昨年5月、マンシングウェアKSBカップでツアー史上最年少優勝を飾り、注目を集める男子ゴルフの石川遼(東京・杉並学院)選手が10日、プロ転向を宣言し、都内で会見を開いた。高校の制服姿で登場した石川は笑顔をみせ、「今日からプロゴルファーの石川遼です。これからよろしくお願いします」と詰め掛けた300人の報道陣を前に挨拶した。
(写真:日本ゴルフツアー機構のメンバー登録証を手に喜ぶ石川)
「覚悟」。にこやかな表情とは裏腹に強い言葉が何度も飛び出した。おそらく会見の中でもっとも石川が多く口にした言葉だろう。史上最年少プロとして、そして現役高校生として二足のわらじを履く生活がいよいよスタートする。

 石川は現在、16歳4カ月。日本プロゴルフ協会によると山浦記義プロの16歳11ヶ月(1978年に転向)を上回り、史上最年少プロの誕生となる。また現役高校生の男子プロは実質初めて。女子では宮里藍が03年、18歳3カ月でプロ宣言し、現役高校生プロが生まれた例がある。

「毎日ゴルフだけでは納得できない。できる限り、勉強と両立させて勉強もゴルフも上達させたい」
 あえて厳しい環境の中に身をおく“覚悟”ができたこと。それが今、ここでプロ転向した最大の理由だ。

「杉並学院はただ勉強に行くだけではない。クラスメイトも好きだし、話すのが楽しみ」
 まだ高校1年生。学校生活も満喫している。この日も午前中、音楽と世界史の授業を受けて会見に臨んだ。
「ハードスケジュールになったときに自分の気持ちを強くもてるか。“(両立の)覚悟ができた”と口にしたことを忘れないようにしたい」
 本人も「前例のない中でどこまでやっていけるか」とチャレンジを楽しみにしている。もちろん学校側もシーズンオフや長期休暇中にフォローすることで全面バックアップする意向だ。

 プロ入りの決意を固めたのは今年に入ってから。「毎日毎日ここまで考えながら生活したことはない」。そう語るほど、自分の進路に悩んでいた。最終的には相談した父・勝美氏の一言が背中を押した。
「この生活を続けていけるならプロになっていいよ」
 すでに勝美氏は昨年の大晦日、JGTO(日本ゴルフツアー機構)へプロ転向の打診を行っており、年明け早々の発表が実現した。
(写真:長時間の質疑応答にも丁寧に答え続けた)

 決断の決め手となったと息子から言われた勝美氏は「僕の意見は決断した理由の10%にも満たないのでは」と語り、「彼の人生の今までの選択で止めたことは記憶にない。今回の決断も尊重したい」と今後も全面的にサポートしていく決意を示した。

 また子育ての秘訣を記者から聞かれると、「遼をみなさんがほめていただけるのであれば、それはゴルフがあったから。トンビが鷹を産んだのではない。トンビが産んだのはトンビ。それが鷹になろうと努力しているのだと思う」と回答。息子の成長を暖かく見守ってほしいとの親心をにじませていた。

 昨年の石川はツアー出場した8試合中、6戦で予選を通過した。プロであれば約2450万円の賞金を手にしていたことになる。今年もいきなりの活躍が期待されるが、「負ける覚悟のほうが大きい。勝つことよりも負けることのほうが多いと思う。なぜ負けたのかを追求していくことが大事。負けをムダにしないようにしたい」と、ここでも“覚悟”の一語が出た。

「プロゴルファーの中で一番ヘタクソ。課題はたくさんあって、すべてがすべて足りない」
 昨年の最年少Vからフィーバーが続くものの、本人は謙虚さを失っていない。
「ドライバーの飛距離をもうこれ以上、飛ばないというところまで伸ばしたい」
 すでに石川は平均300ヤード近くの飛距離を誇るが、プロとして更なる進化を誓った。

 プロデビュー戦は2月5日にオーストラリアで行われる全英オープン予選。すでに優勝を果たしていることから、09シーズンまでのツアー出場権は得ている。ただ、今季は「自分の体力と生活のリズムを考えて」、15試合程度の出場に抑え、来季は「大丈夫ならもう少し増やす」(いずれも本人談)予定だ。

 最大の目標はマスターズ制覇。小学4年生で抱いた夢だ。昨年は全日本アマで優勝することを目標に掲げてスタートした。それから1年。アマチュアどころかプロを相手に優勝を勝ち取り、プロゴルファーになるという夢を一足飛びにかなえた。
「こんなに早くかなうとは思っていなかった。でも、ひとつの夢がかなったのは自信になる」
 ゆくゆくは日本での賞金王、そして海外進出とオーガスタの舞台に立つこと――。夢は大海のように果てしない。

 今回の一報は海外のゴルフ専門番組でも配信された。「英語でのスピーチを」との求めにとまどいながらも、“I want to play with TIGER.(タイガー(・ウッズ)とプレーしたい)”と即答した。そして、“I would like to win MASTERS.(マスターズで勝ちたい)”とも。
 王子から真の王者へ――。16歳のプロゴルファーはプロ生活の第一打を大きく放とうとしている。
(写真:カメラマンのリクエストに応えてショットのポーズをとる)