今季リーグ最下位に陥った横浜が再建への柱の一人として期待しているのが、山崎憲晴選手(横浜商科大)だ。“ポスト石井(琢朗)”の呼び声も高く、自らも「守備では誰にも負けない」と語るほど、守備へのこだわりは強い。開幕スタメン入りを目指す山崎選手に意気込みを訊いた。
―― 横浜に3巡目で指名されたことについて。

山崎: 会議が行なわれていた時間帯、僕はいつもと同じように大学のグラウンドで練習をしていたのですが、もうドキドキで、練習どころじゃなかったですね(笑)。そしたら監督室から佐々木正雄監督が「横浜! 3巡目!」って。自信はありましたけど、やっぱりホッとしました。

―― “ポスト石井”と言われていることについては?

山崎: 期待していただいているのはすごく嬉しい。自分もやれるという自信はありますし、開幕スタメン入りするつもりです。

―― 目標とする選手は?

山崎: “ポスト石井”と言われているので、それなりに石井さんを意識はしています。でも、自分の中では仁志敏久さんがタイプ的に似ているかなと。仁志さんは守備もバッティングも巧い。特に攻撃面で小技はもちろん、一発もあれば、足もある、と小さくまとまっていないところに憧れを感じます。僕も仁志さんのようなオールマイティな選手になりたいと思っています。

 今では「守備率10割」を目指す守備のスペシャリストに成長した山崎選手だが、過去には1試合で4つのエラーを記録したこともあるという。そんな山崎選手がどのようにして守備力を向上させたのか。その技術に迫った。

―― 捕球する際のグローブの使い方にこだわりがあるとか。

山崎: グローブ自体は浅く、平らなものを使っています。僕はゴロ用、ライナー用と2つのポケットをつくるのですが、あまり深いグローブだとうまくポケットが2つに分かれないんです。浅いグローブだと皮でというよりも、板で捕る感じに近いのですが、基本的に捕球する際はボールは掴みません。回転を止めるためにあてるだけ。あとは打球の勢いで手首を返すんです。そうすれば、掴んでから握り返すよりも送球までのロスが小さくて済みます。
 ただ、単に当てにいってしまうと弾いてしまいますので、回転を殺しながらうまく返さないといけません。そのために僕は、人差し指をグッと押さえてグローブに2つのポケットをつくるんです。ライナーの場合は人差し指を中指側に入れて親指側にポケットをつくりますし、反対にゴロは人差し指を親指側に入れて小指側にポケットをつくる。つまり、ボールの勢いを利用して手首を返しやすい方にポケットをつくるんです。

―― その技術を習得したきっかけは?

山崎: 高校時代にヤクルトの選手だった辻発彦さん(現・中日2軍監督)のグローブをはめさせてもらえる機会があったんです。そしたら、本当の板のようにまっ平で、ボールが垂直に入る感じでした。「うわぁ、これは捕りやすそうだな」と。僕自身、偶然にも同じ時期にノックを受けている際、自分がゴロを小指側で捕っていることに気付き始めていた時だったんです。そしたらあの名手の辻さんが同じように捕っていたことがわかり、「あぁ、自分のやっていたことは間違いではなかったんだな」と。それからですね、自分の守備に対して自信をもてるようになったのは。

―― 送球でのこだわりは?

山崎: 送球する時には最後にボールをつぶします。つまり、最後まで指の山にボールをひっかけるんです。送球にはピッチャーのようにボールに速さやキレ、球威などは必要ありません。とにかくファーストが捕りやすいボールが一番いい。ですから、軽く投げても落ちずに同じ目線でスーッといくのが理想です。いくら速い球を投げても暴投ではランナーを刺すことはできませんからね。だから僕はつぶすことに神経をつかうようにしているんです。

―― プロに入っても守備だけは負けないと。

山崎: はい。それだけは誰にも負けちゃいけないと思っています。それで負けたら自分の価値はありませんから。目指すは「守備率10割」です。

 大病を乗り越えて

 実は山崎選手は高校入学直前に病気を患い、15歳でプロ野球選手への夢を断たれそうになったことがある。だからこそ、今は野球ができることへの喜びが身に染みている。苦しみを乗り越えてきた彼だからこそ、子どもたちに伝えたいメッセージがある。

―― 中学時代、病気を患ったとか。

山崎: はい、原因不明の「ネフローゼ症候群」という腎臓の病気にかかりました。これは基本的に50代や60代の人がなるような病気なのですが、なぜか15歳の時になってしまいました。状態を見ながら徐々に薬の量を減らしていき、最終的に薬をやめて1年間再発しなければ完治らしいのですが、ほとんどの人が再発してしまうという難しい病気です。

―― 発症した時期は?

