フッキの退団、ジュニーニョの負傷など元気のない川崎FW陣の中で、注目を集めているストライカーがいる。北朝鮮代表FWの鄭大世だ。30日の千葉戦で今季初ゴールを決めると、2日の札幌戦では2得点をあげた。2月に行われた東アジア選手権、対日本戦、4人のディフェンダーをものともせず、ペナルティエリア手前から目にも鮮やかな先制ゴールを奪ったことも記憶に新しい。過日、屈強な肉体とゴールへの執念を武器に得点を重ねるストライカーに二宮清純がインタビューを行った。W杯予選のバーレーン戦、まさかの敗北を喫した日本代表に足りないものは何なのか――。
二宮: まず、2月の東アジア選手権、対日本戦でのゴールについて振り返って頂きたいんですが、あれは随分トラップがうまくいった。日本の選手がお見合いしたように見えたのは、あそこで抜けてくると思わなかったんですかね?
: オレが持ち出した方のサイドに一人、味方が上がってきていたんですね。DF内田篤人(鹿島)がそれを警戒しながらオレに対応したことでプレッシングが遅れた。それで、空いた隙間を狙って打ったら、入っちゃいました。

二宮: タイミングを外したようにも見えたけど?
: GK川島永嗣さん(川崎)もあのタイミングでオレが打ってくるとは思わなかったんじゃないですか。その前の日の新聞に「テセのシュートは見切っている」みたいなことが書いてあったので、「ああ、やりにくいな」っていう感じだったんですけど。そこでフロンターレでのプレースタイルとはガラリと変えた。そうしたことでタイミングが読めなかったんじゃないですか。

二宮: 続く中国戦でもゴールを決め大会通算得点を2に伸ばしましたが、惜しくも単独得点王には届きませんでした。もう1点ぐらい獲れましたよね。
: そうですね。中国戦でも、チャンスが1つあったし……。自分が点を入れられなくても、チームとして勝ちたかったですね。

二宮: 北朝鮮代表のチームワークはどうだったんですか? チームとしては初めて合流したんでしょう?
: そうですね。あのメンバーでは初めてですね。去年、東アジア選手権の予選があって、一緒にやったんですけど、その時とはメンバーが違いましたね。コンビネーションはまだまだですね。

二宮: 対戦してみて日本はどうでした?
: いやあ、やっぱりすごいチームというか、いいチームでしたね。日本はつなぐミスが少ないし、崩す時はしっかり崩す。特別な個の怖さというのはなかったですけど。

二宮: 個の怖さは韓国の方が上ですか?
: はい。もう全然。

二宮: 日本の場合、大事にいきすぎるところがあるんでしょうか?
: そうですね。でも、日本が相手だと、サイドから簡単に崩されるんですよ。見ている方は面白くないでしょうけど、やられた気がしないのにやられている。韓国戦みたいに力負けして、「うわー、やられた」となることはないんですけど……。

二宮: 日本はサイド攻撃がうまいと?
: 右サイドの内田とか上がるタイミングがすごくうまい。ただ、あの時はMF中村憲剛さん(川崎)とMF山瀬功冶さん(横浜FM)がいなかった。

二宮: あの2人がいたら怖かった?
: 怖かったですね。あの2人が日本のキーマンだと思います。山瀬さんは、やっぱりゴールに向かう姿勢がすごいじゃないですか。憲剛さんはサイドの崩しに加えて、展開もできるでしょう。ここ一番のスルーパスも怖いですね。

二宮: あの時は2人の代わりがMF山岸智(川崎)、MF遠藤保仁(G大阪)でゲームメーカーはMF羽生直剛(FC東京)だった。そのあたりはあまり怖くなかった?
: そうですね。羽生さんは個の力より、連係を重視する選手じゃないですか。でも、あの時は連係ができていなかったから、羽生さんもそんなに怖くなかった。

二宮: 北朝鮮戦、日本は無難な戦い方をしていましたね?
: そうですね。立ち上がりは無難でしたね。点を入れられてからの後半はガンガンきました。やっぱり、失点するのをビビッていたのか、ディフェンスラインが上がってこない。こちらが自陣でボール回しをしていた時もそうでした。実は、オレたちが警戒していたのはボランチの鈴木啓太さん(浦和)なんですよ。

二宮: それはどういう理由で?
: 北朝鮮代表はダブルボランチでトップ下がいないので、相手のボランチの前にすごく大きなスペースがあるんですよ。そのスペースを使われるのが一番怖かった。ところが、鈴木さんはディフェンスラインのところまで下がって、ボールを受けていたんですよ。オレとしてはすごく楽でしたよ。オレが点を決めると、日本は後ろでボールをもらう意識がさらに強くなったのか、鈴木さんだけでなく、遠藤さんや山岸さんまで下がりはじめたんですよ。そうなったら、オレたちの思うツボじゃないですか。攻撃に人数をかけられる方が怖かったのに……。

二宮: 後ろで回している間は決定的なチャンスはつくれないですよね。ただ、北朝鮮の場合、サイド攻撃に慣れていないところがありますかね?
: そうですね。全体的に全然じゃないですか。北朝鮮にプロリーグはもちろんないし、レベルはまだまだですよね。中国戦みたいに相手に引かれた時に、サイド攻撃とかを仕掛けたらいいのに、皆、守備的な意識だから上がってこない。それで、オレひとりや、ボランチからひとり上がってきて崩すのって無理じゃないですか。サイドを使おうとしたら、クロスの精度が全然悪いし。ちょっとそのあたりは直さないと、最終予選突破は厳しいんじゃないですかね。

<小学館『ビッグコミックオリジナル』5月5日号(4月20日発売)の二宮清純コラム「バイプレーヤー」にて鄭選手のインタビュー記事が掲載されます。そちらもぜひご覧ください!>