ワールドシリーズは5日、第6戦が行われ、ニューヨーク・ヤンキースがフィラデルフィア・フィリーズを7−3で下し、対戦成績を4勝2敗として9年ぶり27回目の世界一に輝いた。ヤンキースは2回、松井秀喜のライトへの2ランで先制。松井はさらに3回にはセンターへ2点タイムリーを放ち、5回にも右中間を破る2塁打を打って、得点を追加した。投げては先発アンディ・ペティットが6回途中3失点でまとめ、最後は守護神マリアーノ・リベラが締めた。「5番・DH」で先発出場した松井は本塁打を含む4打数3安打で、シリーズタイ記録となる1試合6打点をマーク。世界一に大きく貢献し、日本人初のシリーズMVPを獲得した。
 松井、シリーズタイの6打点(ヤンキース4勝2敗、ヤンキー・スタジアム)
フィラデルフィア・フィリーズ 3 = 001002000
ニューヨーク・ヤンキース   7 = 02203000×
勝利投手 ペティット(2勝0敗)
敗戦投手 マルティネス(0勝2敗)
本塁打   (フ)ハワード1号2ラン
       (ヤ)松井3号2ラン

【松井成績】
 4打数3安打6打点
第1打席 右本塁打 2打点
第2打席 中前安打 2打点
第3打席 右中間2塁打 2打点
第4打席 空振り三振

「初めてここまできて最高。自分でもビックリ。夢みたいです」
 松井にとってもヤンキースにとっても待ちに待ったチャンピオンの称号だった。王手をかけながらひとつ足踏みしての第6戦は背番号「55」のためにあるような試合だった。

 フィリーズ先発はベテラン右腕のペドロ・マルティネス。過去、松井はレギュラーシーズンでは打率.143と苦しめられてきたが、このシリーズ初対決となった第2戦では勝ち越し弾を含む2安打と攻略した。そのいいイメージを第1打席からバットに乗せた。

 初回の攻撃を三者凡退で終えたヤンキースは2回、先頭のアレックス・ロドリゲスが四球で歩く。松井はカウント2−0と追い込まれながら、ファールで粘り、フルカウントに。9球目、連続四球だけは避けたいマルティネスのボールが甘く入ったのを見逃さなかった。振り抜いた当たりはすぐにそれと分かるホームラン。白球はライトの2階席へと消えていった。松井の2ランでヤンキースは2点を先制する。

 なおも1点を返された3回、ヒットと四死球で満塁のチャンスで再び松井に打席が巡ってくる。カウント2−0と追い込まれながらの3球目、アウトハイのボールにタイミングを狂わせながらもバットをうまく合わせた。ハーフライナー気味の打球はセンター前へ。2者が生還し、4−1。松井がヤンキースの全打点をたたき出し、リードを広げた。

 一方、ヤンキース先発のアンディ・ペティットは中3日の登板が影響してか、毎回、走者を背負う苦しい展開。ただ、フィリーズ打線も5回までに併殺2つとちぐはぐな攻撃で、3回のジミー・ロリンズの犠飛による1点のみにとどまる。

 こうなると流れはホームのヤンキースへ。5回、2番手のチャド・ダービンを攻め、1死3塁から3番マーク・テシェイラのタイムリーで、まず1点を追加する。なおもロドリゲスが歩き、1死1、2塁。またもや得点圏に走者を置いて松井が打席に入る。これ以上の失点は許せないフィリーズベンチは左腕のJ.A.ハップにピッチャーをスイッチした。だが、この日の松井に左対左はまったく関係ない。カウント1−3からのスライダーを叩くと打球は右中間へ。2本目の本塁打かと思える大飛球はフェンスにぶつかり、2者をホームに迎え入れた。7−1。6点差となり、勝敗は決した。

 今シリーズの松井は13打数8安打で打率.615、3本塁打、8打点。「どういうわけかワールドシリーズではうまく打てた」。本人も自分の活躍が信じられないような面持ちだった。

 フィリーズは6回、主砲ライアン・ハワードが今シリーズ第1号の2ランで意地をみせたものの、その後はヤンキースの継投の前に得点を奪えない。7回には2死1、2塁の好機で今シリーズ5本塁打のタイ記録を打ち立てているチェイス・アットリーを打席に迎えるが、好調のバットは空を切り、三振に切ってとられた。

 そして最終回のフィリーズの攻撃も2アウト。守護神のマリアーノ・リベラが最後の打者、シェイン・ビクトリーノをセカンドゴロに打ち取ると、一斉にベンチから全選手が飛び出した。歓喜の輪にはもちろん笑顔の松井もいた。
「僕が(ヤンキースに)来るまでは毎年ワールドシリーズに出て、ワールドチャンピオンになっていた。長かったですね」
 巨人からFAで海を渡り、ピンストライプのユニホームを着て7年。2006年にはスライディングキャッチを試みて手首を骨折し、日本時代から続けていた連続試合出場がストップした。一昨年、昨年は2年連続でひざにメスを入れた。そのため契約最終年となった今季は働き場所が指名打者か代打に限られ、開幕当初は“不要論”が主流を占めていた。

「つらいことはなかった。勝ちたい、いいプレーをしたいと思っていただけ」
 言葉とは裏腹に松井の瞳は少しうるんでいるようにも見えた。松井とヤンキースにとって名誉挽回の戦いとも言えた2009年のポストシーズン。その戦いに見事勝利し、松井秀喜は最後に最高の栄冠を手にした。