日本に戻ってきて10日、今は横浜FCの施設を使わせてもらってトレーニングをしています。当初はトップチームの練習に参加予定でしたが、シーズン中ということもあり、ユースの選手たちと一緒に汗を流しています。

 名古屋時代の先輩でもある山口素弘監督や、カズ(三浦知良)さんと同じグラウンドでサッカーができないのは残念でしたが、若く伸び盛りの高校生と練習するのも貴重な経験です。

 正直、最初は20歳近く年齢の離れた選手たちの中に入っていけるか心配でした。でも、実際にボールを蹴っていると意外なほど溶け込めている自分がいます。横浜FCユースの選手たちは人間的な部分も含めて、しっかり教育されており、僕を温かく迎えてくれました。
(写真:若い選手とは練習の合間によく話すが、ジェネレーションギャップを感じることも(苦笑)) 

 指導者を含め、クラブスタッフの皆さんにも本当によくしていただいています。練習にあたってはウェアや心拍数などを測定する器具を貸してもらっていますし、食事も朝、晩とクラブハウスで食べさせてもらっています。

 雨天時には隣接する体育館でトレーニング可能ですから、環境も充実しています。先日はピッチに水たまりができるほどの雨だったので、練習の一環でバスケットボールをしました。バスケをするのは久々でしたが、シュートを何回も打って、ようやく1本、きれいに入ったので気持ち良かったです。

 実は滞在先もDFペ・スンジンのところに居候させてもらっています。彼は一昨年まで徳島ヴォルティスに在籍しており、愛媛時代に四国ダービーでFWとDFでバチバチやり合った(笑)間柄です。

 ただ、それをきっかけに交流が生まれ、食事に行ったり、連絡を取り合っていました。今回の練習参加を彼に伝えると、「うちに泊っていってください」と思わぬ申し出を受けたのです。当初はホテル暮らしも考えていただけに、人のつながりをありがたく思いました。

 練習はユースでもプロのコーチがついていますから、基本的にはトップチームと似通ったメニューになっています。高校生と比べればまだまだフィジカル面で負けていないとはいえ、タイムを設定しての1キロ走を6本繰り返したり、アジリティを高める練習はそこそこキツいです(苦笑)。

 僕はオフを経て、フィジカルを徐々に来季に向けて高めている段階。今になってみれば、シーズンバリバリのトップチームに入ってトレーニングするよりも、ユースレベルの強度で体を動かすのがちょうど良かったと感じています。

 それにしても僕の高校時代と比べて、今のユースの選手は本当にうまいですね。体格も立派です。ただ、長年プロでプレーしてきた立場で言わせてもらうと、それだけでは競争の世界では生き残れません。

「うまい」にプラスして、自分にしかない強みをいかに見つけ、どう伸ばすか。その他大勢に埋没するのではなく、個性や特徴をアピールすることが大事になってきます。「個の力を高める」という課題は先のコンフェデレーションズカップでも日本代表に関して言われていました。これは若手に限らず、日本全体がさらに上を目指すために必要なことかもしれません。

 練習をしていると、選手からいろいろな質問を受けます。心構えや体の使い方、テクニックに関することなど内容は人それぞれです。でも、僕は彼らに答えは教えないようにしています。

 答えを言ってしまうと、それで分かったような気になってしまうからです。これでは本当の身にはなりません。やはり最終的に力になるのは、自分で考え、体得したものだけ。だから、僕は答えではなく、ヒントを伝えるように心がけています。

 特にサッカーは試合中、外から細かく指示を出すことが難しい競技です。個々の状況判断やアイデア、自発的な行動が勝敗を左右します。その意味でも、若い時期から自分で考え、判断する能力を養ってほしいと感じています。

 今回出会った高校生から、ぜひ日本を背負って立つような選手が出てきてほしいものです。そして互いにレベルアップした姿で再会できるのを楽しみにしています。

 充実した日本滞在も残りわずか。7月になったら、また香港に戻り、新チームでの始動に備える予定です。若い選手から僕もパワーをたくさんもらいました。それを新たなエネルギーに変え、頑張りたいと思っています。

(この連載は毎月第2、4木曜更新です)
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