「サプリメント漬けですよ」
 そう言ってスーツケースからおびただしい数のサプリメントを出してきたのは、新日ジュニアでタッグを組むこともあった田中稔選手だ。

「サプリメントがないと絶対にやっていけません」
 彼は、そのあと武藤敬司選手の全日に移籍してからこの傾向が強くなったようだ。現在は、武藤選手率いる新団体『WRESTLE-1』に参戦し、9月8日には旗揚げ戦に参加したが、その肉体美は健在であった。

 ひと昔に比べて今のレスラーは、田中選手のようなグッドシェイプな素晴らしいカラダをしている選手が多い。余計な脂肪をそぎ落とし、まるでダビデ像を彷彿させるような肉体が、マット界の主流になってきている。

 もちろん、これは100キロ以下のジュニアヘビー級の選手に多いのだが、ヘビー級の選手でもその傾向が強くなってきているのだ。グリコなどのサプリメントを扱っている企業がスポンサーになり、選手に提供しているのもその理由のひとつかもしれない。肉体づくり絶大な効果を上げると信じられているサプリメントは、レスラーにとってなくてはならないアイテムになっているのである。

 最近は、プロレスラーに限らず、趣味でトレーニングしている人でさえサプリメントを飲むのが当たり前になってきている。
「クレアチンとグルタミンが欲しい」
 驚いたことに主婦の方でもこんなマニアックなサプリメントを買っていくのだ。今やアミノ酸のBCAAなどは、プロティンと同じぐらいポピュラーとなった。

「トレーニングが終わってからの1時間が、サプリメントのゴールデンタイム」
 トレーニング愛好家たちは、こう口を揃える。ゴールドジムでトレーナーをやっているとサプリメントに依存している人が多いと感じる。

 一般の方もトレーニングとサプリメントがセットだと認識しているのは、雑誌やTVなどのメディアの力によるところが大きい。トレーニング効果をより引き出すには、サプリメントが必須だと説明をしているのだ。

 そして、味の良いサプリがたくさん出ているのも浸透している理由のひとつだろう。僕がプロの世界に入った頃のプロティンは、まるでドッグフードのようなニオイで、飲むのが苦痛だった。それを考えると今は本当に良い時代だと思う。僕も数年前まではプロティンなどサプリメントを摂っていた時期もあるが、今では全く摂っていない。

 これは、あの時のトラウマが根底にあるからだろう。

 あれは、僕がUインターに所属していた頃の話だ。おそらく20歳過ぎぐらいの年齢だったと思う。団体の営業の者から紹介されて、ある個人病院の先生と知り合った。

 その先生から病院の方に来るよう勧められ、こんな話をされたのだ。
「今度、血液検査をして、その結果をもとに足りない栄養素を教えます」

 血液検査をしてもらった数日後、その病院へ行ってみると膨大な量のサプリメントを手渡された。鉄分をはじめ詳細なデータを見せられ、これだけのサプリメントを飲む必要があると告げられたのだった。

 圧巻だったのは、プロティンの摂取量だ。1回に50gのプロティンを1日4~5回も摂るようにと指示を受けたのである。今考えるといくらレスラーでもこれは過剰摂取だが、当時の僕はこの医師の言葉を信じて疑わなかった。

 サッカーやテニスなど一流のアスリートが、その医師のところに集まっているのを目撃していたからだ。少しでも上を目指したかった僕は、彼らを真似るのが近道だと考えていたのである。それに医師の自宅にも招かれ、懇意にしてもらっていたのも信用を増幅していた要因のひとつだった。

 サプリメント代は月に2万円を超えたが、体への投資だと思い、続けていた。すると段々とご飯が食べられなくなり、サプリメントが主食化していった。

 この生活スタイルを、ハワイなどへの海外旅行であってもクソ真面目に続けていた僕は、現地でのおいしい物をほとんど口にすることができなかった。
「せっかく海外まで来たのにもったいない」
 同行したトレーナーでさえ、呆れ顔だった。

 当時の僕は、傍から見ても異常なほどサプリメントに依存していたのである。
「なんか最近、カラダがだるい」
 トップに上り詰めたい一心で始めた生活だったが、徐々に体がサプリメントを受け付けなくなっていった。いくら体に気をつけていても、風邪を引きやすく、点滴を受けることも増えたのだ。

 何より、食事をおろそかにしたのが良くなかったのだろう。この時の経験から、食事で体をつくるのが一番だと考えるようになったのである。

 現在、僕は、サプリメントに頼らなくとも良い体が作れるのか実験中だ。
「本当にサプリなし?その体でプロティンも摂っていないの?」
 かれこれ1年以上この生活を続けているのだが、ありがたいことに最近このような意見を聞くことが多くなった。

 理想の肉体までは、まだまだ遠い道のりであるが、良い手応えを感じ始めている。ノーサプリで、どこまでの体をつくれるのか、とことん追求してみたい。

(毎月10、25日に更新します)
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