1 まるでパーネル・ウィテカー(米国、ライト~スーパーウェルター4階級制覇・世界王者=2001年引退)を見ているようだった。かつて12度の防衛を果たした前WBA世界バンタム級スーパー王者アンセルモ・モレノ(パナマ)のことだ。彼のディフェンス技術は素晴らしく、“神の眼”とのフレーズも決して大袈裟ではないと感じた。また、試合の流れをつくるセンスも卓越していた。

 9月22日、東京・大田区総合体育館で開催されたWBC世界バンタム級タイトルマッチ、王者山中慎介(帝拳)×モレノ戦は、判定決着ではあったが、見応え十分の好勝負だった。

 8ラウンド終了時に公開された採点では、山中はモレノに僅かながらリードを許していた。続く9ラウンドも挑戦者にポイントを奪われてしまう。

 しかし、ここから山中が“強さ”を発揮する。自分の形をつくらせてもらえぬ中、10、11、12ラウンドでポイントを奪い返したのだ。“神の左”こそ炸裂させることはできなかったが、巧者モレノを技術戦で制してみせた。今年のベストバウト候補となる一戦だった。

 その5日後の27日、エディオンアリーナ大阪(大阪府立体育会館)では、王者の井岡一翔(井岡)が、挑戦者10位のロベルト・ドミンゴ・ソーサ(アルゼンチン)を迎え討つWBA世界フライ級タイトルマッチが行われた。

 結果は井岡の判定初防衛。ジャッジ3者のうち1者が128-108、残り2者が119-109と採点した通り、井岡の完勝だった。だが、この内容に物足らなさを感じたファンは少なくなかったことだろう。ソーサは、井岡戦が決まった時点ではランキング10位以下にいた格下の選手。多くのファンは井岡のKO勝ちを期待していた。

「安全運転で防衛を果たした」と言われてしまえば、それまでだが、ここは井岡が“凄み”を見せつけるべきであっただろう。この辺りは今後の課題か。

 さて、早いもので今年も10月を迎えた。
大晦日には今年もボクシングのビッグマッチが予定されている。

 TBSは井岡の2度目の防衛戦を放映する予定。カードは元王者ファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)とのリマッチだ。レベコは、ソーサほど甘くはない。ここで井岡の真価が問われよう。

 テレビ東京も、WBA世界スーパーフェザー級王者内山高志(ワタナベ)の防衛戦を軸に今年もボクシング中継を行う予定。フジテレビも大晦日ではないが、12月29日にWBO世界スーパーフライ級王者、“怪物”井上尚弥(大橋)の防衛戦を放映する。拳闘の熱さは年末に向けて加速する。

 また今年の大晦日は、ボクシングのみならず、総合格闘技も復権を期す。

 例年、両国国技館で開催されている『イノキ ボンバイエ』に加え、『PRIDE』が復活する。いや正式に言えば『PRIDE』の名称は『UFC』陣営に譲渡されているため使用できないが、当時の『PRIDE』主催メンバーが総合格闘技スーパーイベント開催を決めている。場所は、さいたまスーパーアリーナとなる予定で、このイベントはフジテレビで放映されるようだ。エメリヤエンコ・ヒョードル(ロシア)の復帰戦のほか、『PRIDE』で活躍したファイターたちが数多く集結する。これに関しては近く会見が開かれるので、注視したい。

 さて、どのイベントを観に行くべきか。例年以上に大晦日が楽しみになってきた。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)

1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文春文庫PLUS)『情熱のサイドスロー〜小林繁物語〜』(竹書房)『キミはもっと速く走れる!』『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』『キミも速く走れる!―ヒミツの特訓』(いずれも汐文社)ほか多数。最新刊は『忘れ難きボクシング名勝負100 昭和編』(日刊スポーツグラフ)。

連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)


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