出たあ~、と思わず叫んでいた。
 お化けじゃありませんよ。もはや、毎度恒例と言ってもいい、菊池涼介のスーパープレイ。

 9月8日の中日戦である。カープ先発の前田健太が好投。4-0とリードして迎えた7回表のことである。

 この回、マエケンは2死満塁のピンチを招く。ここで中日はとっておきの代打・和田一浩。前田はすでに球数100球を越え、正念場である。

 初球はアウトローに149キロのストレート。見事! と思ったが、審判の手が上がらない。押し出しも長打も避けたいマエケンとしては、2球目も同じアウトローのストレートを選択した。しかし、初球の判定のことがある。やや高く入ったのは仕方あるまい。

 これを和田が右へ強く叩く。打球は一、二塁間を破ってライト前タイムリー、と誰もが覚悟した次の瞬間、セカンド菊池がこれをライン際へ追って頭から飛びついて捕球するや、すばやく立ち上がって一塁送球。アウト!

 いやあ。「出た!」としか言いようがない。

 このプレー、何度ビデオを再生して見直しても、実に気持ちいい。というか、繰り返すうちに次第に快感が増してくる! こんな快楽にふけっているのだから、まあ、“菊池マニア”ですな。

 昔は、同じことを前田智徳のホームランでやっていた。だから、本来の私は“前田マニア”なのです、はい。

“前田マニア”、もとい、現“菊池マニア”の今年のオススメは6月20日のDeNA戦だろうか。

 3回裏2死無走者。投手はクリス・ジョンソン、打者はアーロム・バルディリス。完全なセンター前ヒットを菊池はセンター方向に追って、スライディングして捕球。そのままの体勢で一塁送球。ワンバウンドながらストライクの送球で余裕のアウト。よく言われることだが、捕るのもすごいが、そこから投げてアウトにする送球がすごい。

 と、菊池の守備ばかりほめていても仕方ないだろ、とお叱りを受けそうだ。かんじんのペナントレースはどうなるんだ?

 うーん。ここへきて、東京ヤクルト3連戦で(9月4日~6日)で負け越しているようではなあ。しかも6日は0-6の完敗。連勝しなきゃ3位はありえない、というのは子どもでもわかる理屈なのに……。

 この試合で、ヤクルトの山田哲人は30盗塁を達成し、今季のトリプルスリーをほぼ確実なものにした。

 思い出していただきたい。去年の今ごろ、山田と菊池はセ・リーグの最多安打を争っていた。今季、山田はさらなるブレイクをとげたが、菊池のバッティングは去年ほどの精彩を欠いた。

 仮に3位に上がるにせよ、このまま4位で終わるにせよ、今季カープが苦戦を強いられたのは、打てなかったことに尽きる。そしてその象徴的存在が、菊池と丸佳浩だ。

 今回は菊池についてふれておきたい。山田があれだけ大きく左足をあげるステップをしても打率を残せるのは、体の右足の側がピターッと止まって、微動だにしないからである。

 菊池も同じように左足を上げてリズムをとってステップする。しかし、山田と比べると、体の止まり方が甘くないだろうか。

 前田智徳さんは、テレビ解説で、
「どうしても、ボールゾーンを打ってしまうことが、今年はありましたのでね」
 とコメントしていた。

 菊池マニアとして思うのだが、彼はたぐい稀な身体能力の持ち主である。

 たとえば9月5日のヤクルト戦。9回表1死一、二塁で、松岡健一の初球はインハイのシュートがすっぽ抜け、菊池の頭あたりを襲った。これをエビぞりのようにしてよけて、左ヒジのデッドボールにとどめている。おそらく誰もができることではない。すばらしい反応だと思う。

 もちろん、彼の守備は何度くり返し見てもすばらしい。しかし、来季は3割2分打てるバッティングをつくり上げてほしい。菊池ならできるはずだし、投手陣の動向をひとまずおいて言えば、それこそが、カープ優勝への近道である(今年のような6弱状況で、どさくさまぎれにクライマックスシリーズに進むより、少々回り道をしても、他球団に力の差を見せて優勝できるような強いチーム作りを考えるべきだ)。

 これについて、もう一言、加えておきたい。

 よく評論家の方々は、外国人選手は一発がなければだめだ、とおっしゃる。そりゃ、ホームランは出たほうがいいに決まっている。しかし、いまのカープの勝敗は、あまりにブラッド・エルドレッド次第になっていませんか。4月、5月の超貧打の時期にさんざん指摘されたのは、エルドレッド不在で、ヘスス・グスマンの長打力不足だった。

 たしかにエルドレッド復帰後、彼の長打で勝った試合はいくつもある。

 極端な言いかたをすれば、こうなる。9月8日の中日戦に勝ったのは、初回にエルドレッドの先制2ランが出たからである。翌9月9日の中日戦で勝ちきれずに引き分けたのは、10回裏、1死満塁のチャンスでエルドレッドが犠牲フライも打てずに三振したからである(9回裏に2点差を追いつかれる中日も弱いし、追いついても勝ちきれないカープも弱い)。

 福岡ソフトバンクは、李大浩が打てなかったら負けるのか? 埼玉西武は、エルネスト・メヒアが打てなければ負けるのか? そんなことはない。彼らが打てない日は、日本人打者が長打を放つ。たとえば柳田悠岐や中村剛也や、ほかにも強打者はいる。

 あえて乱暴なもの言いをすれば、エルドレッド次第でいいのなら、監督、コーチはいらないじゃないですか。

 カープが真に優勝する力をつけるには、日本人の強打者を育てることは必須なのである。その意味でも、菊池には、山田に負けないくらいの打者になってほしいのだ(もちろん、セカンドの守備では、山田に勝っていると思うけど)。 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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