ある日のことです。編集長と私は、東京駅から横浜へ向かおうとしていました。雑誌の連載でのインタビューがあり、私も同行させてもらったのです。

 事務所を余裕をもって出たため、東京駅には予定していた電車の発車20分も前に到着しました。改札を通り、一番奥にあるホームまで行こうとすると、編集長が「ちょっと寄って行くから、先に行ってて」と言って、キヨスクへ。新聞を買いに行かれたんだろうと思い、私はひとりでホームへと向かいました。間もなくすると、電車が入ってきたので、ゆったりと座りながら資料を読んでいました。

 しばらくして、携帯が鳴りました。見ると、編集長からのコールです。「あれ、何番ホームか迷っているのかな……」と思って「はい、Sです。○番線の電車でお待ちしています」と言うと、「1本前の○分の電車に乗れたから!」と嬉しそうに編集長がおっしゃるではありませんか!

「えぇっ!? ○分ですか? 私、予定の電車に乗っているんですけど……」
「ごめん、ごめん(笑)」

 編集長が乗っている電車のホームはすぐ隣。とはいえ、長い階段を降り、さらに長い階段を昇らなければいけません。

 時計を見ると、編集長が乗っている電車が発車するまで、30秒もありません。「間に合うはずがない……」。一瞬、諦めかけましたが、「いや、もしかしたら奇跡が起こるかも!」と思い直し、ダッシュ!

「あぁ! 日頃から運動しておけば良かった!」と後悔の念でいっぱいになりながら、周囲の目も気にせず、ゼェゼェ、ハァハァ言いながら、階段を二段跳びで降りて昇り、隣のホームへ駆け込みました。

 階段を昇り切ったところで、発車を告げるメロディが流れ始めました。そして、私が電車に飛び乗った、その瞬間、プシューッと音をたてて電車のドアが閉められたのです。

「はぁ、間に合ったぁ……」
 ふと顔を上げると、隣の車両に編集長の姿が見えました。
「編集長! 間に合いました!」
 息を切らしながらそう言うと、編集長は「おぉ、間に合ったか。良かった、良かった」と何やら口の中がモグモグ……。ふと見ると、編集長の手にはお気に入りのアーモンドチョコレートが……。そうです、編集長はキヨスクにチョコレートを買いに行かれていたのです。

(えっ、ということは、チョコレートのおかげで爆走することに……!?)
 チョコレートを見ながら、目をぱちくりしていると、目の前にスッとチョコレートが差し出されました。
「なんだ、そんなに欲しいなら、Sの分も買ってくれば良かったなぁ」
「あ、いえいえ、そういうことでは……」

 編集長のチョコレート好きは、私が考えていた予想をはるかに超えていることを知ったのでありました。

(スタッフS)
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