8月5日、当ホームページ編集長の二宮清純と元日本代表DFの宮澤ミシェル氏が八王子の日本工学院専門学校で対談を行った。その中身を公開したい。
二宮: 今大会は東南アジアサッカーの成長に驚かされましたよ。ベトナムは日本と比べて体格は小さいけれど、スピードでは負けていなかった。Jリーグ発足前の欧米と日本の試合を思い出しましたね。最後にパワープレーでやられて、3−0や4−1と大差がつくんだけど、前半はそこそこ健闘する。互角の戦いをするんですよ。数年経てば、日本も追いつかれるかもしれない。
宮澤: マレーシアはともかく、酷暑であれだけ動けるタイ、ベトナム、インドネシアの3国には僕も本当に感心しましたね。日本のように逆サイドにピタッと合わせる技術はまだ持ってない。ただ、運動量はあるし、短いパスをリズミカルにつなぐことはできる。彼らの進化には、ただ驚かされるばかりです。

二宮: 東南アジアで特に気になる国はありますか?
宮澤: タイは要注意ですね。彼らはヒザのバネを持っている。相手が予想もつかないようなタイミングでクッと抜きにかかってくるんですよ。切れ味が本当に鋭い。悔しいけれど、日本にないモノを持っています。U-16代表も知っているのですが、数年後、彼らはどこまで成長しているのか、恐ろしいぐらいですよ。

二宮: タイはムエタイといい、足を使う競技は盛んですよね。彼らのヒザが柔らかいのは格闘技の経験があるからでしょうか。蹴りは本当にいいものを持っている(笑)。
宮澤: しなやかですよね。格闘技の「K-1 MAX」にブアカーオという王者がいるんですが、デビューしたての頃は蹴りの切れがすさまじかった。

二宮: タイの人は自分たちの長所がパワーじゃなくてキレやスピードにあるとよくわかっているんでしょうね。
宮澤: そうなんですよ。パワーとしなやかさはなかなか共存しませんからね。しなやかさが持ち味の選手が欲張ってパワーをつけると、今度は、そのパワーに頼るようになってしまうんですよ。例えばね、城彰二はフランスW杯でアルゼンチンと戦った時、FWバティストゥータの体つきを見て「これはすごい」とビックリしたそうなんです。バティは筋肉の塊みたいな選手だったでしょう。それで、影響を受けた城は「パワーをつけよう」と筋力トレーニングに励んだ。それ自体は全く悪いことではないんです。他の選手の素晴らしい部分に影響を受けるのは当たり前のこと。ただね、城みたいにしなやかだった選手が筋力トレーニングをやってしまうと、パワーに頼ってしまって、自分が元々持っていたものを失ってしまうんです。僕自身、そういう経験があるからよくわかる。ブアカーオも日本に来て、体の大きな選手と戦うようになってから、変わりましたからね。確かに筋肉はついたんだけど、デビューしたての頃にあったように、相手に息もつかせずに何発も蹴りを入れて、翻弄するしなやかさはなくなった。

二宮: その意味では、タイのチャンプアとか凄かったですよね。小さいんだけど、大きい選手を倒す。柔よく剛を制す、でしたね。
宮澤: やっぱり、タイ人はいいものを持っていますよ。サッカーも向いているんじゃないかな。有能な指導者がつけば、何年後かには、東南アジアでも抜け出る存在になるかもしれない。1次リーグでは、優勝候補のオーストラリアに0−4で大敗したのですが、瞬間のスピードで相手を苦しめました。それに、優勝したイラクに1−1で引き分けて、オマーンには2−0で勝っているんだから、大したものですよ。

二宮: タイが強くなれば、当然、近隣諸国も刺激を受けて成長するでしょうね。日本から先制点を奪ったベトナムも侮れない。
宮澤: ベトナムも有望株ですね。熱帯の国は大味なサッカーをするところが多いのですが、あの国は几帳面で細やかなサッカーをやってくる。メキシコに似ていますよ。メキシコのサッカーは中南米独特の自由奔放さがありながら、几帳面なところも持ち合わせている。日本も体格はあまり変わらないから、真似できるんじゃないかと思いますね。国ごとのサッカーの違いというのは本当に面白いですよ。

(終わり)