“ハマのカンペイ”をご存じだろうか。
 リーグ戦開幕6連勝と波に乗る横浜F・マリノスを支える1人、ボランチの富澤清太郎である。お笑いタレントの間寛平に似ているため「カンペイ」の愛称で呼ばれているとか。

 J2の東京ヴェルディから移籍して2年目、今やチームには欠かすことのできない存在になった。4月6日のサンフレッチェ広島戦では豪快なミドルシュートを叩きこみ、次週の川崎フロンターレ戦ではセットプレーから2試合連続のゴールを挙げている。プレーもさることながら、富澤のキャラクターがチームに勢いをもたらせている。

“カンペイ効果”は昨季から感じていた。
 マリノスの雰囲気はどちらかと言うと、都会の気風なのか落ち着いたイメージがあるように思う。特に“ミスターマリノス”の松田直樹が退団してからはその傾向がますます強くなっていた。富澤も東京出身で都会のにおいが漂う経歴なのだが、そのキャラクターは“都会人”とはちょっと異質だと言える。この人、練習からとにかく熱いのだ。

「あー、俺、下手くそ!」

 昨季、マリノスの練習を見に行くと、ミスをした富澤が大声を挙げて悔しさを表現していた。周囲がその声につられて笑うのだが、富澤の姿勢がチームのいい雰囲気をつくっているようにも思えた。練習から負けず嫌いな部分を前面に押し出していくことで、周りを感化していくようにチームメイトの気持ちのスイッチも入れていく。

 彼のその姿を評価していたのが、キャプテンの中村俊輔だった。

「カンペイは30歳だけど伸びている。ヴェルディから移籍してきて環境を変えたことでプレッシャーもあったんだと思う。“ここで何か吸収してやろう”っていうのも伝わってくるし、だから、このタイミングでこういうプレーをやってみたら、とか簡単に話をするだけで理解してやっている」

 富澤は元々センターバックの選手。しかし、マリノスではほとんどの試合でボランチとして起用されている。後ろに控える中澤佑二、栗原勇蔵という日本屈指のコンビから守備の考えを吸収し、前方のトップ下でプレーする中村からはゲームの流れを読む力を学んできた。アドバイスに対して積極的に耳を傾け、自分のモノにしてきた成果が今季、存分に表れている。

 開幕前、富澤はこう言っていた。

「マリノスに来ていろんな人との出会いがあって、考えることの幅がすごく広がりました。ただ何をしなきゃいけないかって突き詰めていくと、そこにはやっぱり技術が必要になってくる。だから考えの幅を広げて、プレーの質を上げていくために、日々の基礎練習をしっかりやってきました。

 心がけているのは俊さんがフリーになるときを絶対に見逃さないこと。そこで思いどおりのパスを出せれば、チームとして絶対にチャンスになりますから。そのために視野の確保、技術を突き詰めていきたいと思っているんです」

 今季は、昨季の4位を上回る成績を目指すマリノスだが、決して優勝候補というわけではない。「10番」を着けていた小野裕二がベルギーに渡り、大黒将志、谷口博之、狩野健太、金井貢史らの主力級もチームを離れた。補強はあったものの、戦力ダウンは否めないとの印象が強かった。

 しかし、昨季から積み上げてきた攻守にハードワークするスタイルが板につき、自分たちのサッカーができなくともセットプレーからゴールを奪って勝ち切るしぶとさも身につけた。

 中村という大黒柱の存在は極めて大きいが、中村を支える富澤ら“脇役”の働きも見逃せない。特に富澤は攻守において効いている。マリノスが優勝争いにそのまま突き進んでいけるかどうかは、彼の働きがひとつのカギを握ってくるだろう。
 
 今季の目標を尋ねると、富澤は迷わず言った。

「僕、負けん気が人一倍強くて……だからやっぱり優勝って言いたいですね。個人的には日本代表を目標にしています。そのためにも1つ、2つと上にのぼっていきたい。日々の練習を大事にして、突き詰めていきたい」

 30歳ながら向上心は増すばかりだ。

 レギュラーの平均年齢が30歳という“オジサン集団”のマリノスだが、気持ちは若い。その代表格である「カンペイ」がチームを引っ張っていく。

(このコーナーは第1、第3木曜日に更新します)
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