「このたびは、15周年おめでとうございます」
 僕は会場の入り口で、来賓者を出迎えている宮戸優光さんにご挨拶をした。先月、UWFスネークピットジャパンの15周年を祝う会が、中野サンプラザで行なわれた。
(写真:会には高山善廣選手、桜庭和志選手らも駆け付けた)

 格闘技のジム経営が大変なのをよく耳にするだけに15年も続いているのは快挙だと思う。正直、あの厳しい宮戸さんの指導に一般の方が耐えられるとは思わなかった。

 僕が練習生だった頃、若手の教育係が宮戸さんであった。当時、17歳だった僕は、何度となく宮戸さんに雷を落とされたものだった。
「怒られない日はないよね?」
 兄弟子の船木誠勝選手にも同情されるほどであった。

 ちゃんこ番の手伝いをしている時など、大根をモタモタ切っていると、その包丁でバチンと頭をシバかれたこともある。口よりも早く手が出るタイプだっただけに若手は宮戸さんを恐れていた。ただ、根底にはプロレスリングへの愛があるので、怒られたことを恨む者などいなかった。

 宮戸さんは他の先輩とは決定的に違うところがある。それは後輩であっても選手になれば、きっちりと一人前に扱ってくれるところだ。いつまで経っても練習生同様の若手扱いをする先輩が多い中、宮戸さんだけは違っていた。今もよく連絡をくれるが、時々敬語を使われて逆に恐縮するほどである。

 そんな宮戸さんの下へ15周年を祝うため、かつてのUインターのメンバーが駆けつけた。高山善廣選手をはじめ桜庭和志選手、安生洋二選手、佐野巧真選手、松井大二郎選手とさながらUインターの同窓会のようであった。

 そして、驚いたのは“最強最後のレジェンド”ダニー・ホッジ先生までもアメリカからお越しになっていた。ホッジ先生は立会人として、Uインターのリングに何度か上がってもらったことがある。

「ホッジ先生! 壇上にどうぞ~」
 安生選手が得意の英語で、ホッジ先生を紹介し、壇上に呼び込んだ。何故か手にはリンゴを持っている。Uインター勢も見守る中、なんとリンゴを潰すパフォーマンスを見せてくれたのであった。

「うわっ! 凄すぎる」
 82歳とは思えないその怪物ぶりに会場もどよめいていた。見た目は、優しそうな外国人のお爺さんだが、握手をすればその凄さが体感できる。久しぶりに握手をする機会に恵まれたが、強く握られ、悶絶した。
(写真:80代としては驚異的な握力)

 たとえは悪いが、まるでゴリラにでも手を握られているようなのである。握手だけで強いと思わせる往年のレスラーたちを僕は心から尊敬する。

 本当は、この場にビル・ロビンソン先生もいるはずだった。きっとパーティーでは、大好きなビールを飲みながらジョークを飛ばし、みんなを笑顔にしていたに違いない。改めて他界されたロビンソン先生のご冥福を心から祈りたい。

 この日は、スペシャルゲストでアントニオ猪木さんの姿もあった。猪木さんとホッジ先生のツーショットを眺めていたら、いろんな妄想が頭をよぎった。
「2人が全盛期の時に闘ったら、どっちが強かったのだろうか?」

 最強外国人の四天王は、カール・ゴッチ、ルー・テーズ、ビル・ロビンソン、ダニー・ホッジで間違いないが、個人的にはホッジ先生がトータル的には一番だったのではと思っている。

 20年前にUインターの道場で見せてもらったホッジ先生の高速タックルが今でも忘れられない。あのタックルのスピードは、還暦を過ぎたお年寄りのそれではなかった。普段はゆっくりしか歩けず、穏やかなお爺ちゃんといった感じだったが、いざレスリングの指導になった瞬間からスイッチが入り、マッハの動きのダブルタックルを披露してくれたのだった。

「スーパーじいちゃんだ」
 後にも先にもこんな素早い動きをするお年寄りを僕は見たことがない。鳥人と呼ばれた跳躍力に怪物のパワーを兼ね備え、ボクシングとレスリングのテクニックを持っていたのだから、最強と言っても差し支えないはずだ。もし、あの時代にUFCがあったらホッジ先生が間違いなくベルトを巻いていただろう。

「先生、僕は今、ネイチャーヒーローをやっています」
 僕はホッジ先生にカタコトの英語で一生懸命アピールしたが、おそらく伝わってはいなかったと思う。でもホッジ先生の奥様が、ミヤマ☆仮面を面白がってくれてツーショットで撮影してくれたのは嬉しかった。このような夢の時間を与えてくれた宮戸さんに感謝である。

 Uインターの頭脳と呼ばれた宮戸さんの次なる仕掛けが気になる。パーティーの最後には、意味深発言も出ただけに今後のスネークピットの動向にも注目だ。

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)
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