「スゴイ! 芥川賞とったんだぁ」
 お笑いタレントの又吉直樹が書いた作品『火花』が、芥川賞を受賞したと大きく報じられた。この受賞作は、かつての自分を重ねた青春小説だという。

『火花』は、文学作品だとの思いから少し腰が引けていたが、「青春」の二文字を見て、一気に読んでみたいという意欲が湧いてきた。いまの僕にとって、青春という言葉の響きは、なんとも心地よく、不思議と引き寄せられる感覚がするのである。

「青春」を辞書で引くと「夢や希望に満ち、活力のみなぎる若い時代を、人生の春にたとえたもの」と書かれてある。がんを告知され、絶望的な日々を過ごしている僕にとって、夢や希望こそが一番手に入れたいものなのかもしれない。

 その意味では、青春真っ盛りの娘を見ていると羨ましく思える。「今を生きている」というのが、ストレートに伝わってきて眩しいぐらいだ。

「娘に負けるわけにはいかん!」
 僕は妙なところで、ライバル心を燃やしてしまうところがある。

 しかし、これはハッタリでも強がりでもなく、本気で第二の「青春」を歩んでいこうと強い決意を胸に抱いているのだ。そのためには、がん克服は絶対条件である。

「治療だけでなく、そろそろ何か燃えることに意識を向けたいなぁ」
 そんな中、目の覚めるような話が舞い込んできた。

「この連載している『マル秘ファイター列伝』を本にしませんか?」
 うれしい打診に僕は小躍りした。自分の本を出版するのが夢でもあったので、願ってもないチャンスである。

 もう免疫力は完全にアゲアゲだ。
「まず、本のカバーの写真を選んで送ってください」
 初めての打合せの時に担当者の方から、早速このような要請があった。

 表紙はとても重要なので、どのような写真にすべきか頭を悩ませた。担当者からは、宣材写真や記念写真ではなく、試合中の躍動感があるものを薦められた。

 選手だった頃の写真データは保管していないため、カメラマンに声をかけるしかない。新日本プロレスのオフシャルカメラマンである山本正二さんや、東京スポーツ新聞社の秋山直毅カメラマンの顔が浮かんだ。

「現役の頃のインパクトのある良い写真などありますか?」
 さすがに引退して9年も経っているため、どちらのカメラマンも良い返事は返ってこなかった。他にも何人かのカメラマンを当たってみたが、ときめく写真には出会えなかった。

「どうしよう……」
 約束の期日が迫っていたある日、苦し紛れにとんでもないアイデアが浮かんだ。選手の頃に何度か専門誌の表紙を飾ったことがあるが、それをリバイバルさせてみてはと考えたのだ。

「これまでの表紙で一番インパクトがあったのは週プロのあれだな」
 僕は押入れから、それを引っ張り出して、改めてじっくりと見てみた。

「うわ~、若いね」
 一緒に見ていた息子は大笑いした。確かに今と違って、髪の毛もあり、若さがあふれ出ている。21年も前の写真だから、子どもに笑われるのも無理はない。

「これ、武道館のメインを任された時のだよ」
 僕は少し自慢気に息子へ説明を始めた。1994年2月、田村潔司選手との若手対決で、武道館のメインを任されるという使命感に燃えに燃えていた。

 それにしても表紙の『カッキーの春』というフレーズと、写真が見事にマッチしていて、勢いを感じる。
「よし、これでいこう!」
 カバー写真はこれに決まった。協力してくださった『週刊プロレス』の佐藤正行編集長に感謝である。

 少し肩の荷が下りたところで本のタイトルの提案があった。
『Uの青春 ~カッキーの闘いはまだ終わらない~』
 ぴったりだ! 今の自分にとって一番元気の出る言葉である「青春」が入っていることに感動してしまった。これ以上のタイトルはない。

「僕にとって青春の象徴は、夏の青空です。ですので、どこかに青空を入れていただけませんでしょうか?」
 表紙のデザインを決める際、僕は担当者にこのような希望を口にした。

 そして、本の帯部分にはエールを送ってもらいたい3人の名前を挙げた。小橋建太さん、高山善廣選手、それに桜庭和志選手だ。

 小橋さんは、全日本プロレスの時に何度もシングルで熱い闘いをした。それに何よりもがんを克服した先輩なのだ。余談だが、若い頃のニックネームは「青春の握りこぶし」であった。

 高山選手と桜庭選手は、それぞれプロレス界、格闘技界の頂点を極めた尊敬すべき後輩である。彼らの言葉こそが僕の志を鼓舞する。

「素晴らしい! めっちゃ元気が出る」
 一足早く、3人のメッセージが入ったカバーの完成版を見せてもらったが、納得のいく素晴らしい出来栄えであった。

 この本は、僕のレスラー人生を振り返るだけでなく、第二の青春物語の開会宣言でもある。それだけに応援してくれている関係者やファンの方に、ぜひとも読んでいただきたい。

 発売は8月中旬の予定だ。

(このコーナーは第4金曜日に更新します)

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