「リオの風」は、株式会社アライヴンとのタイアップコーナーです。来年のリオデジャネイロ五輪、パラリンピックや国際大会を目指すアスリートを毎回招き、アライヴンの大井康之代表との対談を行っています。各競技の魅力や、アライヴンが取り扱うインヴェル製品を使ってみての感想、大舞台にかける思いまで、たっぷりと伺います。
 今回は、この春、卓球世界選手権男子ダブルスで銅メダルを獲得した松平健太選手の登場です。
 将棋や囲碁と似た感覚

大井: 卓球選手は小さなピンポン球をものすごいスピードで打ち返します。視力が良さそうですね。
松平: 視力は2.0あります。他の選手も、視力自体は悪くても、動くものはよく見えるらしいです。

――ラケットに当たった瞬間に、ボールがどう回転して、どこに飛ぶかわかるのでしょうか。
松平: ラケットに当たる瞬間は見ていますが、それからの反応だと遅い。打つ前の体の向きやラケットの使い方で、だいたいのコースを予測します。

――予測を外して、逆方向に打ってくる相手もいるでしょう?
松平: いますね。でも、フェイントをかけるのは余裕がないとできない。相手に余裕を持たせないように打って、こちらが主導権を握ることが大切になります。

大井: 相手の心を読んだり、そういうテクニックも求められますね。
松平: そうですね。たとえば今、相手がどういうサーブを嫌がっているか、1本1本勘を働かせながら考えて打っています。

大井: 卓球の魅力を一言で表現すると何になるでしょう。
松平: 動きながら、頭を使って駆け引きするところですね。将棋や囲碁をするのと同じ感覚だと思います。先を読む能力を磨くために、中高時代の監督からは将棋や囲碁をするように言われていました。テーブルを挟んで近い距離で向き合うので、お互いの表情もすごくわかる。そこから相手の出方を読んだりします。

大井: では、表情は出さない方がいいのですか。
松平: 出さない方がいいと言われます。実際に対戦していても無表情の選手の方がやりにくい。僕はどうしても展開が苦しくなったり、ミスをすると顔に出てしまう。それで相手が勢いづいて流れが変わってしまうこともあるので気をつけたいです。

大井: 相手に悟られないために、試合中、ずっと笑ってプレーするのはダメでしょうか(笑)。
松平: 無表情よりも、笑っている方が楽かもしれないですね。相手は不思議がって、逆にあれこれ考えてくれるかもしれません(笑)。

大井: 卓球は50歳くらいから始めて大会に出るケースもありますね。70代や80代でもプレーしている方もいます。
松平: 何歳になってもできるところも卓球の魅力です。だから、いろんな世代に人気があっておもしろい。健康目的で始めて、体の調子が良くなる人もたくさんいます。いつまでも健康でい続けるためにいい競技だと思っています。

 スランプでも「自分を信じる」

大井: 松平さんは小さい頃から卓球をやってきました。スランプに陥った時はありましたか。
松平: 19歳から20歳くらいの時に試合で思ったプレーができなくて、勝てない時期が続きました。ちょうどロンドン五輪の選考の時期だったので、その時点で代表入りはないと心の準備はできていましたね。落選は悔しかったですけど、素直に受け止められました。

大井: どのようにしてスランプを乗り越えたのでしょう。
松平: 自分を信じて練習しましたね。結局、練習をしないと何も変わらない。周りの人からもアドバイスをいろいろもらって、良いと思ったものは吸収して実践しました。ただ、自分が信じられなくなったら終わりなので、そこだけは崩しませんでしたね。

大井: やはり練習がメンタルも強くするということでしょうか。
松平: 僕はそう感じています。苦しい練習をする中で、油断もしなくなるし、諦めなくなる。自信が生まれて試合にも勝てる気がします。

大井: 試合で負けるかもしれないと弱気になることはないですか。
松平: 勝つことしか考えていないですね。僕たちは勝たないと評価されない世界。いくら強い選手といい勝負をしても結局は勝たないと意味がないと思っています。

大井: アスリートは練習も大事ですが、休養も重要と言われます。疲労回復で心がけていることは?
松平: シンプルかもしれませんが、規則正しい生活をすることです。苦しい練習をして、きちんとご飯を食べて、睡眠もしっかり摂る。睡眠時間はできれば8時間が理想です。それだけでも疲労度は変わってくると思っています。

大井: 快適な睡眠にはインヴェルのリチャージが最適ですから、ぜひ活用してください。
松平: 特に海外に行く時に時差の問題があるので寝るのが大変なんです。夜中に目が覚めて寝られなくなったりします。しかも、ホテルによってベッドの硬さが違う。めちゃくちゃ硬いマットだと体にも影響が出てしまうのできつい。マットにはこだわる方なので今度、使ってみます。

大井: アイマスクも併せて使うとぐっすり寝られると思いますよ。移動中の飛行機やホテルでリラックスできるはずです。他に体調を維持するために気をつけていることは?
松平: ストレスは溜めないようにしています。極力、自分の好きなことをする。縛られるのが嫌なので、好きなものを食べて、自由に行動できるのがベストですね。

 広がった中国との差

――春の世界選手権では銅メダルを獲得しましたが、準決勝では中国ペアに敗れました。やはり、卓球王国・中国の壁は厚いと?
松平: 今回はいつも以上に力の差を感じました。以前は差が若干縮まった手応えがありましたが、今は逆に広がった感じがします。

