第299回 秋の3大ビッグファイトを占う 〜メイウェザー、ゴロフキン、コット、カネロが出陣〜

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 無敗の5階級制覇、フロイド・メイウェザーの次戦が約1週間後に迫ったが、アメリカ国内にも独特のBuzzは漂っていない。対戦相手が格下のアンドレ・ベルトとあれば、それも仕方ないのだろう。しかし、メイウェザーが今戦後の引退を表明していることもあり(ほとんど誰も信じていないのが事実ではあるが)、ファイトウィークに入ればそれなりに盛り上がるのではないか。
(写真:メイウェザーの引退試合(?)から、今秋は注目ファイトが相次いで開催される Photo By Esther Lin/SHOWTIME )
 そして、この一戦を皮切りに、アメリカ国内で秋のビッグファイトシリーズが幕を開ける。ゲンナディ・ゴロフキン、ミゲール・コット、サウル・“カネロ”アルバレスといったトップスターが次々とビッグファイトに臨み、ファンをエキサイトさせる季節になりそうである。

 2015年が終わる頃、最大のウィナーとして記憶されるのは誰か。今回は注目の3大戦の見どころを探り、勝敗の行方を予想してみたい。

9月12日 ラスベガス MGMグランドガーデン・アリーナ
WBA、WBC世界ウェルター級タイトル戦

WBA、WBC王者
フロイド・メイウェザー(アメリカ/48戦全勝(26KO))

WBA暫定王者
アンドレ・ベルト(アメリカ/30勝(23KO)3敗)
 
 稀代のディフェンスマスターが、過去6戦で3勝3敗と停滞する元プロスペクトの挑戦を受ける。メイウェザーの敗北どころか苦戦の要素を探すのも難しく、おかげで米国内においてこのイベントの前評判は極めて低い。

 ハイチ系アメリカ人挑戦者の売り物はパワーと身体能力。ときに無鉄砲なまでに打ち合いを好むベルトにもパンチャーズチャンスはゼロではないが、無敗記録に尋常ではない執念を燃やすメイウェザーの方に油断はあるまい。序盤の相手の攻勢を容易に見切った上でポイントを積み重ね、無敗王者が勝ちパターンに持ち込む姿が目に浮かぶようである。

 ベルトの打たれ脆さを考えれば、メイウェザーがカウンターでダウンを奪うシーンも想像できる。その気になれば2011年以来のKO勝利も十分に可能だろう。ただ、メイウェザーは最後まで慎重に戦い、お決まりの判定勝利が有力か。
(写真:ベルトが勝った場合、東京ドームでのマイク・タイソン対ジェームス・ダグラス戦以来、最大の番狂わせとして記憶されるだろう Photo By Esther Lin/SHOWTIME)

「アンドレ・ベルトはエキサイティングでタフな選手。彼は倒れても立ち上がってくる。僕も限界まで追い詰められるだろう」
 発表会見の際、メイウェザーはそう語ってはいた。しかし、強敵には侮辱的な言葉を吐き、格の落ちる相手は絶賛してファイトの商品価値を上げようとするのが、この選手の常套手段。対決直前まで挑戦者に対して好意的なことが、ベルト戦の魅力の乏しさを何よりも物語っているようでもある。

 まずは順当にメイウェザーが圧倒的なポイント勝利を飾り、ファイト後に、とりあえず引退発表。そして、年末から来春にかけて復帰の意思を表明し、通算50連勝目を大イベントにすべく動き出すというのが最も妥当なシナリオではないだろうか。

予想: メイウェザー、大差判定勝利


10月17日 ニューヨーク マディソン・スクエア・ガーデン(MSG)
WBA、WBC、IBF世界ミドル級王座統一戦

WBAスーパー、WBC暫定王者
ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン/33戦全勝(30KO))

IBF王者
デビッド・レミュー(カナダ/34勝(31KO)2敗)

 今秋のビッグファイトシリーズの中でも、KO決着の可能性が最も高いのはミドル級統一戦だろう。20連続KO、14連続KO防衛を続けるカザフスタンのデストロイヤーと、カナダが誇るピュアパンチャーの激突。リング誌のダグラス・フィッシャー記者は、「22年前のジュリアン・ジャクソン対ジェラルド・マクラレン戦以来、最高のミドル級パンチャー対決」と記している。
(写真:笑顔の倒し屋ゴロフキンは、これまでで最も危険な相手を迎えた Photo By Rich Kane/Hoganphotos/K2/GBP)

