「あれから10年も経ったなんて信じられない」
 ブラジルW杯が近づくにつれ、2004年にアントニオ猪木さんと一緒に行ったブラジル遠征を思い出す。
(写真:猪木さんとブラジルで植樹祭にも参加した)

 現地で『ジャングルファイト』という森林保護を目的とした格闘技興行に出場したのだが、試合のルールはプロレスではなく、総合格闘技であった。本音はプロレスの試合がしたかった。だが、この興行の現地プロモーターが、ブラジリアン柔術のヴァリッジ・イズマイウ選手だったため仕方がなかった。

 それだけに、せめて入場ぐらいは、プロレスばりにエンターテイメント色を強くしたかった。僕は日本を強調しようと着物を用意してきたのだが、これをイズマイウ選手はよしとしなかった。

「これは真剣勝負の試合だ。プロレスのような真似だけはしないでくれ」
 通訳を通じて、イズマイウ選手から釘をさされた。しかし僕は、どうしても普通に試合をして終わるのが嫌だった。

 和風案がボツとなり、僕はもうひとつの案を実施しようと考えた。実は、ターザン風の試合用タイツを用意してきていた。あのジャングルの王者・ターザンである。

 もちろん、コテコテのターザンに扮するだけではつまらない。流木を日本刀に見立てて、殺陣のパフォーマンスを行なうターザンを思いついた。僕は、日本人であることをどうしてもアピールしたかったのだ。

 着物に日本刀のパフォーマンスは封じられたが、このブラジルと日本のミックス案はいけると思った。現地に到着して、僕の心はずっとウキウキしていた。四角ジャングル(リング)で、ターザンに変身できるからだ。

 プロモーターには、この案は伝えなかった。はるばるブラジルまで来たのだから、やったもん勝ちの精神でやろうと決意した。コスプレの伝道師(?)である猪木さんの一派として登場するのだから、これぐらいはやらないと駄目だ。
(写真:実際にターザン姿での入場に成功した)

 決意が固まったら、次にやることはひとつ。入場でターザンを演じるのだから、やはりジャングルに足を踏み入れなくては嘘になる。僕はブラジル入りしてからジャングル探索の機会を虎視眈々と狙っていた。正直に言うと、ターザンよりも、世界最大のカブトムシであるヘラクレスオオカブトの生態観察をしたかっただけなのだが……。

 現地では試合のルールミーティングや取材、それに植樹祭などがあり、かなりのタイトスケジュールであった。まとまった自由時間などは皆無に等しかった。滞在しているマナウスからアマゾンのジャングルに行くには予定の隙間を縫うかたちでは難しい。

 唯一、行けるとしたら、試合当日のみだ。
「これは試合の日に行くしかないかなぁ……」
 試合開始は、夜20時予定のため、朝から行けば夜までには会場へは戻ってこられる。

 ただ、アマゾンに行くのは初めてだ。何かあって試合に穴でも空けたら大変なことになる。当日の朝まで悩んだが、僕は意を決して、アマゾンのジャングルへと向かった。

 宿泊しているマナウスから車を飛ばしてもらい、アマゾン川へと到着すると、そこからボートに乗り込み、ジャングルを目指した。原生林を歩きたかった僕は、ガイドをせかして二次林を早足で歩いていったが、人間が伐採したエリアは想像を絶するほど広かった。

「こんなに歩いても細い木ばかりだ。やっぱり自分の目で見て正解だった」

 その昔、ヨーロッパから大勢の人が押し寄せ、現地の人とともにジャングルの中からゴムが採れる木を根こそぎ切ったという。猪木さんをはじめ、試合に出場する選手全員で植樹祭に参加した際、マナウスの州知事から、この話を聞かせてもらっていた。

 そして「目を覆いたくなるほど木を伐採した過去を反省し、現在は積極的に木を植え、育てている」とも。実際にジャングルを歩いたからこそ、その言葉が僕の心に響いた。この時の体験が、“森を守る昆虫ヒーロー”ミヤマ☆仮面の活動につながっていったような気がする。


 5月8日、山梨県の道志村にあるキャンプ場で、森林再生の一大プロジェクトである『養老の森』の発足記念パーティーが行なわれた。顧問は、解剖学者であり東京大学名誉教授の養老孟司先生である。
(写真:養老の森で先生と)

 養老先生は、ゾウムシなど昆虫にも造詣が深い。
「森の手入れをして、この森を本来あるべき姿にしたい」
 あるべき姿とは多種多様な昆虫が棲む森である。僕は、その趣旨に共鳴し、『養老の森』づくりの立ち上げメンバーに入れていただいて活動している。

「(養老の森を)これからやっていく上で、一番大切なことは何でしょうか?」
 養老先生にこのような質問をしてみたところ、「20年や30年という長い年月をかけて、この活動を持続していくことだ」と仰っていた。

 何よりも大切なのは、活動をずっとずっと続けていくことなのだ。ブラジルでやった『ジャングルファイト』のように一過性で終わらせてはいけない(ジャングルファイトという名の大会は現在も続いているが)。

 5ヘクタールもの敷地面積を持つ『養老の森』を生まれ変わらせるには、きっと気が遠くなるような時間がかかる。すぐには結果が出ないものだけに大変なことの方が多いだろう。しかし、昆虫ヒーロー・ミヤマ☆仮面として、未来の子どもたちに豊かな森を残すべく、息の長い活動を続けていくつもりだ。

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)
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