いささか古い話になってしまい恐縮だが、東アジア杯で驚かされたことがあった。スタジアム内に設置されている立て看板について、である。
 日本企業ばかりではないか!

 中国で開催された、W杯とは何の関係もなく、かつ欧州に所属している選手が一人も出場しない大会を、日本の名だたる企業がこぞってスポンサードしていた。

 最近、わたしは『ニュース・ピックス』というインターネット・メディアでJリーグの社長にインタビューをする、という企画をやらせてもらっている。いまのところ、5チームが終わったところなのだが、5人の社長すべてが口にしていたのが「チャイナ・マネーの脅威」だった。

 ある社長が入手した情報によると、25日のACLで柏を粉砕した広州恒大の今季の年間予算は約500億円だという。これは世界のメガクラブの予算と比肩しうる額であり、ほぼすべてのJ1チームの年間予算の10倍以上の数字でもある。

 だが、それほどまでに潤沢なチャイナ・マネーは、なぜか東アジア杯には流れ込んでいなかった。ACLではズラリ並ぶ中国語の看板はほとんどなく、ほぼ日本企業によって独占されていた。

 つまり、Jリーグでは中国に歯が立たない日本の資金力が、代表戦となるとそうでもないということなのである。

 先行きは不透明だが、中国の経済成長の勢いは確かに凄まじかった。GDPでは世界2位にも躍り出た。とはいえ、日本もいまだ3位の経済大国であり、その規模が中国の10分の1になったわけでも、2分の1になったわけでもない。

 にもかからわず、Jのクラブは経済力で大きく後れを取り、大物外国人の獲得では名乗りを上げることすらできなくなった。一方で、代表と名がつけば、日本の経済力は突如として世界3位の実力を発揮するようになる。

 Jの経済力と日本代表の経済力。同じ国のサッカーと思えないほど開いてしまったこの格差は、なぜ生まれ、なぜ一向に縮まる気配を見せないのか。さらにいうなら、なぜホークスはあれほど金満なのに、同じ街を本拠地とするアビスパは資金難にあえいでいるのか。

 日本経済がギリシアのように破綻しているというのであれば、中国に蹂躙されるのも仕方がない。だが、現実は違う。日本代表にはお金が集まり、プロ野球にもまた集まっている。Jの資金力が中国に圧倒されているのは、20年以上前に作ったルールによって自縄自縛になっているから、である。

 そろそろ、縛っていたものを解くことを考えてもいいのではないか。いや、考えなければいけないのではないか。間違いなくいえるのは、この問題は、優勝決定の方式を変えた程度で解決できるものではない、ということである。

<この原稿は15年8月27日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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