ザックジャパンが大一番を迎える。
 ブラジルW杯アジア地区最終予選、アウェーのヨルダン戦が3月26日にアンマンで行なわれる。勝ち点13でグループBの首位を走る日本はヨルダンに勝てば5大会連続となるW杯出場が決定する。たとえ引き分けに終わっても、別カードのオーストラリア―オマーンが引き分けならば決まるという状況だ。

 ヨルダンはグループ最下位とはいえ、ホームでは2戦して1勝1分け。グループ2位のオーストラリアに勝ち、同3位のイラクと引き分けているのだから油断は大敵である。

 関塚ジャパンがロンドン五輪の予選でも使用したスタジアムのピッチコンディションは悪く、パスサッカーを武器とする日本にとっては不利な条件となる。また時差、気候、中東の独特な雰囲気に加えて今回はMF本田圭佑(CSKAモスクワ)、DF長友佑都(インテル)というチームの主軸が2人いないわけだから、簡単なゲームになるとはとても思えない。

 そのなかでゲームのカギを握るのは、「10番」を背負うMF香川真司(マンU)だと断言したい。ノーリッジ戦でハットトリックをマークするなど勢いに乗って代表に合流してくるだけに、彼に懸かる期待は大きい。

 しかしこの香川、最終予選で輝きを放ってきたとはちょっと言い難い。昨年6月の3連戦でスタートした最終予選。初戦のオマーン戦でスルーパスから前田遼一のゴールをアシストし、続くヨルダン戦では1ゴールをマーク。トップ下の本田とポジションを入れ替えながらスピーディーな連係で相手を圧倒している。確かに、日本のスタートダッシュに貢献はしたものの、主役はあくまで本田だった。

 その後、9月のイラク戦、11月のオマーン戦をケガで回避。チームはそこで2連勝をマークしたわけだが、香川はその舞台にいなかった。

 10番を背負う者の宿命――それは勝負の懸かった試合でチームを勝利に導くこと、それはチームの危機を救うこと。まさにそのシチュエーションが、今回のヨルダン戦だ。
 日本の10番は選ばれし者のみが着けてきた。木村和司、ラモス瑠偉、そして近年では名波浩、中村俊輔。彼らがこだわったのは、いかに勝利のために貢献できるか。

 かつてラモスから「10番」の役割について聞いたことがある。彼は32試合に出場してゴールはわずか1得点に過ぎなかったものの、魂のこもったプレーは多くの人々の記憶に強烈に焼きついている。

「代表でゴールが少なかったのは勝ちたくて仕方がなかったから。どんな試合だろうが、代表のユニホームを着たら負けられないですよ、絶対に。それが自分のなかに最初にあった。まずは守ってから点を取りにいこうと。だからあんまり前に顔を出さなかったというのはある。やっぱり代表チームというのは、何があっても勝たなきゃいけないから」
 
 名波が心がけたのは「ユニホームを汚す10番」だった。チームのため、を何よりも優先させ、泥臭いプレーも厭わなかった。「10番には勝敗の責任を背負う宿命がある」が名波の持論だった。

 香川が10番を着けるようになったのは、中村俊輔が代表引退を表明してザックジャパンが立ち上がったときからだ。2011年のアジアカップではその責任を背負いこんでしまい、プレーに堅さが目立った。言葉に出せないほどの重圧があったに違いなかった。

 だが、もうあれから2年が経ち、そろそろ「10番」が似合ってきてもいい時期ではある。
「10番」の大先輩、木村和司に香川へのアドバイスを尋ねたことがあった。そのとき、木村はこう言った。

「ワガママはいかんけど、10番に“我が、まま”は許される。ある程度、自由にやることも大事やとワシは思う。メッシのバルサみたいにしっかりした10番がいるチームは強い。周りとの信頼関係を築いて“我が、まま”でいてほしいなと思うね」

 重圧をはねのけて、いかに勝利に導けるか。いかに“我が、まま”でやれるか。2試合を残しての予選突破は、香川真司の「10番」の輝きに懸かっている。

(このコーナーは第1、第3木曜日に更新します)
◎バックナンバーはこちらから