今年1月にドイツ2部の1860ミュンヘンに移籍したFW大迫勇也が、順調にゴールを重ねている。

 ここまで9試合に出場して4ゴール(3月30日終了時点)をマーク。現在9位のチームは昇格プレーオフ圏内の3位まで勝ち点11差あり、1部昇格は極めて厳しい状況ではあるものの、このまま活躍を続けていれば彼自身に1部チームから声が掛かることも十分に考えられる。実際、昇格できなければ違約金200万ユーロで移籍できるという条項が盛り込まれているとの報道もある。こういう報道が出ること自体、ドイツでも注目され始めている証拠。新天地に移って3カ月が過ぎたが、大迫はチームの顔になりつつある。

 1月に彼が海を渡ったのは、その時点で半年後に迫っていたブラジルW杯を見据えるという意味が大きいだろう。

 しかしこの時期の移籍というのは、少々リスクが高い。欧州間の移籍なら分かるが、日本から欧州への移籍となると、欧州のシーズン途中に入る難しさに直面しながら環境にも慣れていかなければならない。“助っ人”だけに結果を出せなければ、出場機会だって減ってくる。半年というリミットのなかで答えを出していかないと、W杯に影響を及ぼしかねない。

 それでもドイツ移籍を決断した理由とは何か。

 以前、大迫はこう語っていた。

「W杯に出ることが小さいころからの夢だし、それを実現するためには何でも頑張りたいなと思う。ただ、出るだけじゃなくて、そこで点が取れるだけの力をつけたい。そのために今を、目の前の試合を自分のレベルアップとして頑張るだけ」

 そう、彼にとって、メンバーに入るだけでは意味がないのだ。本大会で活躍することをセットにしての目標。ドイツ2部の舞台とはいえ、フィジカルの強いドイツの守備は激しい。ここでゴールを挙げなければ本大会での活躍もないと覚悟を決めたうえでドイツ行きを決めたのだろう。

 ザックジャパンの1トップ候補。大迫はFW柿谷曜一朗(C大阪)とレギュラーを争う立場だ。

 昨年7月の東アジアカップではA代表デビューとなったオーストラリア戦で2ゴールを挙げ、9月のグアテマラ、ガーナ戦でも招集されると2試合とも出場を果たした。翌月のセルビア、ベラルーシ遠征は代表メンバーから外れたものの、11月の第2次欧州遠征に招集され、先発のチャンスをつかんだオランダ戦で0-2から反撃の狼煙を上げるゴールを挙げた。レギュラーの座をグイと引き寄せる彼の“出世試合”ともなった。

 クールなゴールはインパクトも大きかった。
 DF吉田麻也(サウサンプトン)がボールを奪ってMF長谷部誠(ニュルンベルク)に預けると、大迫は相手のセンターバックとサイドバックの間に入ってラストパスを受け取っている。絶妙な入り方、抜群のタイミングだった。帰国してから、このシュートシーンを振り返ってもらったことがある。

「試合前からオランダは、サイドバックが上がってセンターバックが(横に)開いてという感じでボールを回すのは分かっていたし、そこにギャップがあるだろうなとは思っていました。スペースを使えたし、ゴールもイメージどおりだったかな」

 冷静だったのは、スペースを取る動きばかりではない。スルーパスに合わせてシュート体勢に入り、GKの重心が右に傾くのを見て、咄嗟にコースを左に変えて流し込んでいる。
事前情報に加え、ピッチ上の状況を常にインプットしたうえでの一連の流れはパーフェクトであった。それも強豪オランダ相手なのだから、価値は高かった。

 11月の遠征前、彼に己の“磨きたいところ”を尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「泥臭いゴールをもっと取りたい。どっちかと言うと、きれいな形(でのゴール)が多いんですよ。だから泥臭いゴールで点数を増やせれば、もっとコンスタントに点が取れるかなと思います」

 確かにオランダ戦もきれいな形だった。だが、ドイツデビューで初ゴールを挙げたデュッセルドルフ戦(2月10日)では新境地を見る思いがした。

 味方のシュートをGKが弾いたところを鋭い出足で奪い、左足で決めるという泥臭さがあったのだ。大迫の並々ならぬ決意と覚悟を見ることのできたゴール。彼は着々と、己の目標に向かって突き進んでいる。

(このコーナーは第1木曜日に更新します)
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