この秋、日本プロ野球界に激震が走った。今季のドラフトで最大の目玉と目されていた新日本石油ENEOSエースの田澤純一投手がメジャーリーグ挑戦を発表したのだ。これまでドラフト上位指名が確実視されながら、自らそれを回避して海を渡った選手はいない。それだけにプロ野球界からの風当たりは厳しいものがあった。そんな中、田澤投手の背中を押し続けたのが新日本石油の大久保秀昭監督だ。果たして田澤はメジャーで成功するのか。当サイト編集長・二宮清純が大久保監督に本音を訊いた。
二宮: メジャーのスカウトから話があったのはいつ頃からですか?
大久保 : 昨年11月のW杯が終わった頃から向こうのスカウトが来るようになりましたね。最初は「もし、興味があれば」という程度だったのですが、段々と本格的になってきて「メジャーに来る気があるのか、本人に意思確認してくれ」というふうに言われたんです。それで田澤にもその話をしました。はじめは「まさか、自分が……」という感じで驚いていましたね。

二宮: メジャー挑戦を決意したのは?
大久保 : 今年3月のJABAスポニチ大会終了後に「あっちも本気みたいだから、真剣に考えてみなさい」と言ったんです。それから僕や両親といろいろと話をしたんですが、都市対抗野球大会前に田澤から「メジャーにトライします」と言ってきたんです。

二宮: 都市対抗前にははっきり決めていたと。
大久保 : はい。だから本当は都市対抗前にメジャー挑戦を発表してもいいくらいだったんです。ただ、いろいろと考慮した結果、大会が終わってからにしようかということになったんです。ドラフトで田澤を1位指名するという話は聞いていましたので、我々としては直前になって発表するよりも早めにした方が球団の方にも迷惑がかからないだろうという配慮からだったのですが、逆にゴタゴタを起こす結果となってしまったようですね……。

二宮: メジャーに挑戦しようと思ったきっかけはあったんでしょうか?
大久保 : どうなんですかね。田澤がどこで決心したのかは定かではないですね。どちらかというと僕の方が「せっかくのチャンスなんだから」という感じで言っていたんです。僕も現役時代はオリンピックなどの世界大会に行かせてもらっているので、“世界の野球”について話をしたり……。彼も昨年初めて全日本に選ばれてW杯に出場しましたが、それが大きかったのかもしれません。

二宮: 監督はキャッチャー出身でプロのボールも受けていますが、実際に田澤のボールというのはどうですか?
大久保 : 今すぐどうのと言われると、ちょっと厳しいですね。松坂君みたいに1年目からメジャーで2ケタ勝てるかといったら、正直それは無理でしょう。でも、未完成というのが彼の一番の魅力なんですよ。トレーニング次第ではまだまだ伸びますから、2、3年後にはメジャーで活躍する可能性も十分にあり得ます。あとは向こうのボールとマウンドの傾斜にどれくらいなじめるかですね。ただ、もともとステップがあまり広くないので、固いマウンドは合うと思いますよ。

二宮: 彼の一番の武器は?
大久保 : 基本は真っすぐなんですけど、今年になってからはフォークもよくなりましたね。これまでは真っすぐと縦のカーブとスライダーが主体で、フォークはたまにしか投げないという感じだったんです。短いイニングではそれでも通用したのですが、先発となるとそれではもちません。そこでフォークを新たに加えて、カーブも緩急のついた2種類のボールを投げるようんしたんです。

二宮: メジャーでも先発を狙っているのでしょうか?
大久保 : 適性としては短いイニングの方がいいかもしれませんね。三振も取れますし、結構タフなので。先発、中継ぎ、抑えのいずれも経験していますから、あとはチーム事情で判断してもらえたらと思っています。その点では、結構使い勝手のいいピッチャーだと思いますよ。

二宮: 性格的にはどうなんでしょうか?
大久保 : 結構、神経質なところがありますね。彼に一番足りないのは気持ちの部分。ですから、向こうに行って鍛えられたらと思っています。田澤にも「修行のつもりで行ってこい」って言ってるんです。

田澤純一(たざわ・じゅんいち)プロフィール>
1986年6月6日、神奈川県出身。小学3年から地元の「三ツ沢ライオンズ」に入り、野球を始める。小学6年時に捕手から投手へ転向した。横浜商大高2年夏には控え投手として甲子園に出場したが、登板はなし。3年夏は涌井秀章(埼玉西武)を擁する横浜高にコールド負けを喫し、ベスト8に終わった。2005年、新日本石油ENEOSに入社し、リリーバーとして活躍。先発に転向した昨年はドラフト候補にあがっていたものの自ら「残留」を決意。今季の都市対抗では全7試合に登板して優勝の立役者となった。180センチ、81キロ、右投右打。

<小学館『ビッグコミックオリジナル』12月5日号(11月20日発売)の二宮清純コラム「バイプレーヤー」にて田澤投手のインタビュー記事が掲載されます。そちらもぜひご覧ください!>