ボールを扱うテクニック、ボディコントロール、判断力、シュート力……。
 4月27日、Jリーグ第8節のアルビレックス新潟―鹿島アントラーズ戦。20歳の若きボランチ柴崎岳が決めたロングシュートには、様々なエッセンスが高いレベルで詰まっていた。

 前半6分だった。センターサークルで野沢拓也が落としたボールを柴崎は左足のトラップで斜め前方に出し、奪いにきた相手の前に体を入れながらサッとかわしてみせた。そして空いたスペースにドリブルでボールを運んでいく途中で相手GKが前に出ていることを確認すると、迷うことなくGKの上を狙うシュートを打ち込んだのだ。距離にして35mほど。不意を突かれたGKはシュートを弾き切れず、ゴールを許した。

 まるで“精密機械”のようだった。一連の動きに一切の無駄がなく、躊躇もなかった。とても20歳とは思えないほどの熟練の味があった。

 ホッフェンハイムの宇佐美貴史らと同じ、才能あふれる「プラチナ世代」の一人。
選手層の分厚い鹿島のなかで2年目からレギュラーの座を掴んでおり、“ポスト遠藤保仁”(G大阪)の呼び名も高いパスセンスに長けたボランチだ。

 3年目の今季はミドル、ロングレンジからのシュート意識が非常に高い。開幕戦のサガン鳥栖戦(3月2日)、続くベガルタ仙台戦(同9日)でも積極的にミドルシュート狙い、第6節の大分トリニータ戦(4月13日)ではその意識の高さが結果につながった。

 ダヴィが左サイドでボールキープする間にスルスルと前線に駆け上がり、PA手前でパスを受け取るとGKが重心を右にかけるのを見て、逆をついてグラウンダーのミドルシュートをゴール左隅に決めたのだ。

 巧さ、判断の良さという才能の片鱗は1年目から見せていた。しかし、昨季からは力強さがグッと増してきている印象がある。守備でも攻撃でもボディコンタクトの部分で相手に負けず、運動量も実に豊富になった。前に行く回数が増えた分、シュートを狙える場面も多くなってきた。

 これらは柴崎がずっと取り組んできている“肉体改造”の成果と言っていいだろう。身長175センチと決して大柄ではない彼は体幹トレーニングや筋力トレーニングに励み、食事の量も増やして当たり負けしない体をつくってきた。

 開幕後、彼に話を聞く機会があった。間近で見ると確かに体がガッシリとしていた。

「自分の体はどちらかと言うとネガティブな要素でした。未来の自分に対する行動がどれほど大切なのかは分かっています。レベルの低い取り組みであれば、それなりの姿にしかなっていなかったと思います」

 淡々とした口調ながら、意識の高い取り組みをしてきたという強い自負が漂っていた。

 彼が今、目標のひとつとして掲げているのが来年のブラジルW杯出場だ。日本代表には昨年2月の親善試合アイスランド戦で一度招集されているが、あのときは「若手枠」として代表の空気を経験する意味合いが強かった。

 しかし、今の柴崎はあの頃とはひと味もふた味も違う。鹿島のレギュラーに定着するだけでなく、昨季のヤマザキナビスコカップ決勝では2ゴールを挙げてMVPを獲得するなど結果も残してきた。これから益々、チームの中心として輝きを放っていくことができれば、代表に招集される可能性が出てくるはずである。

 彼は言う。

「W杯に出場したいという気持ち自体はサッカーを始めたときから、ひとつの夢としてずっと持ってきました。4年に1度しかない大会ですし、何回出られるかも分からない。(ブラジルW杯は)その初めてのチャンスになるので、出場したいという気持ちは当然あります。

 そのためにはこの鹿島で試合に出場して、得点数、アシスト数と個人の結果にもこだわっていかなければならない。ただ、代表に選ばれないとどうしようもないですから。鹿島での毎日がすべてなんじゃないかなと思います」

 代表入りを現実のものとするために、柴崎は「結果」にこだわっていく。

(このコーナーは第1、第3木曜日に更新します)
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