「子ども向けのワークショップに講師として出てもらえませんか?」

 プロレスのマスクを工作するという一風変わったイベントを神奈川県相模原市が企画し、元レスラーということで、僕に依頼が来た。イベントで、お子さんや親御さんに向けて、マスクのうんちくを語ってほしいというのだ。

「うんちくというのは、マスクマンの由来などでしょうか?」
 僕は現在、ミヤマ☆仮面として活動しているものの、マスクの歴史などを勉強したことはなかった。

 僕が、ぱっと思い浮かぶのは、マスク王国のメキシコぐらいだ。先日、何かのテレビ番組で、メキシコのマスクマンであるドス・カラス選手がメキシコのプロレス『ルチャ・リブレ』は先住民と侵略者との戦いを表現していると語っていた。

 良い機会なので、マスクについて、いろいろと調べてみるのも面白いと思った。
「メキシコのマスクマンのことなら(週刊ゴングの元)編集長に聞くのが一番かも」

 僕は、すぐさま清水勉氏に連絡をとり、ルチャ・リブレについて質問してみた。80年もの歴史あるルチャからなら、きっと耳寄りな情報を聞き出せるに違いない。

「まず、マスクマンの発祥はメキシコではなく、ヨーロッパなんだよ」

 開口一番、清水氏の言葉に面食らった。マスクマンのルーツがメキシコではないなんて驚きである。しかもヨーロッパというのも意外だ。

 イギリスのレスラーには、『プロレスの神様』カール・ゴッチ氏や、ビル・ロビンソン氏を生んだ『蛇の穴』と呼ばれる硬派なランカシャーレスリングのお堅い印象がある。派手なマスクマンとは対極のイメージだ。

 そもそもプロレスというジャンルは、アメリカからではなくヨーロッパがはじまりという。ヨーロッパから移民したレスラーが、アメリカでプロレスを広めていったというのだ。

「いや~、プロレスの起源を今、はじめて知りましたよ」
 僕は、プロレスの歴史にすっかり興奮していた。

「19世紀の後半、フランス人のレスラーがマスクを被って試合を行なったという話があり、これが一番古いというのが最近わかった」

 そんなにも昔からマスクマンがいたという清水氏の話に僕は驚きを隠せなかった。1916年、アメリカ人のマスクド・マーベルという選手がマスクを着けたのが最初だと思われていたが、その前にもマスクマンがいたのである。

「今でこそマスクマンはヒーローというイメージがあるが、この頃はそうではなかった。マスクは自分の素性を隠すためのものだったんだよ」

 マスクマンを日本では覆面レスラーと呼ぶ。この『覆』の意味を調べてみると『利益を失う・不利益を蒙ることを恐れて、自分が為した罪を隠すこと』とあった。

 やはり、覆面レスラーという呼び方には、ヒールとしての役割が込められているようだ。マスクが負の歴史を背負ってきたことに、同じマスクマンであるミヤマ☆仮面として、僕は大きなショックを受けた。

「昔のアメリカは、少し大袈裟だが、州ごとに異国のようであり、レスラーたちは違うキャラクターを演じるためにマスクを被る必要があったんだよ」
 善玉と悪役を州ごとに使い分けるためには、マスクは都合がよかったのかもしれない。

 日本でのマスクマンの歴史を調べてみると国際プロレスに覆面太郎というプロレスラーがいた。この選手が、日本人マスクマン第1号ということになる。正体は、後にアントニオ猪木選手と抗争を広げることになるストロング小林選手だった。

 その後、日本でマスクマンのマイナスイメージを一新したのは、『メキシコの英雄』ミル・マスカラス選手が最初かもしれない。小学生の頃、全日本プロレス中継を見ていて、あの空中殺法と華やかなマスクや衣装に心奪われたのを思い出す。

 入場の時に被ってくるオーバーマスクを誰もが欲しがった。「千の顔を持つ」と言われるほど毎回違うデザインのマスクを被るのもオシャレでかっこよかった。

 あの時代、プロレスファンの少年たちは、マスカラス選手の虜だったように思う。キャッチフレーズである『仮面貴族」というイメージ通りのベビーフェイス(善玉)だったのだ。

 そこで気になったのが、この仮面である。メキシコには古代から伝わる仮面文化があると聞く。仮面は祭礼などで使用され、とても神聖なものとして扱われていた。強い生き物の象徴であるジャガーや鷲などをあしらった仮面を王が装着していたのは、その魂が自らに宿ると信じられていたからである。

 つまり覆面とは異なり、仮面は憧れや英雄を意味するアイテムだった。メキシコのルチャ・リブレでのマスクは、こちらの流れを強く引き継いでいるのかもしれない。

 マスクの歴史には、このように相反する2つの流れがあったのだ。子どもたちにミヤマ☆仮面のマスクの説明をする時には後者だと説明できそうで、正直ホッとした。

 1月19日、いよいよイベント当日を迎えた。相模原市がアート活動の拠点となるべく作った施設(アートラボはしもと)で、『アートな覆面レスラーになろう』というワークショップが行なわれた。

 僕は、自慢のマスクコレクションから本物のS・S(スーパー・ストロング)・マシンやタイガーマスクなどを持参し、マスクの歴史やその魅力を子どもたちに分かりやすく語った。そして、最後はサプライズとして、ミヤマ☆仮面とクワガタ忍者が登場し、参加者を大喜びさせたのであった。

 ミヤマ☆仮面は、お正月に行なったナゴヤドームでのイベント参加を皮切りに、2月は幕張メッセでの『ジャパンキャンピングカーショー」に4日間出演し、大阪の京セラドームとビッグイベントが続く。プロレスの四角いリングとは違うが、昆虫界の『仮面貴族』を目指し、多くの子どもたちにマスクマンのかっこよさを伝えていけるよう頑張ろう!

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します)


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