山中、V9達成! 〜ボクシング世界戦〜

“神の左”で“亡霊”退治とはならなかった。山中はV9を達成したものの、スプリットデシジョンでの薄氷の勝利。「最後まで左が当たらなかった。苦しい戦いだった」と山中は振り返った。

序盤は探り合いとなった。互いにジャブで距離を掴みながら、次の手を窺う。「神の眼を持つ」と自称するモレノのディフェンステクニックは高い。山中のパンチが空を斬る場面もあったが、4ラウンド終了後の公開採点では1人がドロー、2人が39−37で山中を支持した。
「4ラウンド終わっていけると感触はあった」という山中だったが、モレノもテンポを上げてきた。互いに単発だけでなくワンツーも決まり始めた。中盤はモレノが優勢。8ラウンド終了後にはジャッジが2人がドロー、1人がモレノを推した。

このままでは分が悪い10ラウンド。山中も「気持ちの勝負」とラッシュを仕掛ける。クリーンヒットこそないが、連打や左のブローが当たりはじめ、モレノも脅かす。そのダメージは明らかで、モレノはクリンチで逃げる場面が目立つようになった。4500人が詰めかけた大田区総合体育館。地鳴りのような歓声が、逆転を狙う山中を後押しする。
11ラウンド、モレノの動きも鈍りはじめ、山中の攻勢が目立つ。モレノも苦し紛れのクリンチで時間を稼いでくる。最終ラウンドも攻める山中に対し、モレノはカウンター狙いで積極的に前へは出てこなかった。打ち合いばかりではなかったが、互いの距離感を奪い合う濃密な36分間にゴングは鳴らされた。両者がガッツポーズを作ったが、どちらも勝ちを確信したものではなかった。

日本ジム所属の男子選手歴代4位タイの9連続防衛にも、山中は「もう少し力の差を見せるつもりだった。力がまだ足りなかった」と悔しがった。「勝ったので次があるので期待してください」と観客に誓い、リングを降りた。「バンタム級頂上決戦」を制した山中には、更なるビッグマッチが舞い込む可能性がある。王者統一戦や海外進出など期待は膨らむが、難敵モレノとの再戦を見てみたい。
(文・写真/杉浦泰介)