「ドラえもん募金みたいなのをやって、カッキーを応援したい」
俳優をやっている友人から、このような連絡が入った。がんの治療には確かにお金がかかると聞く。元ボクサ-の竹原慎二さんが、がんの治療に1000万円をかけたとスポーツ紙で目にしたことを思い出した。
「がん保険には入っている?」
心配した友人から聞きたくないような話がドンドン入ってきた。
「やっぱり予想以上にお金がかかるのか……」
自分が当事者になってみて、がんになると病気よりも経済的な心配が先にたつことを知った。ふと治療に専念できなかったことで命を落とした知人の記憶が蘇ってきた。
「妥協するのはよそう」
僕は、治療に専念するために信頼できる方から大きな借金をした。これで余計な心配をしないで正面からがんと勝負ができる。
「白血病を克服したK-1の選手も募金をやっていましたよ。垣原さんもやりましょう」
Uインター時代の後輩からも応援の提案をもらった。
僕を思いやってくれたうれしいアイデアではあるが、そこまでやってもらう考えはなかった。世の中には大変な方がもっともっとたくさんいる。それを考えたら申し訳が立たないのである。
このことを提案してくれた本人に伝えるのが忍びなかったため、先輩である山崎一夫さんにその旨を伝えた。しかし、また別の方から声がかかり、とうとう断れない状況に追いこまれてしまった。
「お金を振り込むような大がかりな募金は抵抗があるので、小さな募金箱をイベント会場とかの片隅に置くぐらいにしてください」
僕は、精一杯の妥協案を伝えたつもりだった。しかし、話は予想とは違う展開へと動き始めていた。
『カッキー応援隊』を作ろうと動き出したこの方は、僕と会った翌日には山崎さんの元へ足を運び、今後の具体的な方策を練っていた。そのフットワークの良さは予想外だった。大きな会社の社長さんなので、僕のためにここまで動いてくれるとは正直思ってもみなかった。
「フェイスブックで応援サイトを作りました。それと応援Tシャツのデザイン
(写真右)を早速制作したので目を通してください」
このような連絡が矢継ぎ早に僕のところに入った。
国内外を問わずボランティア活動を長年やられている方なので、動きが手馴れている。アイデアとコネクションが豊富なのだ。
募金活動の第一弾は、先輩である安生洋二選手の引退試合(後楽園ホール)で行なわれた。かつてのUWFファンがたくさん来場したこともあり、一気に火がついた。その翌週には、新宿中央公園で開催されたアウトドアイベントに桜庭和志選手や菊田早苗選手、高山善廣選手など著名な格闘家やプロレスラーが大集合し、募金活動を行なったという。
この模様をプロレス雑誌やボディビル専門誌、スポーツ新聞が報道したため、恐ろしいスピードで広がっていった。今の時代は、ツイッターやフェイスブックなどもあるため、すごい勢いで情報が広がっていく。大小に関わらず多くのプロレス団体が、まるで競うように次々と募金活動を始めだしたのだ。
すべてを把握しきれないほどの広がりにどうしてよいかわからなくなった。ついには、古巣の新日本プロレスが、僕のために特製トートバック
(写真左)を作り、両国国技館などの試合会場や通販で大々的に発売することが決まった。
「新日を引退して、もう9年にもなるのに……グッズまで作ってもらうなんて考えられない」
こんなにも皆さんから応援してもらえることに正直、戸惑いを感じている。
4月19日には、テレビ朝日のプロレス中継『ワールドプロレスリング』で、短い時間ではあるが、募金活動の模様などが特集のような形で放送されていた。若き日の自分の試合までも放送されたのは、おそらく僕へのエールだろう。
「この頃は、いい動きしているな」
僕は家族に冗談を言いながらもファイターとしての血が騒ぎ始めた。
「もう一度、リングに立ちたい」
家内が聞いたら卒倒しそうな目標がメラメラと燃え上ってきた。元気に復活した姿を見せるには、これが一番わかりやすいのではと本気で思っている。
しかし、現在の僕の体重は、たったの68?。前田日明さんに「もやし」と呼ばれていた練習生時代のカラダと同じである。25年間かけてつくってきた筋肉は、悲しいほどそぎ落とされてしまった。「おじいちゃんみたい」と冗談で言われてしまうほどヨボヨボの体となっているのである。
でも、ここからもう一度、鍛えていく気持ちが湧き上がってくる大きな出来事があった。それは「シャ乱Q』ボーカリストのつんくさんだ。先日、声帯を摘出したことを発表したので、ご存知の方も多いだろう。同じがん患者ということもあり、つんくさんからは時々、アドバイスやエールを受けていたが、その事実を知った時の衝撃は大きかった。
「アーティストにとって声は命同然のはず」
筋肉がなくなり、落ち込んでいる自分の悩みなんて鼻くそみたいに思えた。究極の選択をしたつんくさんのこの強さを見習うべきだと思った。燃えるような大きな目標を持たなくては恥ずかしい。
「同じがんで苦しんでいる方の希望の光になるよう努力しよう!」
まずは、がんを攻略し、病を克服しなければならない。そして、その先には応援してくださった皆さんへの恩返しが待っている。こんなにも多くの方に支えられている幸せ者の僕には、それを返していく使命があるのだ。
(写真:腎臓がんを乗り越えた小橋建太さんも協力している) つらい食事療法も始めて4カ月が経とうとしているが、高い目標ができ、すべてを前向きに考えられるようになった。これも支援してくださっているすべての方々のおかげである。
(このコーナーは第4金曜日に更新します)
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