをしないために、練習ではどんどんチャレンジすることが大事ですね。今は練習を無難にこなすのではなく、しっかりチャレンジして、いろんなものを得られたらと思いながら取り組んでいます。

大井: 私は縁あってペレ選手と会って話をする機会があったのですが、超一流の選手はサッカーだけでなく、すべてにおいて素晴らしい。他人への対応の仕方ひとつとっても、相手が大統領であろうと、街中のおじさんやおばさんであっても、小さな子どもであってもスタンスが変わらないんです。誰に対しても全く同じ態度で接するんですよね。やはり代表選手として一流を目指す上で立ち振る舞いも気をつけているのでしょうか。
山根: 私は日本サッカー協会が立ち上げたJFAアカデミーの1期生として高校の3年間を過ごしました。そのアカデミーではサッカー以外にも、さまざまなプログラムを勉強するんです。英会話やコミュニケーションスキルに、お辞儀や電話応対、食事の仕方といったマナーセミナー……。その中で堂々とした立ち振る舞いはどういうものか、きっちりと教えてもらいながら実践できるようにしてきました。

大井: リーダーとしての講習もあるんですか?
山根: アカデミーのフィロソフィとして、いつ、どんな時でも堂々とした立ち振る舞いで、社会の中でリーダーになりうる人材の育成を目指しているんです。寮生活でも、学校でも、サッカーの部分でもリーダーとして行動できるように、自然と植えつけられたところはあるかなと感じています。

――なでしこジャパンには澤穂希選手や、宮間あや選手といった優れたリーダーがいます。先輩たちの姿をみて学んだ点はありますか?
山根: そうですね。代表だと、どの方も素晴らしい技術を持ってるので、最初はなかなか自信が持てなくて一歩下がってしまう面があったんです。でも、昨年のカナダ遠征でサイドバックの近賀ゆかり選手に、こんな言葉をもらいました。「キーパーっていうのは、どんなに下手でも堂々としている方が安心する。技術も大切だけど、気持ちの部分もすごく大事」と。今後、それを実践していきたいですね。ひるむことなく一歩を踏み出して、先輩方に少しずつ近づきたいと思っています。

[size=medium] 4年前は観るのも嫌だった舞台へ[/size]

大井: 試合に向けてイメージトレーニングもするのでしょうか。
山根: 映像は見ますが、試合前にプレーは想像しないですね。良いプレーをイメージしたとしても、一緒に悪い映像も頭の中に出てきてしまう(苦笑)。なるべく試合は頭の中をゼロにした状態で入るようにしています。試合前日は好きなドラマやライブのDVDとかをひたすら見て過ごします。

大井: 極力、リセットした状態で臨むと?
山根: はい。で、当日、アップをしながら、「よし、行こう!」と徐々に気持ちを高めていくんです。

大井: 体のケアはどんなことに気をつかっていますか。
山根: 過去に膝の半月板をケガしたり、足首を骨折した影響か足がむくみやすいので、お風呂の中でお湯につけたり、外に出したりを繰り返してケアをしています。

大井: 遠赤外線の保温力を持つインヴェルのレギンスは試してみていかがでしたか。
山根: 履いて部屋の中で片付けをしていたら、ものすごく汗をかいたので、レギンスの効果かなと感じました。寝る時にも、すごく足が温まって上半身は半袖にしたほどです。

大井: 代表の佐々木監督とはどんな話を?
山根: 監督とは合宿や大会の最後に面談をする機会があります。昨年3月のアルガルベカップで初戦のアメリカ戦に出場した後、「試合を見ていて、オレは感動した」と声をかけていただきました。「高校1年でボールもまともに捕れない時から見ていたけど、同年代の選手でなかなか上に上がってこられる選手も少ない中、しっかりプレーし続けてきて、こういう舞台に立てる選手に育ってくれたことはすごくうれしかった」と。

大井: 監督はずっと期待してくれていたんですね。
山根: その言葉を聞いた時には、「やっていて良かったな」と率直に思いました。正直、下手なのに代表に呼んでもらっているのは「デカイだけだから」という思いもあったのですが、話をする中で、そうじゃないんだなと思える部分もでてきたんです。期待に応えるためにも、もうちょっと立派な姿を監督に見せられるようにしたい。それが今の目標になっています。

――なでしこジャパンのGKは、海堀あゆみ選手、福元美穂選手と経験豊富です。2人を上回って試合に出るには何が必要と考えていますか。
山根: 細かな技術や経験は絶対的に足りません。でも、それ以上の高さであったり、良い部分も私は持っている。その良さを発揮する気持ちの強さが重要だと思っています。2人の壁は厚くて越えるのは難しいでしょうが、何とか試合に出たいという思いでひるまずやっていきます。

大井: いよいよ始まるW杯、連覇の条件は何でしょう。
山根: 連覇は簡単なことじゃないと感じています。でも、日本の強みであるチームワークの良さや諦めないところを見せたいですね。私自身、4年前はサッカーを辞めようかと迷っていて、試合は全く観ていないんです。今回、観るのも嫌だった場所に立てるかもしれない。諦めなかったことで自分の立場や見える景色が変わってきました。支えていただいた方に恩返しできるよう、強い気持ちで臨みます。

(おわり)

山根恵里奈(やまね・えりな)プロフィール>
1990年12月10日、広島県生まれ。ジェフユナイテッド市原・千葉レディース所属。小学3年からサッカーを始め、中学2年からGKに転向。JFAアカデミー福島の1期生に選ばれる。高校時代から各年代の代表に選ばれ、卒業後、09年に東京電力入り。12年からジェフレディースへ。なでしこジャパンでは10年にデビューを果たし、14年のアジアカップ、アジア杯、今春のアルガルベ杯などに出場。カナダW杯の代表メンバーにも選出された。身長187センチ。

(写真/金澤智康、進行役・構成/石田洋之)

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