「グッズ売り場が混雑し過ぎていて、前に進めないね」
 8月11日、娘と息子を引き連れて、僕は久しぶりに新日本プロレスが開かれる両国国技館へ足を運んだ。

 立会人としてではなく、一ファンとして、純粋にG1を見るのは久しぶりのことだ。毎年のことだが、G1の決勝は、1万1500人を集め、超満員札止めとなるほど人気が高い。会場に入るとお客さんは、すでにできあがっている状態で、グッズ売り場も大賑わいであった。

 大事なオープニングマッチは、試合巧者のベテラン永田裕司選手が、異色キャラで人気を集めている高橋裕二郎選手を迎え撃った。どちらも新日本プロレス所属で、日体大の先輩後輩の関係でもある。

「久しぶりに見る対決だから楽しみ」
 期待を寄せていると、なんと高橋選手がいきなり水着を着た女性をエスコートしながら入場し、アメリカのプロレス団体「WWE」を彷彿するようなマイクパフォーマンスで幕を開けた。

 これには正直面食らった。新日の第一試合は、ストロングスタイルで行なうと相場が決まっていたからだ。

 しかし、これは決して悪いという意味ではない。古き良き伝統を守ることも大切なのだが、時代のニーズに合わせていかないと淘汰されてゆく。時代が求めているのは、ショーアップされたわかりやすいプロレスなのだ。

 新日本は、親会社がブシロードになってから、一気に勢いが増している。巨額な宣伝費をかけてのアピールが、功を奏しているのかもしれない。僕が在籍していた頃から選手たちの試合内容は抜群に良かったが、露出に関しては以前とは大きな差がある。

 おかげで都内の大会はもちろんのこと、地方の観客動員やグッズの売り上げが好調だという。
「年商ですが、6億円もアップしましたよ」
 スタッフのひとりが僕に教えてくれた。

 若くてカッコイイ選手が、ど真ん中で活躍しているのも時代に合っていると思う。今はプロレスラーであってもイケメンでないとダメなのである。

 この日のG1を見事に制したのは、僕が引退試合をする数日前にデビューした内藤哲也選手であったが、彼も華がある。昨年にいたっては、最年少のオカダ・カズチカ選手が無敗で頂点に立つなど最近の新日本は新陳代謝を繰り返している印象が強い。

 今回のようにG1という大きな舞台で、若い選手が活躍しているのをみると今後が楽しみになってくる。この経験が大きな自信となり、更なる成長を遂げるからだ。

 もちろんベテラン勢だって、ただ指をくわえて見ているわけがない。近年エースとして君臨し続けてきた棚橋弘至選手は、そのジェラシーが良い方向へと向かっており、この日も素晴らしい試合を見せてくれた。

 かつてのライバル・柴田勝頼選手との試合は、個人的には、今回のベストバウトだ。おそらく中高年のファンの方々なら僕と同じ感想だったに違いない。かつての藤波辰巳vs.前田日明を彷彿とさせる一戦であったからだ。

 何よりも柴田選手がストロングスタイルをひとりで背負い、奮闘している姿が引き立っていた。今の新日本ではこれも強烈な個性として光り輝いて面白いのである。

 立ち上がりのレスリング調のバックの取り合いだけで、1万1500人が大きく沸き返ったのだが、このUスタイルを想起させるムーブに僕も思わず唸った。予定調和だけではなく、「どっちが本当に強いのか」という闘いの本質に触れるのも大切なことだからだ。 

 もちろんファンが期待しているのは、総合もどきのプロレスではなく、プロレスルールの中での緊張感ある展開である。これを二人が見事に体現したのだから、盛り上がらないわけがない。総合格闘技から戻ってきた柴田選手を、棚橋選手がこれまたプロレス特有の丸め込みで制したのも良かった。

 そして、決勝戦となった棚橋vs.内藤戦は、予想以上の熱戦に会場は大熱狂となった。これぞG1クライマックスのファイナルという素晴らしい内容だった。

 今後は、この熱をプロレスに興味のない人々にどう広げていくかが課題であろう。そのひとつとして子どものファンを増やすことが大切だ。

 僕が小学生の頃は、ゴールデンタイムでプロレス中継を観ることができた。ところが、今は深夜放送のため、子どもたちが気軽にはプロレスに接することができない。そのため、会場には子どもが少ないのである。

 子どものファンを育てないと、競技の未来はないだろう。昆虫ヒーロー・ミヤマ☆仮面が、仮面ライダーのような絶大な人気があれば、すぐにでもコラボしたい気持ちである。

 ミヤマ☆仮面は、今年の夏も各地でイベントを行い、アウトドア雑誌の『ガルヴィ』やキャンピングカー雑誌に取り上げてもらうなど少しずつではあるが認知度が高まってきている。評判を聞きつけて、あの“プロレスの帝王”こと高山善廣選手のお子さんが、箱根でのイベントに参加してくれた。

 今は亀のような歩みだが、いつの日か虫のように一気に羽ばたいて、G1クライマックスに多くの子どもたちを引き連れて凱旋したい。

(毎月10、25日に更新します)
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