「がんを克服したプロレスラーは、身近でも小林邦昭さんや藤原喜明さん、西村修さん、小橋建太さんとたくさん居ます。だから絶対大丈夫ですよ!」

 僕の病気を知った上井文彦さんから連絡があったのは年を越して間もない頃だった。上井さんは、新日本プロレス黄金期を支えた営業部長だったこともあり、かなりの熱血漢なのだ。がん告知を受けて、出口の見えないトンネルに迷い込んでいた僕には、上井さんの言葉が心に大きく響いた。

 そうなのだ! 引退しているとはいえ、僕はプロレスラーなのだ。レスラーは超人でなければならない。がんになったからといって弱気になっているようではレスラー失格である。不屈の闘志で頑張っている先輩レスラーを見習わなくてはいけない。

「(アントニオ)猪木さんや(アニマル)浜口さんのあの気合! あの元気があれば、病気の方から逃げ出しますよ。垣原さんは、同じ病で生きる希望を失いかけた人たちの希望の光にならないといけないのです」

 上井さんの口調は、ドンドン熱を帯びてきた。
「そのがんを克服したメンバーで、NPO法人を設立して、全国を講演に歩かれてはどうですか? 新しい希望もわいてくるじゃないですか!」

 どこまでもプラス思考な上井さんと話をしていると、その気になってくるから不思議だ。その気になるというか、ある種の勘違いが人生において大きな武器になることを僕は経験で知っている。

 カラダが小さく、格闘技の実績が全くなかった僕が、UWFに入門し、レスラーになれたのは、それこそ勘違いの賜物なのである。故郷・愛媛にいた当時の僕は、レスラーになれると思い込み、長州力選手や高田延彦選手とリングで対戦するのを妄想していた。中学の卒業式の日に他の生徒や親御さんを前にして、このことを堂々と言い放ったのだから、今考えるとかなりイタイ少年だったと思う。

 しかし、その発言から7年後に両国国技館のメインで高田選手と闘い、1996年の東京ドーム大会では、長州選手と一騎打ちをしたのだから、勘違いもバカにできないのである。
「よ~し、こうなったら、とことん勘違い人生を突っ走ろう」

 僕は、悪性リンパ腫を克服するのは当然として、その先にリング復帰という無謀な計画を考えている。厳密には、プロレス復帰というよりもUWF復帰だ。

 UWF(第二次)は、既存のプロレスでもなく、総合格闘技にも属さない極めて特殊な団体だった。僕はかねてから女々しくUWFバンザイ企画(仲たがいをした選手をひとつにする)にばかり拘っていたが、今はひとりUWFの道を思案している。

 全日本プロレスが「みんなが格闘技に走るので、私、プロレスを独占させてもらいます」とのキャッチコピーで差別化を狙ったように、今こそみんなが捨ててしまったUWFを僕が独占するのも面白い。

 しかし、現実的にカラダのことを考えると困難を極めるだろう。今の筋肉のない70?ほどの細いカラダを見ると前途多難と思わずにはいられない。がんというだけでなく、ブランクが長いのも気になる。数年前に限定復帰でリングに上がった時、肉離れやぎっくり腰をやってしまった苦い経験があるからだ。

 だが、胃がんを見事に克服し、今でも現役でリングに上がっている66歳の藤原選手を思えば43歳の若造の僕にできないことはない。

 ひとつポイントは、UWFのような試合間隔で行なうこと。プロレスというと連日試合を行なうものだが、UWFの興行は、1~2カ月に1度の試合ペースであった。ある意味、UWFはスロースタイルなのである。

 それに何より森林保全を子どもたちに伝える昆虫キャラクター・ミヤマ☆仮面をおろそかにすることはできない。あくまで本業はミヤマ☆仮面だ。

 さて、現在消滅しているUWFをどのように復活させるのか? 相手は? リングは? と問題は山積みだが、そこはお気楽にいきたい。

 今の時代、インディ団体よりもミクロなプロレス&格闘技団体が山ほどある。そこで1試合、Uの試合をやらせてもらうことは決して難しいことではないだろう。草の根運動式に地道にやっていくのである。

 同じ血液がんで苦しんでいる人たちに希望を抱いてもらうため、それに『がん撲滅』を啓蒙する意味でも還暦までこれを続けたい。つまり長生きが前提なのだ。がんに絶対負けない宣言でもある。僕は『カッキー応援隊』(代表・山崎一夫さん)をはじめ、たくさんの方に応援してもらっている。その恩返しをしないで、この世を去ることは絶対に許されないのだ。

 還暦までは、あと17年もあることを考えると焦らずのんびりと続けるぐらいが丁度いい。ちなみにこの年数は僕の現役生活と同じだ。UWF継承、がん撲滅、森林保全の3大使命を全うするには、これぐらいの時間はきっと必要だろう。

 新たな目標に向かって、僕の第二の青春はここから始まるのだ。「Moving on」

(このコーナーは第4金曜日に更新します)
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