NPB12球団は2月1日、一斉にキャンプインする。各球団のルーキーたちは、キャンプに先立ち、合同自主トレに励んでいた。今季よりNPBの門をくぐるアイランドリーグ出身の横浜・福田岳洋投手(元香川)、北海道日本ハム・荒張裕司捕手(元徳島)、東北楽天・松井宏次内野手(元長崎)も他の新人たちと同様、初めてのキャンプに向けて準備を整えた。1年目からの飛躍を狙う彼たちの自主トレの様子を追った。
(写真:力の入ったボールを投げる福田)
 横浜・福田「今の時期では一番いい」

 低迷脱出に向け、横浜投手陣が勢ぞろいしていた横須賀総合グラウンド。早くもキャンプインしたかのような熱気にあふれるブルペンで、先輩投手が投げ終えた後を待って、背番号49のビブスをつけた福田がピッチング練習を始めた。まだ抜け球も多かったが、時折、ビシッと低めに決まるボールにブルペン捕手のミットは心地よい音を立てる。ほぼ2日に1回ペースでブルペン入りし、取材日は約50球。「まだ下半身が安定していないので、上体に頼った投げ方になっている。でも今日は1球いいボールがありました。ここまでは順調ですね」。体全体から湯気を立て、汗をぬぐいながら右腕は語った。

 実は慣れない環境と連日続くトレーニングの疲れから、自主トレ期間中に寝違えを起こすアクシデントがあった。幸い軽症で事なきを得たものの、「ちょっとのケガでも出遅れにつながる」と体調管理の重要性を改めて思い知った。投げる中で状態を上げていくタイプだけに、ここでのつまづきは禁物だ。キャンプは2軍スタートとなるが、横浜・尾花高夫新監督は選手の状態によって、途中での入れ替えを示唆している。4月には27歳を迎えるルーキーにとって、沖縄は最初の勝負をかける場所だ。
(写真:アイランドリーグ時代にはなかった打撃も練習する)

「今の時期では一番いい。どうしても焦ってしまうが、着実に自分のできることをやりたい」
 地に足をつけた発言に、ともに香川から横浜入りした岡本克道投手コーチは「彼には昨年、教えるべきことは全部教えた。しっかりやってくれれば大丈夫」と太鼓判を押す。「岡本コーチからいろいろ声をかけてくれるのでありがたい。もっと教えてもらえるようになりたいですね」。岡本コーチは1軍のブルペン担当。福田がその願いをかなえるには、まず自力で這い上がることが条件になる。

 日本ハム・荒張「重要なのは“コツ”」

「楽しいですけど、体が張っています」
 開口一番、荒張は苦笑いを浮かべた。入寮してから約1カ月は、あっという間に過ぎた。「起きて練習していたら、すぐ寝る時間になる感覚です」。それだけ充実の日々を送っている。

 NPBに行って感心したのは練習の質の高さだ。特に日本ハムの新人に対するトレーニングメニューは他球団とは少し異なる。やみくもにハードな内容で体力強化をはかるのではなく、効率のよい体の動かし方を最初に体得することに重点を置いているのだ。正直、徳島からやってきたルーキーは「最初は何をやっているのかわからなかった」という。しかし、毎日トレーニングを繰り返しているうちに、同じ動作でも軽くなる動かし方と、重くなる動かし方があることに気づいた。

「これまで僕は力いっぱいやればいいと思っていた。そうではなくてラクに力を出すことが重要なんです」
 ラクに力が出せるのは、それだけ体が合理的に動いている証拠だ。負担もかからないため、故障もしにくい。ケガなく1年間働ければ、自ずと成績もついてくる。こういったコツをつかむことがプロで活躍するために必要な要素だと学んだ。
(写真:熱心なファンたちと写真撮影に応じる) 

 まだ捕手としての経験は浅く、キャンプは2軍からのスタートだ。
「1軍は即結果が求められる場所。結果を出さないと2軍からは抜け出せない」
 NPBでの第一歩はまず「信頼感を得ること」だとみている。投手からの信頼、首脳陣からの信頼――。これを勝ち取るための戦いが幕を開ける。

 楽天・松井「環境にビックリ」

 福岡を経てロッテにNPB復帰を果たした秋親投手は野球を続けられる喜びにあふれている。1月は沖縄にわたり、ホークス時代の先輩で今季からチームメイトとなる井口資仁、阪神の鳥谷敬と自主トレを行った。連日の練習で生じた筋肉痛も「筋肉がついている感じ。心地いい」とうれしそうだった。キャンプは2軍スタート。千葉・鴨川で2年ぶりのNPBでのシーズンが始動する。「(温暖な1軍のキャンプ地・石垣島より)寒いところでやるほうが体に合っている」。慌てることなく、来たるチャンスをうかがうつもりだ。

 育成枠で楽天に入団した松井はアイランドリーグとの環境の違いに驚いた。長崎時代は光熱費を節約しようと、「寒い時は毛布にくるまって、暑い時は窓を全開にしていた」生活は一変。寮はもちろん、食事、練習施設にいたるまで、不自由することがない。支配下登録に向け、しっかり野球に集中するつもりだ。「キャンプが楽しみです」。球団では内村賢介(元BCリーグ石川)、丈武(元香川)と2年連続で独立リーグ出身の育成選手が支配下登録を果たしている。自身が掲げる“クセ者”ぶりをアピールしたい。

 その楽天では福岡・森山良二前監督が1軍投手コーチとしてブルペンを預かる。また山下勝充コーチがベースボール・スクールコーチとして小中学生の指導にあたる。横浜の岡本コーチ(元香川コーチ)は、ダイエーでの現役時代に師匠だった尾花監督の下、4年連続で防御率が4点台に落ち込む投手陣の再建に力を尽くす。
 裏方として新たなスタートを切る元選手も多い。日本ハムにはブルペン捕手として梶原有司(元愛媛)が入団。シーズン中も1軍に帯同予定で「どんな形であれ、野球を続けるチャンスをいただいた」と張り切っている。オリックスでは元福岡の渡邊隆洋投手と瓜野純嗣捕手がアシスタントスタッフに加わる。

(石田洋之)