猛暑も、ようやく収まり9月を迎えた。涼しさが感じられる今日この頃だが、ボクシング界は、これから年末に向けて熱さを増し続けていく。
 今月は、日本人絡みの4つのタイトルマッチが行なわれる。
(写真:亀田戦に臨む河野は、昨年大晦日に初防衛を果たして以来の試合となる)
 まずは6日(現地時間)、米国テキサス州コーパスクリスティで行なわれるWBA世界バンタム級タイトルマッチ、王者ジェイミー・マクドネル(英国)vs.挑戦者・亀田和毅(亀田)。4カ月ぶりの再戦だ。この興行の前座では、亀田家の次男・大毅の1年9カ月ぶりの再起戦も組まれている。

 そして22日、東京・大田区総合体育館では、WBC世界バンダム級タイトルマッチ、王者・山中慎介の9度目の防衛戦。挑戦者は3位のアンセルモ・モレノ(パナマ)。元WBA世界同級スーパー王者に“神の左”が炸裂するのか? 興味深い一戦である。

 その5日後の27日には、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)でダブル世界戦。WBA世界フライ級タイトルマッチ、王者・井岡一翔(井岡)vs.挑戦者・同級10位ロベルト・ドミンゴ・ソーサ(アルゼンチン)、IBF世界ミニマム級タイトルマッチ、王者・高山勝成(仲里)vs.挑戦者・同級12位の原隆二(大橋)だ。いずれも王者の防衛が堅そうである。

 リング熱は、さらに10月へと続く。
 10月16日(現地時間)、米国シカゴ・UICパビリオンにおいて注目の日本人対決が実現する。WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチ、王者・河野公平(ワタナベ)vs.挑戦者・同級2位の亀田興毅の指名試合。

 日本人対決が、なぜシカゴで行われるのかといえば、亀田陣営が、2013年12月の世界戦混乱問題により事実上の国外追放処分を受けており、日本のリングに上がれないためだ。シカゴのファンにとっては、それほど興味をそそられないカード。日本で行わないことが勿体ない気はする。

 8月31日に、ワタナベジムにおいて記者会見が開かれ、河野vs.亀田が正式に発表された。この会見の出席者は河野とワタナベジムの渡辺均会長のみの予定。ところが、そこへ水色のスーツにサングラスの出で立ちの亀田興毅が乱入。「おー、チャンピオン」と唸りながら王者・河野に歩み寄り、次のように挑発した。

「いまのうちに、そのベルトを眺めておいてください。いまのボクシングじゃ俺には勝てへん。ちゃんと練習しといてください」
「力の差があり過ぎる。普通にやれば勝てる。KOできるでしょう」

 これは突然のハプニングだったのか、最初から両陣営で取り決めていた演出なのかは定かではないが、すでにこの一戦がテレビ東京で放映されることも決定しており、何とか盛り上げたいとの意図が見え隠れする。

 この試合で、もし興毅が勝利し、ベルトを腰に巻いたとすれば、日本人としての記録を更新する4階級制覇(ライトフライ、フライ、バンダム、スーパーフライ級)となる。本来なら偉大な記録のはずだ。しかし、ほとんどのメディアは、これに触れようとはしない。それは3階級を制覇している亀田の対戦相手の質、試合内容を考えた時、評価するに値しないとの思いが強いからだろう。

 理由は、もうひとつある。
 スーパーフライ級には、“世界最強”と呼ばれるに相応しい男が2人いる。ひとりはWBC世界王者のカルロス・グアドラス(メキシコ)、もうひとりはWBO世界王者の井上尚弥(大橋)だ。この2人に挑むことなく世界のベルトを手にしたとしても、それは決して高い評価が得られるものではない。

 もし、亀田が井上に挑んだとすれば(おそらく勝ち目のない相手に亀田が挑むことはないだろうが……)、勝敗は見えている。

 だが、今回の河野戦に関しては予想が難しい。いずれにも勝機はある。
 よって、テーマは「亀田興毅の4階級制覇なるか?」ではなく、「河野は真の強者なのか?」に移行されよう。パンチ力、テクニックは互角と見る。ならば、残された要素はメンタルだ。

 事実上の国外追放処分を受けている亀田興毅にとっては世界戦に挑めるだけで恩の字。4階級制覇の勲章が転がり込めばラッキーだ。そう考えて挑戦者は開き直って楽に闘える。

 対して王者・河野公平にかかるプレッシャーは大きい。慣れぬ海外での試合でもあり、また左脇腹の負傷明け。器用なタイプでもない。この苦難を乗り越えて、河野が真の世界王者になりうるか否かが“10・16シカゴ決戦”の最大の見所だろう。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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