調子の上がらなかったコングが、ようやく眠りから覚めた。カープの4番・栗原健太。2日の中日戦から14日の東北楽天戦までは球団新となる9試合連続マルチヒットをマークした。その後も毎試合ヒットを重ね、打率も急上昇中だ。さらに34打点はラミレス(巨人)に次いで、リーグ2位タイ。Bクラスに沈むチームの中で、4番としての役割をしっかり果たしている。今やカープの欠かせぬ主砲に当HP編集長・二宮清純が打撃論を中心に話を訊いた。
二宮: 栗原選手には一発長打のイメージが強いのですが、実際にはプロ入りから30本塁打以上、打ったシーズンがない。あなたの力なら充分、30本以上は可能な数字だと思いますよ。
栗原: 僕の打球は基本的にライナー性であまり上がらないんですよね。もうちょっと角度がつけば、本数は増えるんだろうなとは思っています。

二宮: 昨シーズンのバッティングの連続写真を見ると、後ろに重心がしっかり残っていて、いいフォームですね。まさに長距離砲らしいフォームです。
栗原: でも欲を言ったら、トップができたところで上体はまっすぐになるようにしたいですね。このフォームでは上体が後ろに倒れすぎている。漢字で書くと“入”みたいに見えますよね。それを“人”にしたい。

二宮: 確かにちょっと後ろに体重が残りすぎているかもしれません。
栗原: これだと右肩がどうしても下がってしまうので、スイングがアッパー気味になってしまいます。この写真を撮った時は、まだ状態はいいほうですが、悪い時にはもっと後ろに倒れていると思います。そうすると打球も上がらないし、打ち損じのゴロが多くなる。

二宮: ホームランバッターは皆、打球を飛ばすためのポイントを持っています。たとえば王貞治さんは「ボールを運ぶ」と言ってました。門田博光さんなら「ボールを砕く」、掛布雅之さんなら「ボールを潰してスピンをかける」と。栗原選手も何かきっかけをつかめば、ホームランを量産するのではと期待しています。
栗原: やはりボールを飛ばすのはコツだと思うので、僕もそのレベルを目指してやっているんですけどね。自分の中でも100ある力のうち、まだ70くらいしか出せていない感覚があります。100あるパワーがまだ完璧にボールに伝えきれていない。その殻を破れば、もっと打てるし、もっと打球が上がると感じています。ここは今後の課題ですね。

二宮: ご自身でも30本塁打は目標として、かなり意識していると?
栗原: 確かに打ちたい気持ちはありますけど、あまりホームランにこだわり過ぎてもバッティングが崩れてしまう。だから昔から意識しているのは、打率3割と100打点です。

二宮: となると打率.332、103打点を記録した2008年が理想に近いシーズンですか?
栗原: そうですね。4番として、とにかくチャンスで打ちたいですし、勝負強いバッターになりたいですね。試合の流れを変えるような一打を打つことが僕の理想です。

二宮: 自分の理想から逆算して、バッティングの完成度はどのくらいでしょう?
栗原: 08年のオフにヒジの手術をする前までは、ある程度近づいていたんですけど、去年はもどかしかったですね。ヒジが痛いので思いっきり振れなくて、どうしても当てに行くようなバッティングが多くなった。そうすると肩が開いたり、いい時の感覚からズレてしまう。それまでが良かっただけに、なかなか感覚が戻りきっていない面はありますね。

二宮: ヒジの痛みが残るのは肉体的なものですか? それとも精神的なもの?
栗原: 両方ありますね。打ち始めはやはり「大丈夫かな」という不安がありますし、実際に詰まったり、先っぽに当たるとズキンと痛みが走ります。

二宮: 数年前からはアメリカで自主トレを行なっていますね。それはヒジへの影響も考えていると?
栗原: そうですね。アリゾナは気候もいいですし、何よりトレーニングで使わせてもらっている施設はメジャーリーガーもたくさん来ているので、勉強になります。僕は今年で5回目になるのですが、フレンドリーに話せる選手も出てきました。

二宮: 向こうの選手から「アメリカはいいぞ。メジャーに来いよ」とか声をかけられているのでは(笑)?
栗原: 「FAはいつだ?」とか、「こっちに来る気あるのか?」とか言われています。順調に行けば国内FAは来年、海外移籍なら再来年の取得になります。どうするかは、その時点でじっくり考えたい。まぁ、ファンからは「阪神だけは行くな」とお願いされているんですけど(笑)。

二宮: 阪神には金本(知憲)、新井(貴浩)と続けて4番をとられていますからね。ファンとしても気が気ではないでしょう。最後に座右の銘を教えてください。
栗原: 座右の銘というか、好きな言葉は「気合」です。僕がまだ2軍にいた頃に清原(和博)さんからバットをいただいて、その時に「バッティングは気合だ」と言葉をかけていただきました。当時の僕にとって清原さんは神様のような存在。声をかけていただいただけでもうれしかったです。今もバッティンググローブには「気合」の2文字を刺繍しています。もうひとつは「焦らず、休まず、一歩一歩」。これは高校の監督からいただいた色紙に書いてあったメッセージです。今もこの言葉を思い出しながら、日々練習しています。

<5月20日発売の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2010年6月5日号)に栗原選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>