2006年のJ2昇格後、9位、10位、14位、15位と成績が年々低迷している愛媛FC。今季は世界を知るストライカー福田健二の加入などで戦力を補強し、過去最高となる「8位以上」を目標にシーズンに臨んだ。昨季途中から指揮を執るイヴィッツア・バルバリッチ監督の下、堅守を誇った春先こそ好調な滑り出しをみせたが、夏場に入ってチーム状態は下降線をたどっている。現在は第20節を終えて勝ち点22の12位。目標達成には正念場だ。サガン鳥栖と1−1で引き分けた8月1日のホームゲーム後、監督に打開策を訊いた。
――まず、ここまでのチームの戦いぶりをどのようにみていますか?
バルバリッチ: 今季のリーグ戦は、J1を経験している2、3チームが抜け出して、後は拮抗した争いになるだろうと思っていました。予想通り、柏と甲府が抜け、残りはほとんど同じような勝ち点のレベルで団子状態になっています。我々としては、前半戦を終えた段階で勝ち点をもう4、5点多く積み重ねておきたかったのですが、それは叶いませんでした。

――前半戦で光ったのは守備です。特に4月は4試合で奪われたゴールはわずかに1。首位の柏に次いで失点の少ない時期もありました。
バルバリッチ: 最初の12、13試合くらいまでは、チームワークがしっかりとして、守備がオーガナイズされていました。ただ、得点は少なかったですけどね。

――おっしゃる通り、クラブの課題である得点力不足は解消されていません。16得点はリーグワースト4位タイです。
バルバリッチ: 攻撃に関しては、枚数もスピードもアイデアも不足しています。個による突破やシュートも少ないですね。せっかく前にボールを運んでも、FWが下がり過ぎているため、攻撃を組み立てるスペースをつくれていません。そしてサイドバックの上がりも少ないため、FWにボールが渡っても攻撃がつながらないまま、ボールを失っています。攻撃のスピードを低下させないためには、ボールに触る以前に周囲の状況を常に把握しつつ、どんなプレーをすべきかを考えておかなくてはいけません。

――そしてW杯中断前からは、失点も多くなり、ここまで6試合連続で白星から見放されています。何が問題だと感じますか?
バルバリッチ: まず守備に関してはストッパーにケガ人が多く(小原章吾が腰椎分離症で戦線離脱中、アライールも足の故障が相次ぐ)、うまく機能していない面があります。W杯での中断期間中に守備の再強化を行った成果が出ていないのが実情です。
 そして中断明けの富山戦、鳥栖戦とボールポゼッションができていない点も問題でしょう。中盤でパスミスをしては相手に勢いをつけてしまっています。サッカーはボールを自分たちが持たない限り、何も始まりません。ボールを持っていれば失点もしませんし、ボールは人よりも速く動かせますから、プレースピードも上がっていきます。ポゼッションはまさに基本中の基本。ここは早急に修正しなくてはなりません。

――猛暑の影響か、全体の運動量が落ちている点も気になります。
バルバリッチ: 本来、日本の夏の暑さを考えれば、欧州同様にサマーブレイクとウインターブレイクを導入すべきなのでしょう。しかし、それは相手も同じ条件ですから言い訳はできません。我々の問題としては、先にも言ったようにボールをミスから失うため、どうしてもボールの後ろ、相手選手の後ろを追いかける形になってしまう。それでより消耗が激しくなっているところがあります。

――中断期間中にはW杯がありました。ここから選手たちが学ぶことも多いのではないかと思います。監督はどんなことを選手に意識してほしいですか?
バルバリッチ: 今大会で明らかになったのは、個人プレーに頼る戦術は通用しないし、またそういうチームでは勝てないということ。優勝したスペインにしろ、ドイツにしろ、チームプレーに徹していた国が上位に来ていました。それはベスト16入りした日本も同様です。愛媛の選手たちには、サッカーで大切なのはチームワークだと再認識してほしい。

