2年目を迎えたBCリーグでは、3人の選手が育成枠でドラフト指名を受けた。その1人が千葉ロッテに育成2巡目で指名された鈴江彬投手(信濃グランセローズ)だ。未だ少年の面影が残る鈴江投手だが、これまでその優しい笑顔からはおよそ想像もつかない苦労の連続を味わった。「自分には野球しかない」――その一心でいくつもの苦労を乗り越えてきた鈴江投手。ようやく今、プロへの挑戦権を手にした。
―― どんなふうに指名を知ったのか?

鈴江: はじめは家でテレビを観ようと思ったんです。でも、会議の時間が近づくにつれて、いてもたってもいられず……。友だちを誘ってコンビニに行ってしまいました。そしたら、球団から電話がかかってきて「入ったぞ」と。もう、頭が真っ白状態でした。自信は全くありませんでしたから。

―― ロッテの入団テストの感触は?

鈴江: 6、7人くらいのバッターと対戦したんですけど、三振も取れて、自分としては満点の出来でした。スカウトも「あの三振はいい印象をもてたよ」と言ってくれたんです。チェンジアップで空振りを取ったんですけど、自分でもドンピシャだったんですよ。でも、周りを見渡せばすごい人たちばかり。なかにはアメリカの独立リーグ上がりの人もいて、そういう人なんかはもうオーラが違うんです。僕も180センチあるんですけど、なぜか他の人の方が大きく見えるんですよね。だから「ダメかなぁ」と。

―― どこが評価されたのか?

鈴江: 自分は本当に便利屋みたいな感じなので、監督は使いやすいと思います。信濃でも先発、中継ぎ、抑えと全部やっていましたから。自分としては先発よりも中継ぎの方が楽しいですね。中継ぎってチームがピンチの場面でマウンドに上がりますよね。それで抑えた時の歓声がたまらないんです。

―― ロッテという球団へのイメージは?

鈴江: 応援とかファンが熱いですよね。それにバレンタイン監督なので、日本人の監督とはやり方が違うでしょうね。その辺も楽しみです。

 2007年4月、BCリーグの1年目が開幕した。遅れること1カ月後、鈴江投手は信濃に入団した。それからはNPBを目指して、ひたすら投げ続けた。果たして鈴江投手は信濃でどんな成長を遂げたのか。

―― 信濃グランセローズに入るきっかけは?

鈴江: クラブチームでやっていた時に信濃の今久留主成幸さん(当時GM)から誘われたんです。実は今久留主さんは、僕が高校の時、横浜のスカウトをやっていらっしゃって、見に来てくれていたんです。僕が大学を辞めたことを知って、「長野に来ないか」と。毎日練習もできるし、いいかなぁと思って入団テストを受けました。でも正直、入る前は「どうせ独立リーグでしょ」ってなめていたんです。クラブチームくらいのレベルかなぁと。ところが、いざ入ってみたらみんな本気でやっていたので、ビックリしました。

―― 信濃での2年間で成長した点は?

鈴江: 野球に対する気持ちが変わったと思います。練習でもそれこそ一球、一球を大事に思えるようになりました。技術的にはスピードも3キロくらい速くなりましたし、変化球も覚えました。入団当初はスライダーとカーブしかありませんでしたが、2年目でチェンジアップとスプリットを習得してピッチングの幅が広がりました。今ではチェンジアップに一番自信を持っています。
 2年間での成績は数字的にはあまりよくないのですが、1年目に比べて2年目は四球が減りました。これは成長したところだと思います。それと、自分自身の課題も明確になりました。一番は変化球のコントロール。これが身につけられれば、もう少し楽なピッチングができると思います。これは今後の課題として取り組んでいくつもりです。

―― ピッチングで心がけていることは?

鈴江: 球の軌道を意識しています。真っすぐがシュートしたり、スライダーしたりする時は、体が開いていたり、ヒジが下がっている時なので、すぐに修正するようにしていますね。

 未知なる世界への挑戦

 信濃に入団するまでにはさまざまな苦労があった鈴江投手。果たして、その過去とは。そして、何を支えに乗り越えてきたのか。彼の本音に迫った。

―― 高校1年で右ヒジを手術している。原因は?