山崎: 中学3年の2月にわかって入院しました。退院したのは卒業式当日。もうガリガリに痩せてしまっていて、青白い顔でマスクをしながら式に出ました。その時には既に埼玉栄高校への進学が決まっていたのですが、医者からは「野球なんかとんでもない」と言われました。体を動かすことが腎臓に最も負担がかかるらしいんです。だから「先の人生のことを考えたら、安静にしていた方がいい」と。
 でも、僕は「高校でぶっ倒れてもいいから、野球をやらせて欲しい」と親に頼みました。そしたら親もわかってくれて高校の監督に「本人がグラウンドで死んでもいいって言っているのでやらせてあげてください」ってお願いしてくれたんです。

―― 完治したのはいつ?

山崎: 入学して半年間はグラウンドにも出られませんでした。動いちゃダメと言われていたので、走ることもできなかった。薬の量を徐々に減らしていって、「そろそろいいよ」と言われたのが1年の秋です。それからすぐに背番号をもらって、野球に打ち込んでいったのですが、病気は気づいたら治っていました。これまで一度も再発していません。

―― 病気をしたことで得たものとは?

山崎: 一度は大好きな野球ができなくなると言われたわけですから、野球ができる喜びは人よりも強く感じられているのではないかと思います。これまで一度も野球を辞めたいとは思ったことはないですね。
 僕のように病気で苦しんだり、障害をもっている子どもたちには、夢を諦めてほしくないなと思います。そして、五体満足で野球をやっている子どもたちには、それを当たり前だと思って欲しくないですね。親が五体満足で生んでくれて、食べさせてくれて、お金まで出して野球用具を買ってくれて、そして教えてくれる人がいて……。本当にいろいろな人のおかげで自分が今、野球ができていることに感謝の心をもってほしいんです。そしたら、もっと素直に野球に取り組めるのではないかなと思います。
 一番大事なのはどれだけ自分が野球が好きかということ。結局最後に勝つのは一番野球が好きな人なんだと思います。

 そんな子どもたちに憧れを抱いてもらえるような選手になりたいという山崎選手。座右の銘でもある「努力」でプロへの道を切り拓いた彼は、果たしてプロではどんな活躍を見せてくれるのか。

―― プロで活躍するために必要なものとは?

山崎: 走攻守のバランスや体力的なタフさはもちろんですけど、継続性も必要だと思います。たとえ1年目に試合に出られたところで、5年後にそこにいなければ意味がありません。監督から結果を出し続けてくれるだろうなという期待感をもってもらえなければ、どんなに実力があっても使ってもらえないですし。でも、それが一番難しいことなんですけどね。

―― 今後の課題点は?

山崎: 考えすぎるところですね。特にバッティング。守備でエラーする時はたいてい前の打席のことをひきずっている時です。守備に集中できていない。でも、それもだいぶこの4年間で修正できるようになってきました。シーズンが長いプロでは、それこそいちいち引きずっていたら話になりません。切り替えを早くして、その中で反省すべき点をしっかりと把握していくことが大事になってくるのかなと。

―― プロでの目標は?

山崎: 1年目の目標としては……まぁ、まずは出場することが第一なんですけど、それでも目標は高い方がいいと思うので、打率3割、5本塁打、10盗塁。なかでも5本塁打はこだわりたいですね。小さくまとまりたくないので。足はそれほど速くはないので、10盗塁は厳しいかもしれませんね。でも、スタートには自信をもっています。ピッチャーの背中を見ていると、牽制がくるかどうかがわかるんです。それと、もちろんエラーは0を狙います。タイトルではゴールデングラブ賞は欲しいですね。

―― 目指す理想の選手像は?

山崎: 印象に残る選手になれればと思っています。そういう意味では長嶋茂雄さんのカリスマ性に憧れています。長嶋さんはたとえエラーしても三振しても、ファンを魅了することができる。長嶋さんの足元にも及びませんが、自分も「あぁ、この選手は本当に野球が好きなんだろうな」と思ってもらえるようなプレーをしていければと思っています。

「自信はあります。でも正直、不安もあるんです(笑)」と最後に22歳の本音をのぞかせた山崎選手。それでも「1年目から攻めの姿勢でいきたいと思っています。キャンプでも一番元気を出していきます!」と強い意欲を見せてくれた。野球ができる喜びと感謝を胸に、“努力”で“ポスト石井”の座を狙う。

<山崎憲晴(やまざき・のりはる)プロフィール>
1986年12月13日、静岡県出身。埼玉栄高では甲子園出場なし。横浜商科大では1年春からレギュラーを獲得。3年春には打率.415をマークし、首位打者に輝いた。4年春には首位打者、ベストナインを獲得。高い守備力を買われ、2年時から全日本メンバー入り。国際大会においても豊富な経験をもつ。175センチ、76キロ。右投右打。

(聞き手・斎藤寿子)

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