――監督はスカパー!で日本対カメルーン戦などの解説も連日、務められました。
バルバリッチ: スペイン時代にも毎週テレビに出演することがありましたが、今回はリーグ戦の遠征直後で(6月13日の札幌戦終了後に東京へ移動し、同日夜の試合から解説を行った)、最初は疲労もあって大変でした。ただ、徐々に雰囲気にも慣れ、他のサッカー関係者とも知り合えて(フィリップ・トルシエ元日本代表監督らとも共演)有意義な時間を過ごせましたね。また機会があれば、こういう仕事もやってみたいと思いました。

――監督がユーゴスラビア代表時代に指導を受けたイビチャ・オシム前日本代表監督とのかけ合いも楽しそうでしたよ。
バルバリッチ: 彼は旧ユーゴが生んだ偉大な指導者です。かなり走らせる監督でしたけどね(苦笑)。指導者になって、特に彼のやり方を意識しているわけではありませんが、選手個々に声をかけてコミュニケーションをとったりする点は共通しているかもしれません。

――まだまだシーズンは折り返したばかりです。巻き返しには何が必要でしょう。
バルバリッチ: 我々は試合に出るためにサッカーをやっているのではありません。勝つためにサッカーをしています。何より勝ちたいという情熱、欲がなければ、いい結果は生まれません。その点、唯一、チームで規範を守り、90分間を通しての動きが期待できるのは(右サイドバックの)関根永悟です。彼はチームのために前に積極的に出ることを繰り返してくれています。ただ、彼だけを走らせるわけにはいきません。90分間戦える人間が最低でもフィールドに5〜7人はいないと、選手交代をしながらクオリティを保って試合をすることができないのです。

――中断明けの富山戦では、「今いる選手はアクティブではなくて足が動かない選手が多い。5〜7人選手を変えてチームに新しい血を入れなければならない」と厳しいコメントを残されています。残念ながら選手の現状には不満があると?
バルバリッチ: 選手たちは練習に一生懸命取り組んでおり、試合でもベストを尽くしています。それでも勝ちに届かないのは何かが足りないということ。越智亮介や渡邊一仁のような若い選手に波があるのは仕方ないでしょう。彼らはハードワークもしていますから、それについて文句は言えません。
 しかし、たとえば(中盤の)赤井秀一は非常にプレーの質が高いにもかかわらず、それを出しきれていません。もっと攻撃に対してアクティブになってほしいのに受動的になっています。ドリブル、シュートの力があり、フィジカルの耐久力があっても常に同じリズムでプレーしていて緩急が感じられません。それは気持ちの部分でも同様で、彼のプレーから感情が見られないのも気になります。もっとメンタル面で積極的になれば、彼はJ1でもプレーできる選手です。それは非常にもったいなく感じています。同じことは(FWの)石井(謙伍)にも言えるでしょう。非常にクオリティの高い選手なのに、その力をチームのために発揮できていません。

――となると、今後はおっしゃるような“血の入れ替え”も出てくるのでしょうか?
バルバリッチ: チーム全体がポジティブに戦うためには、試合中にそうでない選手が2、3人も出てきてはいけません。そういう人間がいると、ウイルスのようにチーム全体に蔓延してしまいますからね。これからは、力のある選手、体力のあって走れる選手、ボールを持ったら前に運べる選手を基準に起用するつもりです。それが大幅な入れ替えになるかどうかは分かりません。メンバーは限られていますから、その中で選手の状態を見極めながら最善を尽くすしかないと考えています。

<イヴィッツア・バルバリッチ プロフィール>:愛媛FC監督
1962年2月23日、ユーゴスラビア(現クロアチア)・メトコヴィチ出身。現役時代はボランチ、DFと守備的な位置で活躍。スペインリーグ1部のブルコスCFなどで中心選手として17年間プレーした。旧ユーゴスラビア代表にも選出され、前日本代表イビチャ・オシム監督の下、ドラガン・ストイコヴィッチ現J1名古屋監督らとともに1988年のソウル五輪に出場。引退後はスペイン・アルメーリアCFコーチを皮切りに 今年までボスニア・ヘルツェゴビナリーグのNKシロキ・ブリェーグ監督及びボスニア・ヘルツェゴビナ代表コーチを務めていた。NKシロキ・ブリェーグではチームを1度の国内リーグ優勝及び2度のカップ戦準優勝に導いている。昨年9月より愛媛FC監督に就任。

(聞き手:石田洋之)