鈴江: おそらく中学まで全くケアをしていなかったのが原因だと思います。高校入学直後から痛くて、箸も持つことができませんでした。病院で検査をしてもらったのですが、医者からは「投げすぎだ」と言われました。結局、右ヒジ靭帯損傷と診断されました。9月に手首の腱をとってヒジに移植するという大きな手術をしました。投げられるようになったのは2年の秋、新チームになってからですね。それも球数制限つきで。

―― 一番の支えになったのは?
鈴江: チームメイトです。みんな自分に期待してくれていて、「3年になれば大丈夫」って励ましてくれました。それでも、やっぱりしんどくて、野球を辞めようと思ったこともあります。でも、自分には野球しかない。だから、頑張ろうと。

―― 大学は1年夏に自主退学。その理由は?

鈴江: 大学では雑用が多くて、思うように練習ができなかったんです。グラウンド整備、草むしり、上級生の練習の手伝い……。そうこうしている内に夕方になってしまう。夕食後、ようやく練習しようと思っても、室内練習場は上級生が使っていますから、端の方でちょっとやるだけ。それでも試合で結果を出さなければ、文句を言われる。こんなんだったら、クラブチームに入って自分で練習した方がいいと思ったんです。それで大学を辞め、高校の監督さんから紹介してもらった江藤省三さんが監督をしている横浜ベイブルースに入りました。みんな仕事をしていますから、普段は高校の練習に参加させてもらったりしていました。
 でも、今考えるとこれが僕のターニングポイントになったと思います。思い切って大学を辞めたから信濃にも行くことができましたし、今回、ロッテの入団テストを受けることもできた。また、クラブチームの厳しさもわかりましたし、台湾の野球も経験することができた。あのまま大学にいるよりも、ずっと有意義な4年間を過ごせたのではないかと思います。

 昨年、BCリーグ出身第1号の内村賢介選手(石川ミリオンスターズ−東北楽天)が、1年目から支配下登録された。そればかりか、レギュラーの座までもつかみとってしまった。これには鈴江投手も非常に刺激されたようだ。

―― プロでの目標は?

鈴江: 1年目で支配下登録されることです。そして、すぐにでも1軍で投げられたらと思っています。自信は……微妙です(笑)。でも、マウンドでは緊張はしないので自分の力を出せると思います。

―― 対戦したいバッターや、勝負したいピッチャーは?

鈴江: 阪神2軍に高校の先輩の小宮山慎二さんがいるので、ぜひ対戦してみたいですね。僕が指名されたことを連絡したら、知らなかったようでかなりビックリしていました。「なんで、お前が……」って(笑)。それと同い年の涌井秀章(埼玉西武)とは投げ合ってみたいです。高校時代、神奈川の大会で涌井のいた横浜高校と2度対戦していて、1勝1敗なんです。だから、プロの世界で決着をつけたいなと。

―― 昨年、1軍定着した内村選手に対して。

鈴江: すごく刺激を受けましたよ。帰宅してニュース見れば、彼が映っていたりするじゃないですか。もう単純に「すげぇな」って感じでした。同じリーグで戦っていたとはとても思えなかったですね。でも、BCリーグもNPBの2軍とはいい勝負ができるくらいまでレベルが上がっている。自分も自信をもっていきたいと思っています。ファンには自分の豪快さを見てもらいたいですね。

「Unknown World(未知なる世界)」
 鈴江投手の座右の銘だ。クラブチーム時代、なんとなく開いた英和辞典で見つけたのだという。偶然ではあったが、将来が見えない自分にはピッタリの言葉だと思った。「この先、どうなるかわからないけど、だからこそ明るい未来が待っているかもしれない」――今、まさに未知なる世界に飛び込もうとしている鈴江投手。明るい未来を信じて、いよいよプロでの挑戦が始まる。

<鈴江彬(すずえ・あきら)プロフィール>
1985年12月25日、神奈川県出身。中学時代は全国大会に出場。甲子園を目指して横浜隼人高校に進学するも、1年時に右ヒジを手術。約1年間のリハビリを経て、3年夏は県大会ベスト4。東京農業大学を1年夏に中退し、クラブチーム「横浜ベイブルース」へ。途中、台湾プロ野球の入団テストを受けたが、不合格に終わった。07年、BCリーグ信濃グランセローズに入団。先発、中継ぎ、抑えとフル回転し、チームに大きく貢献した。2年間での通算成績は54試合に登板し、5勝4敗4セーブ、防御率2.83。180センチ、95キロ。右投右打。

(聞き手・斎藤寿子)

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