――具体的にどんな点に差を痛感したのでしょう?
松平: 相手の打つボールに押されっぱなしでした。中国人のボールは回転が独特で勢いがある。前は対応できていたのに、この前の準決勝では太刀打ちできませんでしたね……。

大井: それは技術だけでなく、精神的に圧倒される部分もあるのでしょうか。
松平: 気持ちの問題もあるでしょうが、技術の差が一番大きいと感じます。

――ダブルスのペアは丹羽孝希選手と組んでいます。シングルスとダブルスではどちらがやりやすいでしょう。
松平: それはダブルスです。シングルスはひとりなので、全部自分で考えて動かなくてはいけない。ダブルスはお互いが話し合って決められる。打つのも1球交代なので疲労度も違います。

――ただ、ダブルスは相手との相性が問われます。ダブルスにはダブルスなりの難しさがあるのでは?
松平: それはあります。でも、僕たちはもう6年もペアを組んでいて、お互いのことはだいたいわかっています。そんなに話をしなくても流れの中で合わせられますね。

大井: 会話がなくても相手のことは理解できていると?
松平: はい。だから、強いて話すことはないですね。無理に話そうとすると、かえってダメになる。自然体でいる方がいいと思っています。

――ペアを組み始めた当初は、呼吸を合わせるのに時間がかかったのでしょうか。
松平: 彼とは青森山田の先輩後輩で、僕が高3、向こうが中3の時にペアを組みました。最初は向こうが年下なので気をつかって遠慮していたと感じます。僕も、それまでは代表で一番年齢が下だったので、後輩が入ってきて、どう接していいかわからなかったんです。今よりもっと会話は少なかったですね(苦笑)。徐々に慣れてきて話をするようになり、打ち解けてきました。

 憧れても、真似できない選手に

――ジュニア時代の活躍から「天才」と称されたり、DVDを出すほどのルックスで「貴公子」と呼ばれることもあります。そういうレッテルが重荷に感じることはありませんか。
松平: 僕自身、天才と思ったことは一度もありません。僕より才能のある人は周りにいっぱいいます。最終的には、どんなに天才的な技術や感覚があっても、勝利につながるとは限らない。個人的には勝ち方を知っていて、実際に優勝できる選手の方がうらやましいです。

大井: それでも容姿を褒められるのはうれしい?
松平: うれしいですけど、スポーツ選手は勝ってなんぼ。勝たないと取り上げられないので、卓球が第一ですね。見てもらえる入口は何であれ、最終的には卓球の実力で応援してもらえる選手でありたいです。

大井: 今後の目標はリオデジャネイロ五輪出場ですね。
松平: はい。まだ五輪に行ったことがないですし、まだ日本の男子は五輪でメダルを獲ったことがありません。今は五輪で勝つことを第一にやっています。この9月には代表が決まるので、残りの期間、国際大会で良い成績を残せるように頑張っているところです。

大井: 五輪に出てメダルを獲るために必要なものは?
松平: 精神面の強さでしょうね。今までの五輪を見ていると本当に番狂わせが多い。実力差があっても、五輪の舞台ではほとんど違いがなくなってしまいます。その中で精神面がしっかりしている選手が勝つ印象を持っていますね。

――技術的には、中国との差を踏まえ、どんなところを高めていきたいですか。
松平: すべてを高める必要がありますね。トップ選手に比べたら、まだまだレベルが低い。具体的にどこかを伸ばすというよりも、全体的にパワーアップしないといけないと感じています。

大井: 選手としての理想像はありますか。
松平: 憧れられるけど、真似できない選手になりたいですね。小さい頃は、僕も好きなトップ選手がいて憧れていました。スウェーデンのヤン=オベ・ワルドナーです。五輪や世界選手権で何度も優勝して単純に見ていてかっこいい。チャンピオンとしてのオーラも兼ね備えていて、歩いているだけで存在感がありました。だから、僕も憧れられることはすごくありがたいことです。だけど、ワルドナーのように真似をすることは難しくてできない。そんな存在が理想だと考えています。

大井: リオでメダルが獲れるよう応援していますよ。
松平: ありがとうございます。いつも応援してもらえる選手でありたいとは思っています。たとえ結果が悪くても、一生懸命やっていれば、それはきっと伝わる。テレビでは練習風景は見られないでしょうけど、試合での姿に、それまでの過程が表れるのではないでしょうか。日頃の取り組みが応援してもらえることにつながると信じています。

大井: 人をたくさん引き寄せられることも才能の一部でしょうからね。
松平: 僕は出会いには恵まれていると思います。ケガをして手術した際も、いい先生に巡り合って復活できたり、本当に周りの方々に助けられていますね。自分の力だけではどうしようもできない。だからこそ精一杯、卓球に打ちこむことが僕の役割だと考えています。

(おわり)

松平健太(まつだいら・けんた)プロフィール>
1991年4月11日、石川県生まれ。JTB、ホリプロ所属。父と2人の兄の影響で5歳から卓球を始め、父の経営する卓球教室で練習を積む。中学2年からは親元を離れ、名門・青森山田中に編入。3年時には06年世界ジュニア選手権男子シングルスで日本人としては27年ぶりの世界大会優勝を成し遂げた。09年には全日本選手権の男子シングルスで準優勝。その年の世界選手権ではベスト16入りを果たす。11年の全日本選手権でダブルス優勝。13年の世界選手権パリ大会ではシングルスベスト8。今年の世界選手権蘇州大会では丹羽孝希とのペアでダブルス銅メダルに輝いた。身長169センチ、右シェークドライブ攻撃型。

(写真/金澤智康、進行役・構成/石田洋之)