ニッポン放送で3月まで放送されていた「二宮清純プロフェッショナル列伝」(日曜夕方「サンデースポーツスピリッツ」番組内)が好評につき、この春からリニューアル。月曜夜に放送時間を変更しました。20世紀のある1年を取り上げ、印象的なスポーツシーンを語る「二宮清純の20世紀スポーツ列伝」や、北京五輪の代表選手などにスポットをあてる「北京へのチャレンジ」といった盛りだくさんの内容です。今回は特別に第1回放送分の一部をご紹介します。
 二宮清純の20世紀スポーツ列伝 〜1973年、怪物・江川〜

――今回は1973年を振り返るのですが、世の中ではオイルショックで紙がないとお騒ぎになりましたよね。
二宮: 僕の田舎でも「紙がないと困るから」と、みんなが買い占めに走ったことを思い出します。あとは金大中事件や日航機のハイジャック事件もあった年です。ニュース速報が流れて、1日中、テレビで映像を見ていた記憶がありますね。

――スポーツでは競馬のハイセイコーがブームを巻き起こしました。二宮さんが一番思い出に残っているスポーツシーンは何ですか?
二宮: 今、ちょうどセンバツ高校野球が行われていますが、やはり、その年のセンバツの江川卓ですね。まさに“怪物”でした。僕も子供の頃から高校野球が大好きで、当時“関東に怪物が現れた”との記事を野球雑誌で読んだことがあります。半信半疑で、江川の試合のテレビ中継を見たら、本当にすごかった。
 普通、昼間の高校野球を見て、夜のプロ野球を見ると、「いくらボールが速いといっても、プロと比べれば大したことないな」と感じるものです。ところが江川だけは「プロのピッチャーのほうが大したことないな」と。そんな思いをしたのは、後にも先にもこの時だけです。
 中でも高3の春、1973年の春が江川のボールは一番速かったと思っています。高めにホップしてグワーッと浮き上がるように見えました。多くのバッターをバッタバッタと空振り三振に切ってとった姿が強烈な印象として残っています。

――江川の高校時代の成績を振り返ると、高1でノーヒットノーランを2回(うち完全試合を1回)。高2でノーヒットノーランを6回(うち完全試合1回)。しかも夏の県予選1回戦から準々決勝まで3試合連続という離れ業をやっています。高3ではノーヒットノーラン4回です。
二宮: それで、73年のセンバツでは4試合で60奪三振ですからね。1試合平均15奪三振ですよ。ありえない数字です。
 これは江川が高校の全日本選抜に選ばれた際に、ファーストを守った広島商業の町田昌照さんから聞いた話ですが、「江川がファーストに牽制球を投げたら速すぎて捕れなかった」と(笑)。ウソみたいな話でしょう。
 ただ、江川は結局、3年間、全国制覇を達成することはできなかった。このセンバツでは準決勝で広島商に1−2で敗れています。広島商業の迫田穆成監督は選手たちに「どうせ打てないんだから、当たってでもいいから塁に出ろ!」と指示を出し、全員がホームベースに覆いかぶさるように打席に立ちました。それで江川のリズムを乱したのですのが、ある選手が「本当に当たったら、どうなりますか?」と迫田監督に聞いたそうです。すると監督は平然とこう答えた。「まぁ、死ぬやろうな」(笑)。とにもかくにも高校時代の江川はエピソードの尽きないピッチャーでしたね。

 北京へのチャレンジ 〜井上康生の復活なるか〜

――今回は、北京への切符をかけて熾烈な争いをみせている柔道を取り上げようと思います。4月5日、6日には全日本選抜柔道体重別選手権大会が開かれ、男子100キロ超級と女子78キロ超級以外の階級では最終選考会となります。
 激戦が予想されるのは男子100キロ超級。注目の井上康生選手は復活なるんでしょうか。
二宮: この階級には先の世界選手権で日本男子でただひとり金メダル(無差別級)を獲得した棟田康幸選手がいます。彼は鈴木桂治選手に敗れ、前回のアテネ五輪に出られませんでした。その悔しさを胸に秘め、今回の大会に臨んでくるはずです。彼が本命であることは間違いないでしょう。
 ただ井上選手にチャンスがあるとすれば、まずはこの体重別選手権で優勝すること。さらに、この階級の最終選考会となる4月29日の全日本選手権でも優勝すること。「井上康生、復活」との強い印象を残せば、逆転の可能性もわずかながらみえてきます。

――体重別選手権の組み合わせでは、順当にいけば、井上選手は準決勝で棟田選手とぶつかります。さらに決勝では、勝ち上がってくるであろう石井慧選手や高井洋平選手を倒さなくていけません。
二宮: 柔道は「世界で勝つ」ことを目標に掲げている競技です。ところが、井上選手はこのところ、他の選手と比べて国際大会で目立った成績を残せていません。これを挽回するには、単に勝つだけでなく、棟田選手や石井選手を相手に一本勝ちを収めるような“内容”も必要になるでしょう。
  
――シドニー五輪では5試合すべてで一本勝ちして金メダルを獲得しました。あの時の強さはもう戻ってこないのでしょうか?
二宮: シドニーはもう8年前の話ですからね。アテネでも準々決勝で敗れ、メダルに手がとどきませんでした。
 イメージがダブるのは女子マラソンの高橋尚子選手です。彼女もシドニーで金メダルを獲り、今でも復活を期待するファンは多い。その気持ちはわかりますが、スポーツは実力の世界。現状の力関係をみるとオリンピックに出場できるかどうか、きわどいラインに立っていると言わざるをえないでしょうね。

※お相手はニッポン放送・山本剛士アナウンサーです。

「スポーツスピリッツ」の放送は月曜19:00〜19:30(ナイター中継等のため、お休みになる場合もあります)。次回は4月7日の予定です。1988年にタイムスリップし、ソウル五輪のあの金メダリストについて語ります。また、レスリング北京五輪代表の池松和彦選手が電話ゲストとして登場します。どうぞお聞き逃しなく!

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