「素顔での撮影はちょっと……」

 5歳からマスクを被って僕と一緒にイベント活動している息子のつくしは、素顔をさらすのを極度に嫌がる。彼はマスクマンとしてのポリシーが人一倍強いのだ。同業者にすら素顔を見せることのないミル・マスカラス選手を目指しているのだろうか?

 現在、13歳になる息子が、初めてマスクを被って人前に出たのは4歳の時だ。タイガーマスク選手と一緒に花道を入場するチビッコを募集していたのだが、それに採用されたのがきっかけだ。

 舞台は新日本プロレスの東京ドーム大会。憧れのタイガーマスク選手と同じ衣装を着て、あの東京ドームの花道を歩けるなんてファンにはたまらない。ちなみに藤波辰爾選手のご子息である怜於南君(現在はレスラー)もそのひとりだった。このように関係者もやりたがるほどの魅力的な企画である。

 4歳だった息子は、この日を興奮しながら指折り数えて待っていた。しかし、試合当日にとんでもない事態が起こった。なんと42度の高熱を出すという大失態を犯してしまったのである。楽しみすぎて遠足前に体調を崩すというのは子どもにはよくあることだが……。

 しかし、学校行事とは違い、興行であるから困った。あと数時間後に本番が迫っている中、大慌てで代わりを探してみたもののみつからない。ドタキャンは会社に大きな迷惑をかけてしまうだけに、それは避けたい。

 僕は心を鬼にした。
「つくし、男が一度やると言った以上は何があってもやり遂げなければいけない。やれるか?」

 幼い4歳児になんとも酷なことを言ったものだと思う。本番では、フラフラした足取りながらも無事に大役をこなし、小さくではあるが、東京スポーツ新聞にインタビュー記事も載せてもらった。

「つくし、頑張ったな」
 しばらくすると辛かったことなど、どこかへ飛んでいってしまったのか、今度はちびミヤマ仮面として僕と一緒に本格的にやっていきたいと直訴してきた。

 当時はまだ5歳だったから僕も正直、頭を悩ませた。
「ヒーローは、辛いことがたくさんあるぞ。本当に大丈夫?」

 保育園児だったものの、この言葉の意味を理解し、一度だってイベントを休むことはなかった。息子は、ちびミヤマ仮面をやるようになってからというもの体調管理に気を使うようになった。あのドーム事件がよっぽど堪えたのかもしれない。

 お風呂上りは湯ざめなどしないよう、すぐに布団に入り、少しでも体調が悪いと感じると徹底して治すことに努めた。ここまでやる5歳児は、なかなかいないだろう。

 この見事なまでのプロ根性をみて、僕はふと無茶な企画を思いついた。それは、ディファ有明で行なわれるプロレスの試合に僕とタッグマッチで出るという、とんでもないプランだ。これを聞いた主催者は、更に上回るアイデアを出した。

 なんと、ちびミヤマ仮面のシングルマッチでいこうと無茶振りをしたのである。対戦相手は、幅広いファイトスタイルが特徴の菊タロー選手ということもあり、このオファーを受けることにした。しかし、いくらインパクト重視とはいえ、今考えてもかなりの冒険をしたと思う。幼稚園のお遊戯会とは違いプロの興行なのだから……。

 この快挙?を悪ノリが大好きな東スポがほっとくわけがない。裏一面に『5歳児、プロレスデビュー』と大見出しが踊った。その後、ヤフーニュースにもこの記事が流れたため、ちびミヤマ仮面はちょっとした時の人となった。

 そんな子役だった、ちびミヤマ仮面も小学高学年ともなると、ちびと言えないほど身長が伸びてきた。
「そろそろキャラクターをチェンジしないとマズイな」

 僕は、本人の希望から次のキャラクターを忍者でいこうと考え、体操教室に通わせた。ちなみに息子は運動神経がイマイチだったため、自宅の庭にマットをひき、毎日特訓をした。

 教える僕は、かつて格闘スタイルだったため、アクロバットな派手な動きなど一切できない。そこで毎週、体操教室に息子とともについていき、先生の指導方法を盗んできたのだった。

 その甲斐もあって、今では忍者のような身軽な動きができるようになったのである。新キャラクター『クワガタ忍者』(写真)は、一昨年の七夕に東京ビッグサイトでのキャンピングカーでのイベントで華々しく誕生した。

 お笑いキャラのミヤマ☆仮面とクールなクワガタ忍者のコンビは、なかなか好評だった。そんな矢先に僕の病気が発覚しただけにショックは大きかった。
「本当に困った……」
 昆虫バトル『クワレス』を楽しみにしてくれているチビッコたちに申し訳ない。

 酷く落ち込んでいる僕を見て「クワレスの灯を消さない」と息子はクワガタ忍者ひとりで続けることを決意した。イベントだけではなく、僕がレギュラーでの出演予定だった山梨テレビの戦隊ヒーロードラマにも代役として素顔で出るとまで言ってくれた。
 
 あれほどマスクを脱ぐのを嫌がっていただけに、これには本当に驚いた。アイドルの娘に続き、息子までもローカルとはいえ役者デビューをすることとなった。

 17日の朝日新聞にも素顔が公開された(写真)が、躊躇する素振りなどない。来週には、ヒーローものの映画の撮影も控え、今、クワガタ忍者は大忙しだ(すでに6~8月の昆虫イベント参加も決定)。

 僕の病気が発覚して、もうすぐ5カ月が経とうとしている。子供たちはスゴイ勢いで成長している。親として、このままずっと彼らに甘えているわけにはいかない。絶対にがんに打ち克ち、1日も早い復活を果たしたいと思う。

(このコーナーは第4金曜日に更新します)
◎バックナンバーはこちらから