9月1日、シチズンとのアウェー戦で、いよいよシーズンが開幕しました。新しいメンバーで練習を始めて約2カ月、チームとしても僕自身も不安なく、この日を迎え、どんなゲームができるかとても楽しみにしていました。

 ところが、実際の試合は練習通りにはなかなかうまくいかないものです。前日の激しい雷雨の影響でピッチはぬかるみ、チームで積み上げてきたパスサッカーができません。テンポが上がらず、結果的に前へボールを蹴りだすかたちに終始し、相手にペースを握られてしまいました。

 そんな中、横浜FC香港は後半8分に先制を許します。しかも、横浜FCからやってきたDFパク・テホンが2枚目のイエローカードで退場。ビハインドの上に数的不利ではチャンスも少なく、スタジアムは敗色ムードが漂い始めていました。

 しかし、「必ずワンチャンスある」とチーム全員が諦めなかった結果、後半36分、得点の機会が訪れます。ゴール前に詰めていた僕のところへ左サイドからの高いクロス。「これは絶対に決める」と思い切ってジャンプすると、頭ひとつ高く抜け出ることができました。タイミングよく頭を合わせ、同点ゴール!

 試合は1-1のドローに終わったものの、負けゲームで勝ち点1を拾えたことはまずまずの出だしと言えるでしょう。個人的にも1試合目でゴールが生まれたことは良かったと感じます。

 ただ、内容は決して褒められたものではありません。開幕前の出来を10とすれば、この試合は4くらい。僕ももっと前線で起点となってボールを収め、ポストプレーをすべきだったと反省しています。

 問題点を改善し、先週行った練習試合では2試合ともゴールを決めました。チームも開幕前のキャンプで取り組んだスタイルを継続できており、後は本番でそれを出すだけです。

 香港はまだ暑い日が続いており、開幕戦もカンカン照りで体力的にはタフなゲームとなりました。おまけに前日に雨が降った影響で湿気が多く、モワッとした空気が体全体を包みます。サッカーをするには厳しい環境とはいえ、それは相手も一緒です。どんな条件であれ、ベストを尽くし、結果を残すのがプロだと僕は思っています。

 高温多湿の香港では芝も育ちにくく、ピッチも荒れているスタジアムが少なくありません。しかも練習場は人工芝のため、ボールの転がり方が試合とは全く異なります。

 以前も紹介したように香港でサッカーといえば、イングランドのプレミアリーグが人気で、香港リーグはマイナーな存在です。多くのクラブは専用の練習場がなく、それは横浜FC香港も例外ではありません。

 しかし、こういった環境を良くするのも悪くするのも結局は選手次第。それを含めての戦いだと僕は考えています。タフな状況で勝ちぬき、結果を残してこそ、上のステップに行ける。今までのサッカー人生で、これは僕が何度も体験してきたことです。

 香港には日本では決して有名でなくとも、現地で一定のポジションを勝ちとり、頑張っている日本人がいます。今回、対戦したシチズンに所属しているMF中村祐人もそのひとりです。

 彼は大学卒業してJリーグ入りが叶わず、香港に渡りました。そこでトライアルを受けて合格し、今年が5年目になります。主に現在はトップ下を任され、攻撃の起点となり、対戦相手としては厄介な選手です。本人の活躍もあって、今では香港で有名な日本人サッカー選手と言っていいでしょう。
 
 こうして日本人選手が海外で価値を認められればその国の競技レベルの高さを示すことにつながります。ひいてはファンがその国に興味を持ったり、憧れを抱くきっかけにもなります。日本のイメージアップに立派な役割を果たしているのです。

 2020年に東京で五輪とパラリンピックが開催されることが決まりました。香港でこのニュースが大きく報道されることはありませんでしたが、現地在住の日本人ではもちろん話題になっています。

 もしかしたら7年後、今、同じフィールドでプレーしている若手の中で、各国・地域の代表として東京にやってくる選手が出てくるかもしれません。僕も若いGKの村井泰希には「オーバーエージ枠で東京五輪を狙え」とハッパをかけました。

 こういった具体的な目標が身近にできることは選手にとって大きな力になります。その意味では五輪、パラリンピックが日本の若者や子どもたちのスポーツのレベルをグンと上げることは間違いありません。

 福田家でも7年後には長女が18歳になります。サッカーを続けており、「なでしこジャパンで東京五輪に出られるように頑張れ」と話をしました。本人は、まだ他人事のようですが(苦笑)、さまざまな競技に取り組んでいる少年少女たちにとって東京大会で代表に選ばれる可能性は十分にあります。かつて五輪代表を目指した人間として、この点はぜひ強調したいと思っています。

 僕の7年後はどうなっているでしょうか。7年前はスペインにいたことを思えば、7年は結構、短いようにも感じます。どんなかたちであれ、サッカーに携わっていることは確実でしょうね。

 7年という年月も1日1日の積み重ねでしかありません。まずは目の前の1日をしっかり過ごすことで、このシーズンを最高のものにする。そこに集中して僕は戦っていきます。

 次節は15日にアウェーでレンジャーズとの対戦です。今季初勝利に貢献できるよう頑張ります。日本からもたくさん応援のパワーを送っていただけるとうれしいです。

(この連載は毎月第2、4木曜更新です)
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