「森に感謝したい。何かできないかな?」
 僕は常日頃から、こんなことを考えている。夏だけでなく、年間を通じて虫を採らせてもらっている森に何か恩返しをしたいのだ。
 
「俺たちはイベント屋」
 ふとアントニオ猪木さんの言葉が耳に木霊した。
「環境問題を啓蒙する一環として、エコイベントを主催してみてはどうか?」
 このような案を思いついた。イベントを通じて、ひとりでも多くの人に自然の大切さを伝えていけたらと考えたのだ。

 日程は、夏休み最後の週末である8月30日に決定。そして、イベント名を『森フェス』と決めたまでは良かったが、見切り発車のまま7月の怒涛のイベントラッシュに翻弄されてしまった。

 夏休みに入ると、すぐに約2週間に渡ってのツアーを決行する予定になっていた。愛知や兵庫、広島、それに四国を回りながらミヤマ☆仮面のイベントショーを行うのだ。

 プロレス巡業よろしく各地でイベントを開くのが夢だったので、9年目にして、それが実現できた満足感はあった。しかし、すべて大成功とはいかなかった。徳島の商店街で行なったイベントでは、なんと観客が2人という恐ろしい経験をしてしまった。

 しかも、そのお客様は年配のご夫婦である。つまり子どもは、ひとりもいなかったのだ。ミヤマ☆仮面のイベントプログラムは、子ども向けに作ってあるだけに正直困った。四苦八苦しながらも、一応やり遂げたが、空しさだけが残った。

 よくお笑い芸人が、売れていなかった頃、観客が少なくて大変だった苦労話をするが、まさかここまでの体験をするなどとは夢にも思っていなかった。来年は活動10年目に突入するというのに情けない話である。

 原因は言い訳にはならないが、印刷ミスという想定外の出来事が起こってしまったからだ。現地のイベンターとは、13時と15時の2回開催で話がまとまっていたつもりだったが、配布していたチラシを見てみると、なんと17時スタートも含めた計3回とあった。

 さすがに夕方の5時だと商店街に子どもなどいない。しかし、掲載されてしまった以上はやるしかない。そうあがいてみたものの前述の結果となってしまったのである。

「徳島は全国的にみても集客が難しいところだから、落ち込まんでいいよ」

 かつて新生UWFで営業をしていた川崎浩市さんが、この話を聞きつけて、僕を慰めてくれた。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったUWFは、後楽園ホールだとチケットが発売15分で売り切れるほどの人気だった。そのUの興行でさえ、徳島ではチケットを売るのに難儀したという。

「武道館をいっぱいにするあのレッド・ウォーリアーズですら、徳島では400人を集めるのが精一杯だったというぜ」
 プロレスだけでなく人気ロックバンドでさえ、徳島は鬼門だったようだ。

 しかし、知名度の低いミヤマ☆仮面は、場所だけが原因というわけではない。迎えた8月30日の『森フェス』でも苦戦してしまったのだ。こちらは山梨県の会場のキャンプ客を相手にイベントをやれば良いとタカをくくっていたのがいけなかった。

 その肝心のキャンプ客が少なかった。天気が悪く、夏とは思えない肌寒い日が続き、イベント当日の天気予報も雨だったからである。当初7割程度埋まっていた予約もキャンセルが相次いだ。

 屋外のイベントは天候に左右されるので仕方がないが、それだけが原因とは決して思わない。一番は、忙しさにかまけて現場の担当者に告知を委ねていた自分がいけなかった。

 イベントの趣旨が上手く伝わっていなかったのは、すべて自分の責任である。やはり1回でも多く現地に足を運ぶべきだったと今更ながら後悔する。現場との信頼関係を築くのは一朝一夕というわけにはいかない。しつこいぐらい現場と連絡を取りあって丁度良いのかもしれない。このあたりが、徳島を含め、自分のいたらなかった部分であろう。

 その点、同じ日(8月30日)に行なわれた北朝鮮でのプロレス興行を大成功させた猪木さんはスゴイ。2日間で、なんと3万人もの観衆を集めたという。口の悪い人は、すべてエキストラだと揶揄する人もいる。しかし、強制的に呼ぶにしても、その絶対的権力者と密な関係でなければそれは不可能なことだ。

 北朝鮮という誰もが敬遠したがる国に何度も足を踏み入れる猪木さんの行動力があってこその信頼関係である。9年前に僕も一緒に北朝鮮の地を踏み、テコンドーの世界大会でプロレスの試合や運動会のような交流イベントに参加したが、猪木さんの知名度には驚かされた。力道山の弟子として、市民から絶大な支持を受けているのである。もちろん、それだけではなくコンスタントに訪朝していることが大きな要因だろう。
(写真:交流イベントでの綱引きでは綱が切れるハプニングも)

 加えて、猪木さんならではの“闘魂外交”がある。9年前の訪問時、高麗ホテルの地下にあるカラオケ店で、北朝鮮の関係者も交えた懇親会が開かれた際のことだ。上機嫌に酔っ払ってきた猪木さんは、あろうことか北朝鮮の役人に、闘魂ビンタを炸裂させたのである。これが一発や二発などではないから大変だ。

「えっ! あんなことして俺たち日本に帰れるの?」
 この場にいた選手たちは皆、凍りついてしまった。日本人なら猪木さんのビンタがパフォーマンスだと理解できるが、北朝鮮の人から見るとケンカを売られたと思われかねない。

 しかし、これが全く問題にならないところに猪木さんの凄さをみた。手荒な真似は参考にならないが、あの相手の懐にガッチリと飛び込む姿勢は大いに学ぶところがある。来年は北朝鮮で、さらなるビッグイベントを予定しているというが、政治家として当然ながら拉致問題解決を計算に入れてのことだろう。

 僕もこの闘魂外交から学び、今後は現場としっかりとした信頼関係を築いて失敗を繰り返さぬよう気をつけたい。

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)
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