2年ぶりの前期優勝は21勝9敗4分と貯金を独り占めしての独走でした。ピッチャーが役割を果たし、野手でも赤松幸輔松澤裕介ら新戦力の頑張りが、予想以上の好成績につながりましたね。ピッチャーではドリュー・ネイラー川崎貴弘竹田隼人ウェスリー・エドワーズと先発4枚を確立できたことが大きかったです。
 その中で軸となったのは4勝1敗2セーブ、防御率1.37の成績を収めたネイラーです。彼の良さは四球で自滅しないところ。速球に加え、右バッターにはチェンジアップやツーシーム、左バッターにはカットボールでうまく懐を突き、内外を広く使えます。かつ、大きなカーブで緩急をつけられる点も強みです。

 連戦が続く中、彼には先発のみならず、大事な場面ではリリーフも任せました。外国人の中にはスクランブル登板を嫌がる選手もいますが、彼は「オレは行ける。大丈夫だ」も文句ひとつ言わず、フル回転してくれました。

 彼はオーストラリアのチームで、香川からオリックス入りしたアレッサンドロ・マエストリと一緒にプレーしています。それだけにNPBに行きたい気持ちが強いです。以前も紹介したように、彼の四国時代と比べてもネイラーの方が上。1軍で十分通用する力はありますから、緊急補強でどこかから声がかかることを祈っています。

 もうひとりの外国人エドワーズは、この2カ月でかなり成長しました。当初はリリーフで起用していたものの、力みすぎて制球を乱し、先発で使ったところから彼は変わり始めました。常にセットポジションで制球を重視し、上体のブレを抑えるようにしたところ、リリースポイントが安定し、ストライクがとれるようになってきたのです。

 コントロールに自信がつくと、より腕が振れ、スライダーやフォークも決まります。好循環が生まれ、成績は4勝負けなし。先発として計算できるピッチャーになりました。

 中日から派遣された川崎は実戦を重ねるごとに本来の力を取り戻しつつあります。当初は球にバラツキがありましたが、5月から低めに制球できるようになりました。もともとのウィニングショットであるフォークに加え、ツーシームやスライダーも精度が上がり、カーブも使えるようになってきました。

 これまではどうしても実戦経験が少なく、持っているポテンシャルを伸ばすことができませんでした。しかし、腕が遅れて出てきてタイミングのとりにくいストレートは、さすが支配下登録されていたピッチャーです。実戦で、この武器を生かす投球術を覚えれば、中日に戻っても活躍できるでしょう。

 竹田も登板に比例して、力の入れどころ、抜きどころがつかめてきました。球速も146、7キロ出ており、ヒジの故障前のレベルに戻ってきましたね。開幕時点では中継ぎで考えていましたが、本人は連投よりも先発で長いイニングを投げた方がいいようです。順調に復活の階段を昇っています。

 もちろん、中継ぎ陣の奮闘も優勝の原動力です。ともにリーグ最多の20試合に投げた田村雅樹松本直晃はNPBを狙えるピッチャーです。田村は昨季も56試合に登板し、本当にタフな右腕です。疲労で調子が悪くても、マウンドに上がるとうまくスイッチを入れ、要所を締めています。

 さらに上に行くための課題は球速です。カットボールに頼り過ぎるあまり、ストレートのスピードがもうひとつ足りません。2カ月のインターバルでケアをしつつ、パワーアップを図り、ストレートで押せるスタイルに磨きをかけてほしいものです。

 新人の松本はコントロールが良く、球威もあるため、急遽、抑えに転向してもらいました。短いイニングでしっかり腕を振って投げてもらった結果、ストレートは糸を引くようなボールを投げています。

 課題は落ちるボール。フォークを持っていますが、精度はイマイチです。スプリット気味にしてコントロールしやすくするなど、工夫が必要だと考えています。ストレートと得意にスライダーに、縦の変化球が加われば鬼に金棒でしょう。

 6月はリーグ選抜の北米遠征で松本、川崎、竹田、ネイラーと4投手が不在になります。他の選手は午前中は練習、午後はアルバイトや地元のイベントに参加するスケジュールです。若手にとっては強化に取り組めるチャンス。この機会に太田圭祐や新人の原田宥希山田恭大らをレベルアップさせたいと思っています。

 前期優勝で、後期は勝利を目指しつつも、個人の育成やアピールにも重点を置くことができます。どうすれば選手たちが持ち味を出し切れるか、この2カ月で僕もアドバイスをしながら考える時間に充てるつもりです。後期も引き続き、応援よろしくお願いします。
 

伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)


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