 ファン垂涎の興行は、チケット売り上げも発売開始直後から絶好調。伝統のMSGの大アリーナに2万人前後の大観衆が集まり、近年有数の素晴らしい雰囲気をつくり出してくれるはずだ。

 ともにアグレッシブな現代の倒し屋同士の一戦は、序盤から激しい打ち合いが濃厚。キャリア、スキルに勝るゴロフキンがやはり有利であることは間違いない。やや単調になりがちなレミューのパターンを覚えた後、ボディか顔面への左フック、右クロスで致命的なダメージを与える展開が想像できる。

 ただ、パワー、恐れを知らない積極性、安定したコンディショニングを備えたレミューにも、勝機はあると見る関係者も少なからず存在する。
 アメリカのファンを喜ばせることを意識するあまりか、カーティス・スティーブンス戦、ウィリー・モンロー・ジュニア戦でのゴロフキンは少なからず被弾するシーンも見られた。やや苦しんだこの2戦の相手が、ともに身体能力に秀でた黒人選手だったのは偶然ではあるまい。白人ながらバネに定評あるレミューのスピーディなパンチが序盤にヒットし、王者に多少のダメージを与えればおもしろくなる。

 いずれにしても、現時点でひとつだけ確実なのは、ゴロフキン対レミューは観客を歓喜させる試合になるということ。 「Exciting while it lasts(試合が続く限り、エキサイティングな戦いになる)」。このファイトを予想するとき、関係者の間ではそんな表現がよく使われる。気っ風の良い両者は真っ向から打ち合い、中盤あたりまでに劇的な結末な訪れる。10月17日の夜は、ボクシングファンが溜飲を下げる珠玉の時間となることだろう。

予想: ゴロフキン、6ラウンドTKO勝利


11月21日 ラスベガス マンダレイベイ・イベントセンター
WBC世界ミドル級タイトル戦(155パウンド契約ウェイト)

王者
ミゲール・コット(プエルトリコ/40勝(33KO)4敗)

元WBA、WBC世界スーパーウェルター級王者
サウル・“カネロ”アルバレス(メキシコ/45勝(32KO)1敗1分)

 中南米が誇る人気ボクサーの対決は、今年度下半期のボクシング界のハイライトと呼べる一戦である。キャパ12000人程度と小ぶりのマンダレイベイが開催地になったこともあり、チケットはプラチナ化が決定的。メキシコ対プエルトリコのライバル関係の系譜を継ぐビッグファイトとして、試合直前のラスベガスは華やかな雰囲気に包まれるに違いない。
(写真:ラテンの夢対決はメイウェザー対マニー・パッキャオ戦に次ぐ大イベントになる Photo By Gene Blevins/ROC/GBP)

 勝敗予想の方は、25歳と若いカネロがやや有利と見る声が多い。メイウェザー、オースティン・トラウト、エリスランディ・ララといったアウトボクサーに軒並み苦戦したカネロだが、ほぼ同サイズ、同タイプのコットは相性的にやりにくい相手ではない。要所に的確な高速パワーパンチをヒットさせ、コットにダメージを与えるシーンもあるだろう。西海岸開催という“地の利”もあって、十分なポイントをコレクトしていくのではないか。

 ただ、35歳のコットの豊富な経験、スキル、いまだ衰えないパワーも侮れない。メイウェザー、トラウトに連敗した頃には限界説も囁かれたが、過去3戦はデルビン・ロドリゲス、セルヒオ・マルチネス、ダニエル・ギールに好内容で連勝。ロドリゲス戦から組み始めたトレーナーのフレディ・ローチとの相性の良さも自ら公言しており、キャリア晩年に来て評価と商品価値を取り戻した感がある。

 どちらにもKOチャンスはあるが、百戦錬磨のコットがアウトボクシングに挑むことも考えられる。カネロは若さの割に手数が少ないだけに、この試合は“KO必至”とまでは言い切れない。意外におとなしいチェスマッチになり、ファンを少々落胆させる可能性もありそうだ。

 それでも、マッチメイクの時点で結果が読めがちなボクシングにおいて、正真正銘の“何が起こるかわからない”ファイトは魅力たっぷり。新旧王者のドリームマッチは、特に全米のラティーノたちを高揚した気分にさせることだろう。
 2015年最後を飾るカーニバル的な雰囲気の中で、それに相応しいドラマが生まれることを期待して開始のゴングを待ちたいところだ。

予想: カネロ、僅差(2−1)判定勝利


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。

※杉浦大介オフィシャルサイト>>スポーツ見聞録 in NY
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